32 ステップアップ 【32-5】

【32-5】
事務所を出て、エレベーターに乗り込み、屋上へ向かう。

私と道場さんだけ。

エレベーターの中を漂う空気は、重くて下に沈んでしまったのだろうか。

今、この場所で吸える空気が、とんでもなく薄い気がして、

金魚鉢に入れられた金魚のように、口をパクパクしないと、苦しくなりそうだった。

屋上に到着すると、道場さんはどんどんと進み、

いつものベンチ前でこちらに振り返った。


「長峰さん」

「はい」

「私のことをバカにしているのですか」


道場さんから飛び出た言葉は、予想外のものだった。

いや、なんとなく嫌な雰囲気は持っていたが、それをはるかに越えてきた。


「バカに? ううん、そんなこと」

「それなら、どうしてあんな意見を出すのですか。信じられませんでした。
私が一生懸命考えて、目の前にほとんど出来上がっているデザイン画があるのですよ。
先方だってOKを出していたのに、『フラット』がいいだなんて。
何もしなくていいと言われているのと同じではないですか」


道場さんの怒りが、一気にこちらへ向かってきた。


「あれからみなさん、長峰さんの方へ意見が傾いていて、
真剣な雰囲気がすっかり壊れてしまって。なんのために話し合ったのか、
どういう意味であんな発言をされたのか、バカにしたというのではないのなら、
教えてください」


真剣な雰囲気……確かに、伊吹さんも小菅さんも笑顔が見えた。

でも、それがイコール不真面目というわけではないはず。


「私が、『インテリアラウンド』の賞を取っているから、だからですか」

「道場さん」

「私は、自分の実力にうぬぼれてなどいません。でも、取ったことを誇りに思うのは、
間違っていないはずです」


道場さんは、口をしっかりと結び、これ以上ないような悔しそうな表情を見せる。


「道場さん、私……」

「こんなふうに、人をバカにするのが、『DOデザイン』のやり方なのですか」


私は、道場さんのデザインをバカになどしていない。


「ちょっとまって、道場さん。私はあなたのデザインをバカになどしていないわ。
きれいなラインだったし、あれが今流行のものだということも、未熟だけれど、
それなりにわかっている」

