32 ステップアップ 【32-1】

32 ステップアップ

【32-1】
「あはは……それ本当?」

「そうなんです。理由を聞いて笑ってしまいました」

「やだ、いいじゃないの、
それだけ知花ちゃんが、三村君にベタぼれされているってことでしょう」


次の日のランチは、私と小菅さんの二人で取ることになった。

小菅さんも、三村さんがタバコをやめていたことに気付いていたので、

それは、私の仕事が通るようにと願ったことだった話だけを披露する。



1番、2番の話は、もちろん内緒。


「男ってさ、とんでもなく子供なところがあるからね。うちもそうだもの。
教員という仕事をしているのに、大好きなプラモデルを夜中やりすぎて、
次の日、目の下にクマを作って登校していったわ」

「プラモデルですか」

「そうよ、大事な試験前だから、今日はやめておきなと声をかけて先に寝たら、
明け方までずっとやっているの……。もうさぁ、何を考えているのよって」


小菅さんのご主人は、中学校の先生をしている。

子供たちに試験前には早く寝ろと指導しているのにと、

小菅さんは呆れたように笑った。


「はい、『エビスパ』2つ。今日は賑やか娘と新人さんがいないんだね」

「あぁ、優葉ちゃんは有給です。今頃彼氏と温泉旅行中で、道場さんは仕事」

「何、賑やか娘は旅行? まぁ、若いっていうのはいいわねぇ」


聖子さんはそういうと、ミニサラダを2つ置き、テーブルを離れた。

道場さんは、三村さんと『エバハウス』の打ち合わせに向かっている。


「私、道場さんに言われました」

「何を?」

「過去の仕事の話になったとき、
『長峰さんのいい仕事には、いつも三村さんが関わっているんですね』って。
それを聞いて、少し考えてしまったというか」

「うん……」

「ここに入って、何も怖いものがなかった時に、あのチェストのデザインを採用されて、
本当にこのまま楽しく仕事をしていけると思っていたのに、
その後、だんだん自分の力不足とか、押しの弱さが出てきてしまって」

「そうか……」

「前の彼は、私の仕事をしている姿よりも、家庭にいる姿を評価している人で、
仕事が思い通りにならないのは、私の実力がないからだと言われました。
確かに、営業成績もよくて、いつも先頭を走るような人だったので、
『出来ない』とか『自信をもてない』ということが、わからなかったんだと思います」

「確かに、そういう人に理解してもらうのは難しいのかもね」

「そのうち、どんどん気持ちが下向きになって。気付くと逃げてばかりでした」


自分から、他の人のフォローを申し出たり、

決まりそうな話があると、描いたデザインは提出せずに破り捨てた。


「初めて三村さんが事務所に来た日。サラッと描いていたデザインが素晴らしくて、
私、勝手に色を塗ったんです。あ、えっと、三村さんがゴミ箱に捨ててしまった紙を
拾って塗ったということですけど」

「へぇ……捨てた紙を?」

「はい。本当に素敵なデザインでした。
その日、出す予定だった『退職届』を提出し忘れるくらい」


それほどまでに、三村さんのデザインと才能に、私は嫉妬した。


「本当は仕事を辞めたくなくて、もっともっと頑張りたくて仕方がなかった思いを、
彼が表に出してくれました」


小菅さんは、色々と思い出すように、頷いてくれた。


「それから少しずつ自分を出せるようになったけれど、
いつもそばに三村さんがいてくれてのことだったので、最終的に自分の仕事と、
胸を張り切れなかったのかもしれません」

「そうか……」

「でも、今回『NORITA』の仕事をしながら、ひとりでしたものも、
三村さんを始めとしたみなさんと意見を出し合ったものも、
すべて自分の仕事だったって、そう思えるようになりました」


そう、ひとりの方が充実感があるのかと思っていたけれど、

それはどちらも変わりがなかった。

依頼主と気持ちがガッチリ重なった瞬間、それは生まれるものだと、

あらためて感じ取った。


「これからも、色々とみなさんに助けてもらいながら、自分の幅を広げて行きたいです」

「うん……」

「『DOデザイン』に入って、よかったなって」

「……今更?」

「はい」


私はフォークに『エビスパ』を巻きながら、頷いてみせる。

小菅さんは、そろそろ本格的に夏が来るわよと、明るく笑ってくれた。





カレンダーが7月に入り、

少し足踏み状態だった『ナビナス女子大』の工事が、また始まった。

すでに、話題になっているのか、

この大学を目指したいという学生からの問い合わせも増えているという。

見本を組み立てる時に、嫌がらせをされたのがウソのように、

伊吹さんの指示と三村さんのこだわりが、しっかりと形になっていく。


「贅沢だよな、これ」

「そうですね」


『デザイナーズマンション』という言葉が流行り、『こだわり』を持つ家が増えたのは、

何年前からだろう。今や、家具の一つずつにまで個性を持たせ、

他にはないものを、色々と追求できる。

『ナビナス女子大』も、この新しい寮を建設することで、

他の大学との差を生み出そうとしているのだろう。


「子供がこれだけ減ってきていると、日本で優秀といわれている大学くらいだろ、
胡坐をかいて経営が出来るのは」


確かに、私立大学は生き残りのため必死になっている。

『ナビナス女子大』は昔からお嬢様大学だったが、今回の新設された寮のおかげで、

地方からの受験者も、増える見込みだ。


「『DOデザイン』さん、どうもすみません」

「あぁ……」


猪田さん。

隣に伊吹さんがいるからだろうか、

見本完成前まで、あれほど不機嫌そうな顔をしていたのに、

今は、夏の太陽くらい明るい表情を見せてきた。




【32-2】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

≪Dressing 豆知識≫
木材の規格は、現在、『JAS(日本農林規格)』『JIS(日本工業規格)』
『AQ(優良木質建材等認証)』の3つ。
その規格に通ると、それぞれのマークをつける。

コメント、拍手、ランクポチなど、お待ちしています。(@゚ー゚@)ノヨロシクネ♪


Pagination

Trackback

Trackback URL

http://momonta1108.blog75.fc2.com/tb.php/2701-5db6b72e

Comment

Post Your Comment

コメント登録フォーム
公開設定

Utility

プロフィール

momonta

Author:momonta
ただいま、怪獣2匹を飼育中の、お気楽主婦です。
日々のちょっとしたこと、趣味で取り組んでいる『創作』を、このブログに書いていきたいと思っています。
飲み物片手に、立ち寄ってくださいね。

なお、作品の無断転載やお持ち帰りはご遠慮ください。
著作権は放棄していません。お願いします。

ただいま、連載中!

あなたの色と私の色。6人の恋模様が生み出す『COLOR』は……
ただいま発芽室では『Colors』を連載中! こちらからどうぞ

カレンダー

05 | 2017/06 | 07
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 -

お供、提供中!

この人は誰だろう……悩んだ時には、迷わずGO!
発芽培養所では『Colors 50音人物紹介』を掲載中! こちらからどうぞ

FC2ブログランキング

小説・文学部門に参加しています。

FC2Blog Ranking

毎日1回、ポチッとしてもらえたら嬉しいです。見えないライバル達と、格闘中!

いらっしゃいませ!

QRコード

QRコード

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
小説・文学
314位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
ロマンス
5位
アクセスランキングを見る>>