24 知らない顔 【24-1】

24 知らない顔

【24-1】

三村さんは、私が納得できるように、全てを語るとそう言ってくれた。

私も、部分的にあれこれ聞くよりも、その方がいいのかもしれないと頷き返す。


「まず、『折原製薬』のことですが……」


三村さんの実家は、確かに『折原製薬』の中だけれど、

本社の取締役は、彼の大叔父に当たる人だという。

それぞれの息子たちが、『製薬部門』と『病院』、

そして『化粧品部門』などにわかれ、グループ企業をまとめていて、

『折原國男』、三村さんの父親は、その中でも『化粧品部門』のトップに立っていた。


三村さんの伯父や従兄弟の中で、男性人は全てグループ企業に入り、

『折原』をさらに発展させるために動いている。

一人だけ組織を飛び出してしまった三村さんに対する、嫌みのようなものを、

一身に受けているのが、嫁に入ったお母さんと言うことだった。


「幼い頃は、味方のいない母が、ただかわいそうだと思っていました。
本家の伯母2人は、元々従兄弟同士で、揃って嫁に来たからです。
後の一人は娘だったので婿をもらった立場、親戚同士が集まっても、
『他人』となるのは母だけで、一生懸命、気をつかっているように見えました」


同じ『嫁』という立場なのに、三村さんのお母さんだけが離れているという構図。


「だから俺は、父の仕事を継ぐことで母が楽になるのだろうと、
幼い頃は、ただ、そう思うことしか出来ませんでした」


何も知らない頃は、自分のいる場所が世界の全てだと思っていた。

世の中の動きなど何もわからない子供は、高校に入学し、

将来の夢を自由に話す友人たちと付き合うちに、

自分の行き方や考えに、少しずつ違和感を持ったのだと話してくれる。


「違和感……」

「そう、違和感です。他の家の中で暮らしたことなどないから、
自分の環境が特別だと思うこともなかったですし、
いつも親戚が大勢いることが当たり前に育っていました。
『折原製薬』、俺は、その世界しか知らなかったのです。でも、高校では違っていた。
自由に将来の夢を語る友人に比べ、ただ決まった道しか許されていない自分が、
間違っているのではないかと……」


公園のベンチに座ると、形のおもしろさに夢中になったり、

美術館などへ行くと、他の人がつまらないというものでも、なぜか興味がわいた。

それは私も一緒。


『好きだ』ということは、どういうことなのか、『夢』とはどういうことなのか、

三村さんは当時、自問自答を繰り返した。


「それでも、結局は自分の運命だと、自分自身に言い続けてきました。
その道を両親も作ってくれていましたし、歩けばどうなるのかという見本も、
見せてくれていましたし……。でも、ただ毎日考えても、心が納得出来なかった。
だから、くすぶった気持ちを発散するために、家族に内緒でデザインを勉強し、
表現出来さえすれば諦められると思いました。トライして、それを思い出に出来たらって」


経験し、思い出にすることで、

三村さんは気持ちの区切りをつけるつもりだったのだろうか。


「でも、逆でした。どうしてもこの世界で仕事がしたい。
その思いが強くなってしまって、2つの顔を自分で作りましたが、
以前話したような出来事が起こってしまい、弾け飛びました」


社会人2年目、

三村さんは、化粧品部門で取引をする『オリーブオイル』の工場を見るために、

イタリアへ出かけていた。そこで友人の裏切りを知り、

気持ちが切れてしまったというあの話に、つながるのだろう。


「本当に辛いのは、怒られることでも、泣かれることでもなく、
自分という人間を、好きになれないことだとその時に思いました。
一度しかない人生なのに、どうして人のことばかり考えて生きているんだろうと、
もう自分には耐えられなかった」



自分が好きになれない……



私も、幹人と我慢して付き合っている頃には、そう思っていた。

『どうして私は……』というフレーズばかり、頭に浮かべて……

未熟だ、才能がないと、そればかりを自分に貼り付けていた。


「流れた生活の中で、一度だけ母と連絡を取ったことがあります。
この作品で賞を取ったことが、マスコミにばれてしまい、
そのことで母は俺がどこにいるのかを掴んで、で、連絡が入ったのです。
無視をして、周りに迷惑がかかるのは困るので、電話をしました」


紗枝さんの話だと、三村さんがいなくなった時にも、体調を崩されたと聞いた。

三村さんのお母さんにしてみたら、唯一の理解者だと思っていた息子に、

裏切られたという思いが、強かったのだろう。


「日本に戻れ、会社に戻れ、今ならまだ間に合う。それは嫌だ……
その繰り返しで。地位もお金もいらないと、何度言っても理解をしてもらえない」


地位やお金……それでも、折原家にお嫁さんとして入ったお母さんとしては、

当然のセリフだろう。

いきなり主張がかみ合うわけがない。


そこまで、頑張って語っていた三村さんは、言葉を止めてしまった。

どうしてここで止まるのだろう。

私は、なぜなのか、どうしてなのかと思いながら、次の言葉を待つことしか出来ない。



納得するように語ると、そう言ってくれた。

ここは信じるしかなくて……



「それならば……会社の中に入らずに好きなことをするのなら、
違った形で会社に貢献しろとそう言われました」

「貢献?」

「はい。俺自身が会社で働くことはなくても、会社に貢献するということです」


貢献するとは、どういうことだろう。


「この間、少し話しましたよね、紗枝との婚約のことです」



『婚約者』



そうだった。

私が、幹人の名前を呼んでしまった日、

紗枝さんのことも勘違いだと三村さんが語ってくれたあの話の中に、確か……

そんな話が出ていたことを思い出した。




【24-2】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【折原紘生】
三村の本名。『折原製薬』の化粧品部門トップに立つ、折原国男を父に持つ。
実家との決別をするため、あえて名乗らずに生きてきた。
イタリアにいた時に、『J』の名前で、デザインの賞を取る。

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