27 意地と恋の熱 【27-1】

27 意地と恋の熱

【27-1】

『そもそもあなたのやっているデザインなんて、遊びじゃないですか』



確かに、四角い板と、いくつかの棒があればテーブルにはなるだろう。

極端なことを言えば、ブロックが一つそこにあるだけで、座ることは出来る。

でも、私は自分の仕事を、遊びだなんて思ったことはない。

いや、雪村さんが言う『遊び』だと思ったことはない。

何が介護だ、何が政治家の秘書だ。

私は腹を立てたまま、一人駅に向かう。



でも……



猪田さんも犬井さんも、どこか冷たい目で私を見ていた。

明日から……



大丈夫だろうか。





次の日。まだ、梅雨には早いのに、肌寒い雨が降る。

私は傘をさしながら、現場に向かった。

今日と明日で、見本となる埋め込みの家具が、完成するはずだけれど。


「おはようございます。昨日は、途中で失礼しました」

「あぁ……」


猪田さんがこんな態度なのはいつものこと。

逆に、昨日のことをチクチク言われないだけほっとする。

気にせずに中に入り、材料が届いているのか、確認をした。


「あれ?」


本数が足りない気がする。

引き出しの前扉。微妙な角度をつけているので、

1つずつ、どこにはめ込むのかも全て決まっているのに。

どうしてここにないのだろう。


「犬井さん」

「はい」

「あの……埋め込みの板が数枚足りないような気がしますが」

「足りない」

「はい。今、数えてみたのですが……」

「いや、今朝の確認では枚数はあっていると、そう」

「はい、枚数はあっています。でも、これは枚数ではなくて、部品の種類が違います」


三村さんは、それぞれの引き出しに微妙な角度をつけた。

引き出しやすさと、引き出したときの見やすさ、入れ替えのことなど、

それは細かい部分をしっかり考えてのこと。

一見、どれも同じに見えるけれど、それぞれどの場所に入れるのか、

しっかりあわせてもらわないと、こちらが考えたデザインの意味が消えてしまう。


「どれでも、どこにでも入れていいというものではないので。
それは、最初の打ち合わせの時に、猪田さんにもお話しました」


相手がきちんと聞いていたのか、その部分に疑問はあるけれど。


「はぁ……そう言われても、私たちは運ばれてきたものを、
とにかく作り上げていくことが仕事ですので。
デザイナーさんと『花嶋建設』さんの行き違いを、擦り付けられても」

「擦り付けているわけでは……」


どうしよう。今日は確認だけを済ませて、事務所に戻るつもりだったのに、

これでは心配で任せていられない。

無理に埋め込まれでもしたら、最終的にズレが出たと、指摘されるかもしれない。

出来上がった見本を、学校側に見てもらう日は迫っているのに。


「猪田さん」

「何でしょう」

「材料が違います。お願いしているものと別のものが届いています」


私は、一番下にくるはずの板がここに届いていないことを説明した。

いくら見本だからといって、適当なことをされては困る。

猪田さんは、何を言っているのかという顔で。首を動かし始めた。


「材料が違う?」

「はい。埋め込み家具の板について、最初の段階でご説明しましたよね」

「説明?」

「はい。猪田さんは、数字でわけてあるから心配はしなくていいと、
そうおっしゃいました」

「……ん?」


知らなかったとは言わせない。私はきちんと説明した。


「運んできたのは業者でしょう、それを私の責任のように言われては困りますよ。
ったく、間違えているのなら、変えればいいだけでしょうが」


確かに、運送会社に頼んでいるのだろう。

でも、すべてを取り仕切るのが猪田さんの役割なはず。

私の立場で、運送会社の人にあれこれ言うことが出来ない。


「すぐに発送先の確認をお願いします。向こうに材料が残っているのか、
それとも、間違いがあるのか……」


建物を作る『花嶋建設』とは違い、『DOデザイン』の評価は、この家具たちだ。

魅力的だと思う人が増えてくれることを考え、何度も練り直している。

適当なことをされては、たまらない。


「わかりましたよ、電話をします」

「お願いします」

「はぁ……」


……ため息。

どうして猪田さんがつくのだろう。


「全く、面倒な人だ……」


猪田さんは、明らかに聞こえるように、そうつぶやいた。




【27-2】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【猪田剛士】
『花嶋建設』の現場責任者。思った通りの人事にならなかったことで、
取引先の社員や、下請けの社員に嫌みばかりをぶつけている。
それとは逆に、権力者にはめっぽう弱い。

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