30 理想と現実 【30-6】

【30-6】

「とにかく……」


大きな仕事を取りに向かった道場さんの、報告話がいきなり展開し始める。


「『エバハウス』の担当者たちも驚いていました。
注文住宅の中に組み込まれた家具でしょ。デザイン画にも、
その後の細かい指示に対しても、みなさん三村さんを質問攻めで」

「質問攻めですか」


デザイン画かぁ……

あの時には、指示など入れることが出来なかったから、

それは三村さんが後から加えてくれたものだろう。

萩尾さんと、妙な知り合い方をしたおかげで、出来上がった仕事が、

ここまで広がっていくとは、思ってもみなかった。


「そう。次は、次はって質問攻めで。
それだけ乗り気ってことですよね、相手も」


道場さんの話を聞きながら、三村さんがどう話を展開させたのか、

そばにいて見てみたかったなどと、つい思ってしまう。

『嫌だ』と言って逃げたのは、自分なのに。


「長峰さんって、とても繊細なデザインをされるんですね」


道場さんは、初めてここへ来て以来お気に入りの『エビスパ』を、

私と優葉ちゃんは、ミックスサンドセットをそれぞれ注文する。


「私?」

「はい。三村さん、このデザインの元を手がけたのは長峰さんだって、
そう説明していました」


説明……

三村さん、『エバハウス』まで行っても、私の名前を出したのだろうか。


「そうですよ、そういえば。一級建築士の萩尾さんはわざわざ事務所へ来て、
知花ちゃんを指名してくれたんですから、最初。ね……知花ちゃん」

「エ……ご指名?」


なぜ指名されたのか、知らない優葉ちゃんの余計な一言で、

道場さんの想像は、さらに大きく膨らんでしまった。


「すごいですね。長峰さんももしかしたら、
何か隠れて賞とか取っているのではないですか」


『賞』などとんでもない。

私が、まともに戦力となりだしたのは、ここ半年くらいのことだ。


「違うわよ、『賞』だなんてとんでもない。萩尾さんはね、
自分と同年代くらいの女性と、一緒に仕事をしてみたいということを言っただけで、
実力とか、デザインを評価されていたわけではないのよ」

「またまた……そんなことはないですよ」


一人の男性をめぐってのくだらない意地の張り合いだったなど、

ここで披露できるわけがなかった。道場さんはそれでなくても幹人を知っている。

彼に迷惑をかけるのも、本意ではない。


「実際のところ、私はなかなかOKをもらえなくて、半分投げ出しそうになったの。
三村さんがフォローしてくれなかったら、きっとバツを出されていた」

「バツ?」

「そう……」


『失敗したらどうしよう』という思いが、いつも心から抜けていかない。

だからこそ、無難にこなそうという気持ちが前に出てしまって、

自信をもてなくなる。


「細かい直しが入っていたでしょ。それは三村さんがすべてこなしてくれたことなの。
形になったのは、三村さんの実力」

「三村さんが……」


そう。いつも私の気持ちを、刺激してくれるのは三村さんで、

こうして仕事の評価をされるたびに、痛感する。


「三村さんがフォローですか。うーん……三村さんってどちらかというと、
前に出て行くタイプに見えたので、人のデザインをフォローしたくなるっていうのは、
どういうことなのかな。三村さん、長峰さんのデザインが好きなのかなぁ……」

「いや……道場さん」


私は、何かを言おうとした優葉ちゃんの足を左手で軽くつかんだ。

頼むから、個人的な話は出さないでという合図。

途中まで口を開いた優葉ちゃんも、何か察するところがあったのか、

そのまま発言を止めた。


「伊吹さんに小菅さん。それに三村さんにすれば、
半人前でオロオロしている私のデザインを、
なんとかしてやろうって気持ちになっていたのだと思うけど」

「なんとか……ですか」


落ち着いて自己分析していると、自分で自分の言っていることに、納得できてしまう。

私と三村さんの関係は、恋人というよりも師弟関係のような気さえしてくるから不思議。



私は、彼に弱さばかり見せていて……

寄り添っているというより、寄りかかっている感じ。


「あぁ……でもそうかもしれない」


私たちの前に、それぞれ注文したものが運ばれた。

今日は、入りたてのバイト君なので、お皿の置き方もどこかぎこちない。


「私、そういう『もたれ』の部分を、持ててなかったのかも」

「『もたれ』?」


優葉ちゃんは、サラダのフォークを持ったまま道場さんに聞き返す。


「はい『もたれ』です」

「あの……」

「『もたれる』って言葉がありますよね、どこか頼りなさげに見えた方が、
得だって事です。私、新人に近い状態で賞なんて取ったから、
きっとそういう『甘えよう』という部分がかけていたのかも。
そうですよね、男の人って、女に上をいかれること、嫌いですもんね」


道場さんは自分で納得できたのか、『エビスパ』を食べ始める。


「私も、三村さんに色々と教えてもらいたいから、
少し、そういう部分を見せたほうがいいのかもしれませんね」

「そういう部分って、なんですか?」

「だから、『弱さ』っていうか……」

「あの、道場さん」

「はい」

「三村さんが、知花ちゃんの仕事をフォローしたのは、
知花ちゃんが『もたれた』からだとでも言いたいんですか?」


少しずつ、イライラ度合いを増していた優葉ちゃんは、

そこで小爆発を起こしてしまった。

道場さんは、どこか不機嫌そうな優葉ちゃんの態度に、首を傾げてしまう。


「いえ、そんな……」

「知花ちゃんは、へなへなと、妙な技を使ったりするようなことはしません」

「優葉ちゃん」

「……なんだか、言い方がひっかかって」


優葉ちゃんは、私の方を見ると、そのまま口を閉じる。

ランチの時間は、そのまま修正されることなく、

重たい空気が流れたままになってしまった。





「うーん……」

「ダメですか」


最初のダメ出しから1週間後、自分なりに色々と考え提出したアイデアは、

また『NORITA』に弾かれた。




【31-1】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

≪Dressing 豆知識≫
『COLOR』の人気メニューの一つは『エビスパ』。
日本でパスタをよく食べるのは、群馬県で、
特に高崎市には、『キング・オブ・パスタ』というイベントもある。

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