33 倉庫の隅 【33-1】

33 倉庫の隅

【33-1】
『ベネデッタ』での食事は続く。

注文した料理についていたデザートは、手作りのティラミスだった。

マスカルポーネチーズの濃厚な味わいが、口に広がり、

少し遅れてコーヒーが運ばれてきたので、私はミルクだけを入れた。


「いよいよ、1週間後になりましたね」

「あ、そうです。三村さんも取れましたか?」

「もちろん、取りましたよ」


和歌山に住む従兄弟が、この夏に結婚することが決まり、

私は両親と弟と、式に出席することになった。

そこに夏休みをあわせ、以前知った三村さんの恩師が作ったベンチを、

和歌山の商工会議所まで、二人で見に行くことにしている。


「長峰さんが結婚式に出た次の日に、和歌山へ到着するつもりです。
それで大丈夫ですか」

「はい、私は式の前に和歌山入りしますけど、
式を終えたら両親も千葉へ帰る予定ですし……」


式は日曜日。前日の土曜日に長峰家は和歌山入りし、

週明けの月曜日、千葉へ帰ることになっている。


「そうですか、それなら、市内で待ち合わせにしましょうか」


市内。和歌山市内ということだろう。


「それはいいですけれど、三村さん、和歌山に来たことないですよね」

「はい。俺の親は二人とも東京生まれの東京育ちなので、正直、田舎がないんですよ。
友達と旅行でいくつかの県に行ったことと、
仕事でいくつか行ったことがありますが……」


三村さんのご両親は、東京生まれだった。

確かにそうなると、田舎へ出かけることはないだろう。


「俺にとって縁のある二人が大切に思う場所なので、楽しみなんです」


縁のある二人とは、私と三村先生のこと。

こうなったら、必ず三村先生の作品を、見せてあげたい。


「時間はとにかく、余裕を持って行動してくださいね。
東京とは交通事情も全然違いますから」

「わかっていますよ。少なくとも旅慣れという部分では、
俺のほうが上だと思ってますが」

「まぁ……そうですけれど」


和歌山の山々と、青く澄んだ海。

私が大好きな場所を、三村さんにも好きになってほしい。

食事がスタートするときには、道場さんのことで気持ちが重かったが、

ワインの手助け、美味しいスイーツの後押しもあり、

さらに和歌山への思いが膨らんで、ふわふわと浮き上がっているような気分だった。





しかし……

浮かれている気持ちは、三村さんの強気な発言があってのことで、

次の日の朝、二日酔いではないはずなのに、私の気持ちは重かった。



『明日はきっと、道場さんがケロッとした顔で、挨拶してくれますから』



三村さんはそう言っていたけれど、道場さん、どういう態度でくるだろう。

いつもの電車に揺られて、いつもの駅で降りた後、いつもの階段を昇る。

向こうが早く事務所に着いている可能性もあるので……


「長峰さん」


道場さんの声に、私の鼓動は一気に速まった。

思いがけない場所で、タイミングで会ってしまったことに、

まだ、心の準備が出来ていない。


「……はい」

「おはようございます」

「……おはようございます」


でも、道場さんの表情は、明るかった。


「それに、昨日はすみませんでした」


階段の途中で、道場さんはペコリと頭を下げてくれる。


「道場さん、そんな……」

「いえ、私、家に戻りながら、ものすごく長峰さんに失礼なことを言っていたなと、
思い切り反省して」


道場さんは、自分では何も問題があると思わなかったのに、私の意見を聞いてから、

今のデザインが最良ではないような気がして、

夜遅くまで描き直していたと楽しそうに話してくれる。


「始めは、『フラット』ってどういうことなのよと正直思いましたけれど、
でも、そのおかげで、ワンステップ上がれたような気がして」


とりあえず、三村さんの言うとおり、道場さんの機嫌は悪くなかった。

第一関門をクリアした気分で、二人で並びながら上へと進む。


「また、余計なことかもしれませんが、話しちゃいます」


また……

明るい表情から一変し、何か言われるのだろうか。


「実は……私、黒田さんから長峰さんのこと、聞いたことがあるんです」


黒田さんとは、そう、道場さんが『林田家具』で一緒だった、幹人のこと。

彼は営業部だが、それなりの交流があった話しは、前にも聞いた。


「飲み会の時、写真を見せてもらったって、そう言いましたよね」

「あ……うん」


私の映っている写真を見せただなんて、あの幹人が珍しいことをすると、そう思った。


「実はその時、写真を見ただけではなくて、どんな方なのですかって聞いていました」


道場さんは、『DOデザイン』に入った最初の頃は、どこか遠慮してしまって、

そのことが言えなかったと教えてくれる。


「料理が上手で、優しくて、お嫁さんになるために生まれてきたような女性だって、
そう……」


幹人が評価してくれていた、私の一部分。


「君と同じ、デザイナーを仕事としているのだけれど、争うことが嫌いで、
人を押しのけて自分を出すことが出来るほど、自信も持てない人だから、
全く向かないんだよねって……」


道場さんは、発言してからすぐに、すみませんと謝ってくれた。




【33-2】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【迫田富雄・満江】
和歌山に住む、知花の伯父と叔母。富雄は知花の母、真子の兄になる。
満江は嫁に入ったが、非常に明るい性格で、知花のことも娘のように思っている。
梅酒、漬け物を作るのが上手。

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