「そうです。こだわりの住宅なのですから、こだわったものを考えました。
全体像は、三村さんがくみ上げてくれているので、私は細かいところを……」


どこに何を持ってくるのか、配置も大きさも、

さすがに三村さんだと思えるくらい整っていた。


「でも……」

「でも?」

「三村さん、パターンをいくつか持ってました」


そう、あれはおそらく、建設予定地を見た後に、付け加えたものだろう。

道路に近いのか、山や川に近いのか、町の中なのか、

イメージ画だけではわからなかったから。


「『フラット』にすることで、デザインがすべてなくなるわけではないと思います。
私は……」

「私は、自分の作り上げるものに、自信を持っていますし、納得してもらいたいのです。
『フラット』なんて……」


道場さんは、勢いのまま言葉を出そうとしたが、一度呼吸を整えるように息を吐いた。



「デザイナーのやることではありません」



『デザイナーのやることではない』

それはつまり……

仕事として成り立っていないと言うことだろうか。


何もいえない私の横を、道場さんが通り過ぎ、

沈みかけた夏の夕日が、私たちの影を作り出す。

私の影は、道場さんの怒りの歩に、無抵抗のまま踏みつけられた。





『デザイナーのやることではありません』


道場さんの方が、世の中に認められた賞を取っているし、確かに実力もある。

そんなことは、私自身わかっていて、本当にバカにしたつもりなどないのに。


「はぁ……」


だから怖い。

自分の意見を言うことで、これだけ言い返されてしまった。

私が黙っていたら、伊吹さんや小菅さんの意見を参考にして、

道場さんも気分よく仕事を続けていたはずだ。

怒らせることもなかったし、怒られることもなかったし……



だから、自分を出すのは……苦手。

周りの空気が、重くなるのも……苦手。

何も言わなければ、傷つくことも、傷つけることも、なかったのに。


「長峰さん」


声に振り返ると、三村さんが立っていた。

道場さん、三村さんに噛み付いたのかな。


「仕事、詰まっていないのなら帰りませんか。俺、飯おごりますから」

「いえ……いいです。おごっていただく理由もないし」


三村さんって、時々わかりにくいときがある。

仕事の同僚が仲間を誘うように言われると、つい、こう言い返したくなる。


「おごる理由はありますよ。意見を出してくれたでしょ、『エバハウス』」


三村さんはそういうと、鼻歌を歌いながら私に近付いてきた。

確かこの曲、前にも聞いた気がする。


「道場さんは、どうしてます?」

「道場さん? あぁ、もう事務所を出ましたよ。鼻息荒くして」


三村さんは自分の鼻を指で上げて、少し強めに鼻息を押し出してみせる。

私はその手を軽くはたいた。


「もう!」


三村さん、私が道場さんに怒られたこと、気付いている。

だから、そんなふうに表現するのだ。


「だから苦手なんです。自分の意見を言うのって」


どうしようもないほど仕事がピンチなら、人の意見を聞く気にもなるだろう。

でも、道場さん自身は、何もかも順調だと思っているから、

私の意見など、余計なお世話にしか聞こえていないはず。

クライアントが文句を言ったわけではないのだから、巻き込まないで欲しいのに。


「話……聞くから行きましょう。
ほら、駅前に『ベネデッタ』という店が出来たって、電話で言ったでしょ」


そうだった。私が利用している駅の前に、

ちょっとおしゃれなイタリアンレストランがオープンした。

仕事帰りに前を通ると、店内が見えて、一度入って見たいとそう思っていて。


「ベネデッタ……」

「そう、ベネデッタ」


カーテンの隙間から見えた店内は、かわいらしい配色だった。

デザートの種類も、店の外においてあったメニューに、結構書いてあって……


「それなら、好きなもの全てオーダーですからね」

「……了解です」


話を聞いてくれると言ったのだから、どういうことなのか三村さんに聞いてみよう。

私は事務所に戻り、荷物をまとめることにした。




【32-6】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

≪Dressing 豆知識≫
木材の規格は、現在、『JAS(日本農林規格)』『JIS(日本工業規格)』
『AQ(優良木質建材等認証)』の3つ。
その規格に通ると、それぞれのマークをつける。

コメント、拍手、ランクポチなど、お待ちしています。(@゚ー゚@)ノヨロシクネ♪


Pagination

Trackback

Trackback URL

http://momonta1108.blog75.fc2.com/tb.php/2705-e19ff1c9

Comment

Post Your Comment

コメント登録フォーム
公開設定

Utility

プロフィール

momonta

Author:momonta
ただいま、怪獣2匹を飼育中の、お気楽主婦です。
日々のちょっとしたこと、趣味で取り組んでいる『創作』を、このブログに書いていきたいと思っています。
飲み物片手に、立ち寄ってくださいね。

なお、作品の無断転載やお持ち帰りはご遠慮ください。
著作権は放棄していません。お願いします。

ただいま、連載中!

あなたの色と私の色。6人の恋模様が生み出す『COLOR』は……
ただいま発芽室では『Colors』を連載中! こちらからどうぞ

カレンダー

05 | 2017/06 | 07
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 -

お供、提供中!

この人は誰だろう……悩んだ時には、迷わずGO!
発芽培養所では『Colors 50音人物紹介』を掲載中! こちらからどうぞ

FC2ブログランキング

小説・文学部門に参加しています。

FC2Blog Ranking

毎日1回、ポチッとしてもらえたら嬉しいです。見えないライバル達と、格闘中!

いらっしゃいませ!

QRコード

QRコード

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
小説・文学
314位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
ロマンス
5位
アクセスランキングを見る>>