28 親心と娘心 【28-6】

【28-6】

「嫌です! って言えばよかったじゃないですか」

「何を理由にして?」

「何って……三村さんが隣じゃないと、仕事になりません! とか」


ランチタイム。

今日は色々と役所の手続きがあるからと、

道場さんは面接だけを終えて、すでに退社した。

三村さんがいないこともあって、正式な挨拶などは明日ということになり、

いつものメンバーだけで『COLOR』にいる。


「そんなこと、普通言えると思う?」


内心そう思ったけれど、社長に言えるわけがない。

だから会社の人にお付き合いがばれてしまうと、大変。


「言おうと思えば……」


特に優葉ちゃん。


「優葉ちゃん、知花ちゃんを困らせるようなこと言わないの」

「小菅さん……」

「本当に、冷房の風に弱い人っているのよ。
道場さん、体調を崩したりすることが多くて、会社ともめたって言っていたし、
冷房が弱いって言われたら、したがってあげるしかないじゃないの、ねぇ」

「……そうですね」

「悪いわね、知花ちゃん、私が隣で」

「またもう、小菅さんまで」


優葉ちゃんは『エビスパ』を注文したので、フォークをクルクル回す。


「でも本当なんですかね、道場さんの退社理由」

「どういうこと?」

「待遇がどうのこうのって。どう考えても信じられないんですよ、
あれだけの大手辞めて、うちですよ、うち」


優葉ちゃんは、何か魂胆があるのではないかと、また空想を広げ始める。

魂胆があるかどうかはわからないが、私も内心そう思っていた。


「逆に何があるって言うのよ。スパイされるほど、
うちは『林田家具』のライバルではないでしょう」

「まぁ、そうですけどね」


道場さん、しっかりしていそうな印象だった。

私は、どんなデザインを描くのか、どんな発想をするのか、

退社したいきさつ以上に興味がある。

『インテリアラウンド』の賞を取るには、偶然だという言葉はありえない。


「一人増えてくれて、ちょっといいかな。私もそろそろって思いもあるしさ」

「そろそろ?」

「そろそろ子供、欲しいかなと……。カウントダウンもあるしさ、
向こうの親も、言わないけれど内心思っているとひしひし感じるのよ」


小菅さんは、そういうと、こういったものにも年齢制限があるからねと、

笑って見せた。





昼食を終えて事務所に戻り、しばらくすると三村さんが戻ってきた。

隣がいつもと違うことに気付いたようで、首が動く。


「長峰さん……あれ? あ、ん?」


隣にいると思ったのだろう。視線があちこちに動き、やっとここに戻ってきた。


「どうしてそこに座っているんですか」

「新しい……」

「新人さんが入りましたよ。道場さんという女性です」


優葉ちゃんは手をあげてそういうと、冷房の位置でそこに決まったと、

話を付け足していく。


「道場?」

「そう、ほら、『インテリアラウンド』の賞を取った人。
三村君『アトリエール』読んでない?」


小菅さんは、読んでいないのなら過去のを引っ張り出すといいと、

三村さんに説明する。


「読みましたよ、あの『ウッドライフ』ですよね、『塊』」

「『塊』?」

「はい。あれって『塊』でしょ?」


そう、道場さんの優秀な作品も、三村さんにとると『塊』らしい。


「その『塊』を作った人がうちへ?」

「そうよ。明日から一緒に仕事をすることになりました。
三村君がいなかったから、きちんとした挨拶はまだみんなしていないのよ」

「へぇ……」


三村さんは私の席まで来ると、納品があさってになりましたと、

完成したテーブルの写真を見せてくれた。

依頼人の要望通り、娘さんが幼い頃に使っていた椅子の材料も、

しっかり組み込まれている。


「うわぁ、かわいらしい」

「そうなんですよ。思ったよりもかわいらしい仕上がりになりました」

「はい」


思い出の品を使い、新しいものを作る。

材料もいいものを使っているからこそ、こういったリサイクルだけれど、

古さばかりを感じないものが作れるのだろう。


「どんな人でした?」

「どんな?」

「『塊』を作った人ですよ」

「うーん……」


どんな人かと聞かれても、そこまで話すことも出来なかったし、

席を移動することで、頭がいっぱいだった。


「まぁいいか、明日来るわけだし」


三村さんはそうつぶやくようにいうと、一人席に戻っていった。





次の日、春らしい陽気の朝、

『DOデザイン』に道場逸美さんが正式に入社し、私たちの仲間入りをした。

今日は朝から全員揃っているので、三村さんが入社した以来の挨拶となる。

本日の主役、『道場逸美』さんは、動きやすそうなパンツスーツで前に立ってくれた。


「道場逸美です。デザインが何よりも大好きで、この仕事を選びました。
『林田家具』から心機一転、みなさんの作品に刺激をもらいながら、
頑張りたいと思いますので、どうぞ、よろしくお願いします」


社長、それから伊吹さん、小菅さん。

三村さんの時と同じように、それぞれが挨拶をしていく。


「長峰知花です。デザイナーと営業と、両方仕事として動いています」


当たり障りのない、特に印象にも残らない挨拶だけれど、

こういったところで、冒険する勇気はない。

毎度思うが、これだけ前に出ることが臆病で、

どうしてデザインのような自分を押し出す仕事に着いたのかと、時々不思議になる。


「よろしくお願いします」


顔を上げて見た道場さんの口が、少し開いてすぐに閉じられた。




【29-1】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【犬井久作】
『花嶋建設』から仕事をもらう下請け会社の現場監督。
猪田に対して、間違っていると思っても、声に出せない。
仕事に対しては熱心で、口数は少ない職人肌の男。

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