30 理想と現実 【30-1】

30 理想と現実

【30-1】

『必ず三村さんが……』



確かに、『エアリアルリゾート』も、萩尾さんの仕事も、

三村さんがピンチを救ってくれた。

そう言われてみたら、隣にいてくれるから、

何かがあると、すぐに意見を求めていて……


「仕事の仕方って色々なんですね。『林田家具』だと、全てがライバルですから、
周りに自分のデザインを明らかにすること自体、あまりないんですよ。
それこそ、取られて勝手に使われることもありますし」


一人一人が、自分に自信を持っている。

幹人の仕事ぶりからも、自分たちは大手であるという思いがあることは、想像できた。


「計画して、プレゼンして、作り上げるところまでが、自分の責任というか。
まぁ、そういう性格の人が、集まっているのかもしれません。
あなたには負けませんって」


道場さんは、私より年下だけれど、

『インテリアラウンド』の賞を取り、仕事を受けてきた人、

幹人と私のことを知り、私が見なかった部分を見たことがある人、

そして……『絶対の自信』を持ち、全てを自分でこなせる意欲のある人、



この人に、私は先輩だと……何を語ればいいだろう。


「あぁ、本当に美味しい。私、ファンになります、この『エビスパ』」

「うん」


いけない。道場さんが食べ終わってしまう。

少しスピードをあげて、食べないと。


いつもなら美味しくて満足できる『エビスパ』なのに、

今日は何一つ感じられなかった。





『長峰さんのいいお仕事には、必ず三村さんが関わるんですね……』



席が隣だと言うこともあり、

自分のデザインが出来上がると、つい三村さんに聞くことが多かった。

いや、初めて出会ったときから、この人は実力がある人だと、

心の底から認めていたからかもしれない。

『あなたの思いに応えます』と言ってくれたことへの甘え、

いつの間にか、私は三村さんに何もかもを依存してきたのだろうか。


一人前に仕事がしたいと、そう気持ちを決めたくせに、

『一人前』に出来たことなど、どこにあるだろう。

自分が関わっていた仕事がきっかけで広がった話にも、前に出ることが出来なかった。


それはつまり……

私自身が、自分のものだという意識を、持てていないからかもしれない。


三村さんが、フォローしてくれていなければ、

私はまだ、何も出来ないままだったかもしれなくて。

事務所に戻り、色々な書類を見ながら、時々大きくため息をついた。





「お先に失礼します」


仕事に区切りがついたので、今日は早めに出ることにする。

エレベーター乗り場の前で、上から下がってくるのをボードを見ながら待っていると、

携帯にメールが届いた。



『今日、寄ってもいい?』



三村さんからのメール。

絶対に、今日のことを言われるはず。

気は重いけれど、断るのもまた、あらたに疑問を生みそうで。



『まだ、仕事終わらないの? すぐに終わるのなら、駅で待つけど』



そう打ち込み、エレベーターに乗り込む前に返信する。

どうせなら一緒に帰って、スーパーで買い物でもして、和やかに食事をしたい。



『『エバハウス』の話があるから、あと1時間くらいかかると思う』



『エバハウス』

そうか、道場さんとの話があるのか……



『わかった、部屋で待ってる』



私は一人で買い物をしようと決めて、駅までの道を少し早足で歩いた。





食事の支度を済ませて時計を見ると、8時を回っていた。

仕事熱心な二人だから、もっと時間がかかるだろうか。

すると10分後くらいに、インターフォンが鳴った。


「はい」

「俺……」


私は扉を開けて、三村さんを中へ通した。

三村さんは差し入れだと言いながら、かわいらしい小さなケーキをテーブルに置く。


「ありがとう、これ……」

「駅の改札を出たら、この袋を持っている人がいて。
配色がかわいいでしょ、で、寄ってみたわけです」

「へぇ……駅の近く?」

「うん……」


ロールケーキの専門店らしく、クルクルと渦巻きのイラストが描かれた包装紙。

そのデザインが、かわいらしくて、確かに目を引きそうだった。


「あ、美味そう」


いきなり、あれこれ責め立てられることはなさそうなので、

私は、一緒に食べようと思っていた食事を、テーブルに並べた。




【30-2】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

≪Dressing 豆知識≫
『COLOR』の人気メニューの一つは『エビスパ』。
日本でパスタをよく食べるのは、群馬県で、
特に高崎市には、『キング・オブ・パスタ』というイベントもある。

コメント、拍手、ランクポチなど、お待ちしています。(@゚ー゚@)ノヨロシクネ♪


コメント

非公開コメント