25 チームワーク 【25-5】

【25-5】

仕事、仕事って繰り返してくるなんて。



そう、きっとみんな気付いているのだろう。

私が三村さんをどう思い、三村さんが私をどう思っているのか。

仕事のことを聞き出せと言うのは、上に向かうための口実。

本当は、二人でゆっくり話せという意味。

私は到着したエレベーターに乗り込み、屋上のボタンを押す。

少し前にうつむき加減で上へ向かった人を、なんとか励ましてあげないと。



みんなの代表として。



屋上に到着し、いつものベンチを見ると、三村さんがその前に立っていた。

タバコを持っていったのに、吸っていないように見える。

それだけ、ショックが大きいのだろうか。


「三村さん、何しているんですか」


返事が戻らないのはいつものこと。

私は、自分からどんどん近付いていく。

そして、こちらを向いた彼の胸に、自分から飛び込んだ。

包み込むように、腰に手を回す。


「何しているんですか、誰かが来ますよ」

「いいですよ、睨みつけてやりますから」


三村さんから少しだけ笑ったような声が届いて、私は彼の腕につつまれる。


「みんなが上に行けって、言ってました」

「みんな?」

「優葉ちゃん以外には、すっかりバレてしまってます」


そう、あの冷静な塩野さんも、一歩引いて、みんなを見守る伊吹さんにも、

私たちの思いは、すっかり見抜かれている。


「そっか……それなら関係ないね」


三村さんは私の顎に手を当てて、そっと顔をあげた。

朝から、こんなところでキスするなんて……



社長、不謹慎な社員ですみません。





あらためて二人でベンチに腰かけ、すっかり春の匂いをさせる風に、

吹かれてみる。


「こうなったら開き直らないと」

「うん」


事務所のみんなが認めてくれたことが、逆に割り切るきっかけを作ってくれた。

誰がどう思おうが、職業を選択する自由は、各個人にある。

いくら家が商売をしていても、それを継ぐのか継がないのか、本人が決めることに、

どんな問題があるだろう。


「紗枝があんなふうに話すのは、おそらく母もわかっているはずです」

「お母さんが?」

「はい。あまりにも連絡を寄こさないことに腹を立てているのか、
それとも、こうしてじわじわ邪魔をしているつもりなのかわかりませんが。
でも俺は絶対に諦めないし、屈しませんから」


諦めずに、自分の人生を進んでいく。


「わかっています」


そう、私も自分にウソをつかずに、やりたいことをやるためにここにいる。

人は、自分か他人、どちらかを傷つけながら生きていく。

それは三村さんが教えてくれたこと。

それならば、精一杯頑張らないと。


「また、そんな物分りのいい顔をして、長峰さん本当にわかってますか?
あ、いや、そう、長峰さんは変わりましたからね」


そういうと、三村さんは何がおかしいのか笑い出した。

私は、何がおかしいのかと、聞き返す。


「いえ、さっき、一生懸命俺を庇ってくれているんだなと、
長峰さんのセリフを聞いて、泣きたくなりましたよ」


私なりに、一生懸命、確かに庇ったつもりだったけれど、

効果があったのかは疑問。


「まぁ、内容として、思い切りずれている部分がありましたけどね」


やっぱり……


「笑わなくてもいいでしょ。私なりに、こう、
気持ちが前にが出せなくなる時の思いというか、なんていうのかな」


そう、どう説明したら言いのだろう。

思うことを思うとおりに出来る人にはわからない、じれったさ。

それを説明したつもりだったけれど。


「笑っているのは、嬉しいからですよ。本当に心の底から嬉しくて、
決意をあらたに出来たからです」

「決意? 何にですか」

「この職場を離れないことと……」



離れないことと……



「あなたを離さないという事……」



春だから?

なんだかふわふわとしたことばかり、言われてしまって……


「何、下を向いて照れてるんですか、いまさら」

「いまさらって……」


私たちは、これからも一緒に、互いを刺激しあって生きていける。

私は小さく何度も頷きながら、仕事の引継ぎをするために、

封筒からデザイン画を取り出した。




【25-6】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

≪Dressing 豆知識≫
タンスの数え方は、『竿』で数える。(一竿、二竿……)。
その理由は、江戸時代、タンスを竿で担いで運んだことからで、
当時は、竿を通す金具がついていた。

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