32 ステップアップ 【32-2】

【32-2】
「どうぞ、こちらの方で休んでください。立っているのでは足腰が疲れますし」

「いえ、現場の近くにいた方が、流れも確認できますので」

「そうおっしゃらずに……見本をしっかりと作りましたからね、
うちの職人たちもきちんと頭に入っているはずですから」


職人さんたちの中に、以前もお世話になった犬井さんがいた。

私は目が合ったので、軽く頭を下げる。

犬井さんはヘルメットを一度取り、笑顔で頷いてくれた。


「長峰、中に入るか」

「あ……はい」


プレハブの事務所に入ると、目の前に大きな時計があった。

そういえば、今頃、三村さんと道場さんも『エバハウス』にいるだろう。

話し合い、うまくいっただろうか。


「あの男か」


猪田さんが見えなくなると、伊吹さんは私にそう尋ねてきた。


「小菅が怒っていたよ。知花ちゃんがいびられたって。あいつだろ、
あの浮き上がるようなセリフと態度を見ていたら、すぐにわかる」

「……そうです。見本を組み立てるときには私、
ずっと雨の中、外で立たされてましたから」

「それで熱出したのか、お前」

「はい」


伊吹さんはタバコを取り出すと、どこにでもそういうやつはいると、

ライターで火をつけた。私は、スタッフ用においてある販売機の前に立ち、

コーヒーを2つ入れると、一つを伊吹さんの前に置く。


「あ、ありがとう」

「いえ」


私たちの目の前を、数名の社員が慌てて動いていく。

猪田さんが案内する人の中に、そう、飲み会で人をバカにした雪村さんが見えた。

その横には、一人の女性。

あれだけそばにいるということは、あの女性が議員だろうか、

さらに人に囲まれているのは……


「あ、あれ、議員と、『花嶋建設』の社長だ」

「社長?」


偉い人のオンパレードに、

猪田さんが本日最大限浮かれている理由があるようなそんな気がした。





『ナビナス女子大』の仕事を終えて、事務所に戻ると、明らかに重たい空気が流れていた。

理由はハッキリしている。三村さんと道場さんが何やら図面を挟み、

難しい顔をしているからだ。私は、バッグを机に置くと、PCを立ち上げる。


「三村さん、どうしてダメなのですか」

「何がどうしてなのかではなくて、煮詰まっているからです」


『煮詰まる』

何かうまくいかないことがあるのだろうか。


「俺は、メンバーに意見を求めてみたいので」

「先方は私たちに任せると、言ったではないですか」


道場さんは、自分がデザインをまとめたというファイルをあらためて前に押し出し、

このまま先に進みましょうと、三村さんに訴える。


「怖いんですか? 道場さん」

「……怖い? 私がですか」

「そうです」

「いえ、別に……」


三村さんはそれならばと立ち上がり、『エバハウス』が寄こした資料を、

コピーにかけ始めた。数枚をホチキス止めしてくれる。


「伊吹さん、ちょっといいですか」

「おぉ……どうした」


取引先から小菅さんが戻っていないため、それぞれがランチを済ませる午後2時から、

緊急の打ち合わせが入ることが決まった。





「三村さんが?」

「そうです。『エバハウス』の部長も、開発部の人たちも、
最初に私たちが出した提案を、それでいいと受け入れてくださって、
順調に話が進んでいたのですけれど、昨日の段階で、急に『黄色信号』を出し始めて、
今日は思い切り『赤』です」


小菅さん抜きの『COLOR』でのランチ。

道場さんは、三村さんの考えていることがわからないと、首を傾げた。


「相手の思いを聞いて、三村さんが基本的なアイデアを出してくれて、
それで私が描いていたデザインから、
使えそうなところを抜き出しながら進めようとしていたのに、
実際に建築予定の土地を見に行かせてもらったら、急に……」

「建設予定地を見に行ったの」

「はい。イラストで描いていた時のイメージとは、実際は違っていて」


最初にイメージを作るときと、実際に土地が決まって見る風景。

確かに違うこともあるだろう。

バイトの男の子が注文を取りに来たため、それぞれ好きなものを頼もうと、

メニューを見る。


「私、『とろりんオムレツ』」

「あ、私もそうしようかな」

「私は『シーフードサンド』」


それぞれが注文を終えて、メニューを戻すと、道場さんの不満が爆発した。


「効率が悪いですよね。今からみなさんに意見を聞くなんて。
他の仕事もあるし……」


確かに、それぞれが仕事を抱えている。

時間が有り余っているのかと聞かれたら、それは違うだろう。

でも……


「でも、三村さんが『煮詰まった』って」

「私はそう思いませんけどね」


道場さんが無意識に時折出してくる、自信のようなものが、

今、目の前にあるような気がしてしまう。


「三村さん、難しく考えすぎのような、気がしますけど」


『OK』が出ているのだから、悩む必要などないと、道場さんはお冷に口をつけた。




【32-3】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

≪Dressing 豆知識≫
木材の規格は、現在、『JAS(日本農林規格)』『JIS(日本工業規格)』
『AQ(優良木質建材等認証)』の3つ。
その規格に通ると、それぞれのマークをつける。

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