24 知らない顔 【24-4】

【24-4】

始発に間に合うように部屋を出て、私は明け方自分の部屋へ戻った。

すぐにシャワーを浴びて、着替えを済ませる。


「さて……」


昨日、あんなふうに別れてしまった優葉ちゃんに、どう説明をしよう。

三村さんの言うとおり、悪いことをしているわけではないのだから、

堂々としていればいいことはわかっているけれど、仕事がしづらくなりそうで、

通勤の時間は、どこか気分が重かった。


「おはようございます」


いつも通りと念じながら、挨拶を済ませる。

優葉ちゃんも、特に何かを言うこともなく、朝はいつも通りに始まった。

いつもと違うのは、隣の席に、タバコがないこと。

今頃、伊吹さんと相手先に移動中だろうか。


「知花ちゃん、データ修正頼める?」

「はい」


私も精一杯仕事をしよう。

PCを立ち上げて、まずは頼まれていた修正からスタートした。





その日の昼休み。

優葉ちゃんは、目の前に座る私を、どこかにやついた目で見つめている。

こちらが言い出すまで、言わないつもりだろうか。

それなら、そちらが言い出すまで、何も言わないでいよう。


「あれからどうしたんですか、二人は」


ストレートに最初のパンチ。


「あれから? ん?」

「とぼけないでくださいよ、三村さんと二人で仲良く、
一緒に電車に乗っていったでしょう」


小菅さんがこちらを見る。

そうなのです。ごまかせないようなことが、起きてしまったのです。


「昨日? 知花ちゃんと三村君?」

「そうなんですよ、昨日は『花町』で乗り換えないとならないから、
知花ちゃんと帰ろうと思ったら、もう出ていて。で、すぐに追いかけたら、
下で……そう、考えたらあれも怪しかったですよ。二人で待ち合わせていたように、
なにやらひそひそ」

「待ち合わせてなんていないです。勘ぐりすぎ」


そう、待ち合わせはしていない。

あれは三村さんの方が、私をはめたのだから。


「あぁ、昨日なら、三村君とあれから『SLC』に出かけたのでしょう」


『SLC』

それは、私が『MARBLE』に行ったことをごまかすために、

咄嗟に出した企業名ですけれど。


「ほら、『エアリアルリゾート』の話しをしにいくって」

「は? あれからまだ仕事だったんですか?」


小菅さんは、私の方を見ながら、軽く眉を動かした。

このまま話に飛び込んで来いと言うことだろうか。


「そうです。下で三村さんに会って、ちょっとでも可能性があるのならって、
急遽顔出しして」

「うん、うん」

「エ? 顔出し? ウソ。だって三村さん、私に手を振りましたよ」

「手くらい振るでしょう」

「あ、いや、その……」


オーダーを運んできた聖子さんも、何を話しているのかと、話しに加わろうとする。


「昨日、三村さんと長峰さんが一緒に帰って」

「あら……」

「あ、だからそれは、仕事で」


小菅さん……ピンチです。

相手に聖子さんが加わりました。


「社長までは言えないんですよ。形になるのかどうかもわからないから」

「あら、まだ内緒ってこと」

「内緒というか、敵情視察のようなものです」

「敵情視察?」


話がごちゃ混ぜになりながら、なんとなくまとまっているのは、

小菅さんの腕。


「うーん……」

「あら、それなら優葉ちゃん、三村君と知花ちゃんを疑うってことは、
自分の発言を撤回するわけ?」

「撤回?」

「そうよ、自分で聞いた聞いたって、叫んでいたじゃないの」



『婚約者』



三村さんは、デザインの仕事を認めてもらいたくて、

紗枝さんとの結婚を承諾してしまった。

紗枝さんには撤回して謝罪をしたと言っていたけれど、

それで終わったと思っていいのだろうか。


「あ……まぁ、そうですけれど」

「ほら、冷めちゃうよ、食べちゃおう」

「あ、はい」


優葉ちゃんは出された『エビスパ』をフォークにクルクルと巻いた。




【24-5】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【折原紘生】
三村の本名。『折原製薬』の化粧品部門トップに立つ、折原国男を父に持つ。
実家との決別をするため、あえて名乗らずに生きてきた。
イタリアにいた時に、『J』の名前で、デザインの賞を取る。

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