29 気まずい時間 【29-4】

【29-4】

『絶対の自信』

業界が認める賞を取り、大手を辞めても、自分の思う仕事がしたいと、

入ってきた人だからこそ、言えるのだろう。



小菅さんは注文主のところへ行き、

塩野さんと優葉ちゃんは、何やら社長に頼まれたものを買うため、

30分前に会社を出て行った。


そろそろ……お昼。


「長峰、道場、食事行くなら先に行ってくれ。俺、残っているから」

「あ……はい……でも……」


伊吹さんにそう言われて、初めて気がついた。

そう、私と道場さんが残っている。


「三村が先に出たから、もう戻るだろう」


そう、三村さんは、『エバハウス』の仕事話が終わり、

ほとんどそのまま早めに昼食を食べに行ってしまった。

誰が出るのかと話している間には、何度か目があったけれど、

結局、声を上げられなかった私に怒って、イライラしながら出たに違いない。


「長峰さん、外に食べに出ます? それとも買いに行かれますか?」

「あ、うん……」


どうしよう。


「これから世話になるのだから、長峰……『COLOR』へ連れて行ったら?」

「『COLOR』ですか?」

「そうそう。新人が入ったことを知った聖子さんが、
きっと首を長くして待ってるからさ」


伊吹さんはそういうと、ペンを回しながら楽しそうに笑った。


「そうですね、そうします」


話の流れで、私は道場さんの二人で『COLOR』で食事をすることになった。





出来たら、小菅さんや優葉ちゃんがいてくれた方が、

話も切り出しやすい気もしたけれど。


「長峰さん」

「はい」

「もしかして、一人で食事をした方がよかったですか?」

「ううん、そんなことないわよ」


こうなったらそう、気になることは聞いてみよう。

もしかしたら、意外な共通点があるかもしれないし……


「伊吹さん、お世話になるっていっていましたけれど、
どうして『COLOR』なんですか?」

「うん。『COLOR』は向かいのビルの下にあるお店なんだけれど、
オープンするのに、備え付けの食器棚からチェストから、
全てうちのデザインを採用してくれたお店なの。
今でも、みんなよく使わせてもらっているしね。そう、特に『エビスパ』は美味しいわよ」

「『エビスパ』? あぁ、はい、はい。さっき屋上で三村さんが言っていました。
エビのクリームが濃厚で美味しいって。そうか、そのお店のことですね」

「うん」


三村さんが『COLOR』の宣伝? 三村さんって、そんなに初めての人に優しかったかな。

私は確か……大喧嘩した気がするけれど。


「『エビスパ』かぁ……」


いやいや、またそんなことを考えない、考えない。

ここは私も先輩らしく、話をリードしてあげないと。

目の前の信号が変わったので、一緒に歩く。


「聖子さんの質問攻めが、結構大変だって言ってましたよ」

「ん? あぁ、まあそうね」


聖子さんのことまで、話題になったんだ。


「道場さん、三村さんから色々と情報得てるのね」

「エ……」


あれ? 嫌みに聞こえたかな。


「そうですね。三村さんに、なんだか色々と聞きたくなるんです。なんだろう……
『林田家具』にはいないタイプだからかな」


道場さんは先に扉を開けてくれた。

聖子さんの『いらっしゃいませ』が聞こえてくる。


「『エビスパ』2つ」

「はい……」


聖子さんが、道場さんの方を見たので、『DOデザイン』の新しい仲間だと、

私が軽めに紹介してあげた。


「よろしくお願いします」

「はいはい。新人さんなのね」

「聖子さん、新人ではないのよ。道場さんは以前、『林田家具』にお勤めで、
『インテリアラウンド』という、賞まで取っている人なの。
私の方が年齢は上だけれど、キャリアも実力も、道場さんの方が全然上」

「いえいえ、長峰さん。それは……」

「まぁ、賞を獲った人? それは優秀なのね」

「そうそう」


道場さんは、偶然そういうものが作れただけだと、手を振りながら謙遜する。


「『DOデザイン』はすごいわね。三村君でしょ、道場さんでしょ。
実力者がどんどん入ってきて」

「うん……」


その通りだ。

6年間、ほとんど何も出来なかった私を底辺にして、優秀な人ばかりが入ってくる。


「では、お待ちください」


注文を取り終えた聖子さんがテーブルを離れ、私と道場さんの二人になった。




【29-5】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【道場逸美】
『林田家具』時代、『インテリアラウンド』という賞を獲得した。
しかし、会社の評価が低く、思った仕事が出来ないため、
『DOデザイン』に中途採用される。

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