30 理想と現実 【30-5】

【30-5】

「はぁ……」


初回のデザインは、ほぼ問題なくクリアできた。

それを基本にし、新しいものを持っていったのに、

今度は180度違うことを言われてしまった。



『木のような……』



合板にするのか、プラスチックにするのか。

どちらにしても、あまり細工は出来ない気がする。

100%決まると思っていたわけではないが、

ここまで跳ね返されるとは正直思っていなかった。


出来上がっていたものを、これだけ覆されてしまって……

さて、どう考え直そう。


「知花ちゃん」

「小菅さん」


別の場所に出かけていた小菅さんと、駅でバッタリあった。

小菅さんは、私と違い打ち合わせはうまくいったようで、

これからまた忙しくなると、笑顔を見せる。


「ほぉ……『NORITA』さん、結構言うわね」


駅からの階段を上がりながら、『NORITA』での出来事をそのまま語る。

小菅さんは、部長のこともよく知っているので、つい話しやすく、

愚痴のようになってしまう。


「そうなんです。前回が好評だと聞いていたので、
その路線をそのまま使うつもりだったのに、正直全てひっくり返してというのは……」

「そうよね」


私は持っていたバッグから、デザイン画を出そうとして手を止めた。

ここで小菅さんに見せて、事務所であれこれアドバイスをもらってしまったら、

三村さんに聞いているのと変わらない。



誰かの力を借りないと、成り立たない……

それでは、『一人前』がどんどん遠くなる。



「悩むだけ悩むといいわよ。それが苦しいけれど、またデザインの楽しさでもあるから」

「楽しいと早く思えたらいいですけど……」

「あら、楽しくない?」

「まだ、苦しさの方が多いかもしれません」


わかってもらえないことのもどかしさ。

自分が伝えることができない悔しさ、辛さ。

ついつい、こんなことばかりが頭に浮かぶ。


「一つずつ、乗り越えたらいいのよ。知花ちゃんはまだまだ若いもの。
やりたいこともたくさん出てくるし、やらないとならなこともたくさん出てくるしね」


小菅さんは、若いことはいいことだと言いながら、

開いたエレベーターに乗った。





『なぜ、木なのか』

これをまず『NORITA』さんに、しっかりと説明したい。

今回の商品は、大量生産のものではなく、『一品もの』に相当する。

自分にとって大切なものを、ごちゃまぜにならないように保存しておくこと。

それがこのコンセプトだ。

だとすると、安い材料のもので作るのではなく、デザインも好みがあるし、

木の材料にも好みがあるものだと私は思っている。


『大切な人からもらったもの』


仕事が終わった後に、引き出しから取り出す瞬間。

この瞬間を大事にしたい。


「うん……」


しばらくPCと向かい合っていたが、三村さんと道場さんが戻り、

事務所内は少し賑やかになった。社長が報告を待ち構えていて、二人を前に呼んでいる。


「どうだった」

「とりあえず、こちらのデザインをお見せしました。萩尾さんにも許可を得て、
最初に取り組んだデザインも見せましたし、向こうの営業部もみなさん、
真剣に見てくれたので」


萩尾さんの最初のデザイン。

私が『最後のチャンス』でOKをもらったもの。


「で、続きはありそうか」

「あると思います。みなさん三村さんの話に、真剣な表情を見せてましたから」

「ほぉ……」


三村さんのことだ。

きっと、この仕事も自分のものにしてくるだろう。



私は、私。

今やらないとならないことを、しっかりとやらなきゃ。



道場さんも、『DOデザイン』に入って、初めて関わる仕事だからだろうか、

思ったよりも話がスムーズに進んだのか、とても嬉しそうに見えた。


「三村さん、緊張から解放されたので、吸いに行きませんか」

「あ……うん……でも、俺はいいや。どうぞ」

「そうですか」


道場さんはタバコの箱を手に取り、屋上に向かった。

三村さんが外出先から戻ってタバコを吸いに行かないなんて、珍しい。


「おい、長峰」

「はい」

「『ナビナス女子大』の次回打ち合わせ、あさってだそうだ」

「はい」


あの猪田さんと再会するのは、少し気が重いけれど、

現場で立たされるような心配はないだろうから、大丈夫なはず。

私はとにかくこの課題を、クリアしないと。



小菅さんは、別のクライアントのところに出かけたため、

優葉ちゃんと私、道場さんの3人で『COLOR』へランチタイムとなった。




【30-6】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

≪Dressing 豆知識≫
『COLOR』の人気メニューの一つは『エビスパ』。
日本でパスタをよく食べるのは、群馬県で、
特に高崎市には、『キング・オブ・パスタ』というイベントもある。

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