26 嫌みの渦 【26-4】

【26-4】

いつも思うことだけれど、三村さんのアイデアと実行力。

私なんてとても並べない。


「長峰さん。『花嶋建設』との打ち合わせ、大丈夫ですか」

「大丈夫ですよ」

「本当に?」

「……ウソ、ついているように見えますか?」


大変なことは多いけれど、ウソはついた覚えがない。

私なりに、全力で取り組んでいる。


「それならいいですが」


三村さんはタバコを掴み、立ち上がろうとするが、また動きを止める。

どうしたのだろう。何か問題があったのだろうか。


「俺、自分がやり遂げるつもりだったので、結構強引に描いたところもあるから。
建設の立場からすれば、細かい指示が多くて、きっと嫌がられるだろうなと」

「確かに細かかったですね。でも、やりたいことがわかりますから」

「文句を言われて、自分なら折れない自信もあるけれど、でも……」


でも……


「でも……私じゃ、頼りないですか」


実力不足なのはわかっているけれど、なんだろう。

ここで出会って1年と少し、初めて全面的に役に立っている気がして、

自分ではとてもやる気に満ちている。

私はそう話しながら、『大丈夫』と念を押した。


「何かあったら、隠さずに話してくださいね。意見を聞いて、納得することなら、
俺、折れますから」

「大丈夫ですって、何度言わせるんですか」

「……でも」


こうして心配してくれるだけで、私はまた少し強くなれる気がする。

三村さんが出したアイデアは、完成したら絶対に目を引くものになる。

迷っているような三村さんの手に、『WOLF』のタバコを握らせた。


「どうぞ、吸ってきてください。でも、吸いすぎはダメですよ」

「……はい」


三村さんは私に向かって、わかりましたと笑ってくれた。





5月も半ば、今朝は建設現場に出入りが多かった。

大学の関係者はもちろんだけれど、スポンサーからも数名、

進み具合を見学する人たちが姿を見せる。


「あ、わざわざ申し訳ありません」


いつもなら、脱力感満載の猪田さんが、今朝は妙に張り切っている。

ネクタイの締め具合もしっかりしているところを見ると、

今日がどれだけ大切な日なのか、それがよくわかった。


「どうぞ、中を……」


私はヘルメットを被り歩いてくる人たちに、頭を下げる。

その列の最後に歩いていた女性が、こちらに軽く手を振った。


「あ……」


千葉さん。

この仕事にも、彼女はまた絡んでいるのだろうか。


「どうも……長峰さん」

「どうも」


話したいこともとくにはないし、出来たら一緒にいたくはない。


「『レモネード』のことで、そんな顔をされてしまうのでしょうか」

「当たり前じゃないですか」


言わないつもりだった。言ってもどうにもならないことはわかっているのに、

あまりにも千葉さんが考えもなく話しかけるので、耐えられなくなる。


「千葉さん、あなたにも生活があるのだから、責める話ではないと思います。
でも、知ったから、真実だからと、何でも書いていいとは思いません」

「三村さん……いえ、折原さんのことですか?」

「はい」


それ以外に何があるのだろう。

『エアリアルリゾート』のことからずっと、かき乱すことしかしてくれない。


「あれは私が質問をしたわけでも、発言して欲しいと頼んだわけでもありませんよ。
インタビューをしたのは、『MARBLE』の次期経営者になろうかという、
古川紗枝さんに対してしたことです。彼女が彼女の中で考えたことを表現した。
それを私は素直に伝えた。それのどこが間違っているのですか?」


確かに、話をしたのは紗枝さん。

彼女にしてみたら、三村さんがこの仕事を諦めてくれることを願っているのだから、

当たり前なのかもしれない。


「千葉さんは、三村さんが記事になるのを嫌っていること、
以前からご存知だったじゃないですか。それなのに……」


あの記事で、三村さんがどれだけ傷ついているか、考えたことはないだろう。


「私は、ウソをついたことはありません。三村さんではなく、彼は『折原紘生』。
それが答えでしょう。世の中は、彼の都合がいいようにだけ、動くことはありません」


答え……

そう、それが答えなのだろう。

この人には、きっと何を言っても、伝わらない。


「三村さんが以前言ってました。
人は自分を傷つけるか、人を傷つけるかしながら生きているって。
人を傷つけたくなければ、自分が我慢し続けるしかありません。
でも、それでは生きている意味がないんです」


幹人の思うとおりに、自分を押さえ込んでいた私。

何一つ満足できるものが、この6年間になかった。


「傷つけた人のためを思って、しっかりと自分を出すこと……
中途半端に諦めたりせずに、やり遂げること、彼はそう思っています」


三村さんは、どんな困難があっても、諦めたりはしないだろう。

自分が傷つけた人たちのため、そして、夢の途中で亡くなった三村先生のため。


「千葉さんも、人を傷つけるのだから、覚悟を持って仕事をしてください」


私はそう言い切ると、これ以上話すことはない気がして、

千葉さんが進む方向とは逆の方へ足を向かわせた。




【26-5】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【三村栄吾】
紘生がデザイン学校で知り合った先生。
自らの病を知りながらも、亡くなる直前まで、全力でデザインにぶつかった人。
紘生が三村を名乗ったのは、憧れの人の名字だったから。

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