23 真実のネタ 【23-3】

【23-3】

事務所に戻ったのは、夕方近くになってからだった。

別の場所に出かけていた小菅さんはすでに戻っていて、

どこに行っていたのかと、質問される。


「知花ちゃん、あのフリーライターさんに呼び出されたんだって?」


適当なことを話し、ごまかそうとも思ったが、

優葉ちゃんは、私が千葉さんと出かけたことを知っていた。

小菅さんにも千葉さんが絡んでいることを、すでに伝えてしまっている。


「あ、はい」


どう言おう。ここは不自然なコメントができない。


「『SLC』へ……」

「『SLC』? それってあのエステの?」

「はい」


『MARBLE』の名前は出せなかった。『SLC』というのは、同じエステの企業。

この部分はウソだけれど、千葉さんがあの話しを事務所で披露するはずはないので、

ばれてしまうことはないだろう。

三村さんの目が、こちらを見た。

千葉さんの名前と、『エステ』という言葉に、何か感じるところがあるのだろうか。


「で、何をしに行ったのよ」

「『エアリアルリゾート』の記事を見てくれたそうで、
千葉さんの縁で、顔を出しました」

「何よ、あの会社も動くの?」

「さぁ……」


真実を話し、聞かなければいけないことはわかっている。

でも、明らかになった出来事があまりにも大きくて、頭が処理し切れていない。


「何、何、うちが『SLC』で仕事が出来そうなの?」

「いえ、あくまでも、雑談というか、おつきあいを広げるという意味のようで。
千葉さんに頭を下げてもらって、それで……」

「エ……そうなの?」


ウソをついてしまった。

もうこのあたりで話題を変えてしまわないと。

きっと、つじつまが合わなくなる。


「すみません、長い時間出ていたのに、何もならなくて……」


私は自分の席に戻り、とりあえず『NORITA』から持ち帰った書類を取り出した。

何か動いていないと、隣の人に見抜かれそうな気がしてしまうから。

熱心に見るふりをして、流れをやり過ごす。


「あ……そうか、そうか」


誰にも話しかけて欲しくないし、早く仕事の時間が終わって欲しい。

隣にいた三村さんは、何も言うことなくタバコを持ち、屋上へ行ってしまった。



今なら、上で話が出来る。

どういうことなのか、なぜこうなるのか、納得するまで話せばいい。



でも、私は怖くて立ち上がれない。

あまりにも色々とありすぎた出来事を、普段の雑談をするように、

屋上で聞いてしまっていいのだろうか。



私は、それからも仕事と向かい合い続け、

三村さんのいる屋上へ足を運ぶことを避け続けた。





「お先に失礼します」

「お……早いな、今日は」

「伊吹さん、そういうこと言いますか。明日始発で空港だって、
そう決めたのはそっちでしょう。早く帰りますよ、俺だって」


始発……

そうだった。ホワイトボードに伊吹さんと三村さんの名前が書いてある。

『ナビナス女子大』。代表となる『花嶋建設』は大阪の企業だ。

戻ってくるのは、3日後。


「遅れるなよ」

「はい」


仕事を終えた三村さんが、事務所を出ていった。

今日を逃したら、3日、この思いを抱えていないとならなくなる。

黙っていられるものではない。知らないふりなど出来ない。


「私もこれで……」

「あ、知花ちゃん、お疲れ様」

「お疲れ様です」


何も知らない塩野さんに見送られ、私はバッグを肩にかけ、エレベーターを待つ。

一足先に動いたエレベーターは、確実に三村さんを下へ運んでいた。

2……1……とライトが動く。

早く戻ってきてと念じながら、両手を握り締めた。



エレベーターから降りると、ビルの扉をすぐに開けた。

それほど時間が経っていないから、まだ目の前を歩いているだろうと思ったのに、

三村さんの姿はどこにもない。


「エ……ウソ。もう行ってしまったの?」


どこかに慌てて出かけるつもりだったのだろうか。

そう考えながら一歩前に出ると、私は腕を強く引っ張られた。


「キャー……」

「何、慌てているんですか」


ビルの影に、三村さんが立っていた。




【23-4】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【古川紗枝】
エステ業界で売り上げを伸ばす『MARBLE』、副社長の娘。
アメリカへ留学経験を持ち、食生活やエステの勉強を何年かし、日本へ戻る。
紘生とは母親同士が同級生で、兄妹のように育つ。

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