28 親心と娘心 【28-5】

【28-5】

「あ……そうなんだ」


お嫁入り道具の鈴木さん。

『ナビナス女子大』と引き換えに、私から引き継いでもらった仕事。


「あ、そう……って、目がキョロキョロしていたじゃないですか。
あれ? 三村さんはどこだろう。まさか、私の熱が移ってしまったのかしらって」

「優葉ちゃん!」

「あはは……」


何を言っているのと言い返したけれど、本当のことを言うと、

完全に読まれているので、ただ恥ずかしい。

三村さんが隣にいること、タバコをいじりながら、

あれこれ頭をひねっている姿を見ながら仕事をすることが、

いつの間にか、私のリズムの一部になっている気がする。


「あ、そうだ、長峰、お前もこれを確認しておけ」

「はい」


伊吹さんから渡されたのは、『ナビナス女子大』の計画書だった。

すぐに担当した場所の確認をする。よかった、見本の出来でOKが出ている。


「社長、遅いですね」

「そうね」


そういえば、社長もいなかった。

全然、気付かなかったけれど。


「面接長引いているのかしら」

「そうですね」


面接?


「面接しているのですか、社長」

「あ……そうか、知花ちゃんは知らないのね。昨日、社長がね……」


小菅さんはそういうと、いきなり『アトリエール』を出してくれた。

開いてくれたページには、確か見覚えがある。


「この人、『林田家具』のデザイナーさん。ほら、賞を取った」



『道場逸美』さん。

そういえば、このシリーズものが好評だと、幹人からもよく聞いていた。

『林田家具』には、実力者が揃っていると……



三村さんは、このデザイン、『塊』って言うけれど。



「うちに入りたいって、連絡があったのよ」


『林田家具』を辞めて、うちに入る。


「彼女『林田家具』を辞めたということですか」

「そうらしいわよ。デザインに対する会社の考え方? まぁ、契約の金額なのか、
対応なのかわからないけれど、もっと自由に自分を出したいって……」


小菅さんの話の途中で、事務所の扉が開いた。

社長の後ろに、確かに一人の女性がついている。


「みんな、ちょっといいか」


『インテリアラウンド』で賞を取った道場さんが、私たちに向かって軽く頭を下げた。



『道場逸美』さん。

なぜ、わざわざ大手の『林田家具』から、

うちのような小さなデザイン会社に再就職を希望したのだろう。

幹人のお給料を考えても、『林田家具』の待遇に、

不満があるとは思えないのだけれど。

それとも、営業職とデザイナー部門では、それほど待遇に差があるのだろうか。


「今日から、道場逸美さんにも、仲間として加わってもらうことになった。
彼女は『林田家具』でデザイナーとして仕事をし、
『インテリアラウンド』の賞も受賞した経歴のある人だ。年齢は若いけれど、
実績はあるから、ぜひ競いながら、また刺激しあいながら、頑張ってくれ」


社長は、作業台を少し前にずらし、小菅さんの横に一つ席を作った。

道場さんはそこを使わないかと、指示される。


「あの……」

「何か」

「わがままですみません。私、冷房の風に弱くて。いつも上着を着ているのですが、
出来たら……」


道場さんが上を見ると、確かに冷暖房の機材が、ちょうど天井にあった。

もちろん、風向きは変わるけれど、気になる人はなるのかもしれない。


「そうか……それなら」


社長と、目があってしまった。


「長峰、お前こっちに来てくれないか」



席の移動を断る理由……



何もない。



「はい……」


私の机は、小菅さんの隣になり、

私が座っていた場所には、道場さんが座ることになった。




【28-6】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【犬井久作】
『花嶋建設』から仕事をもらう下請け会社の現場監督。
猪田に対して、間違っていると思っても、声に出せない。
仕事に対しては熱心で、口数は少ない職人肌の男。

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