33 倉庫の隅 【33-3】

【33-3】

「よく来た、よく来た。ほら上がれ」


迫田のおじいちゃんは長峰家を歓迎し、伯父や伯母も、この日を楽しみにしていたと、

さっそく色々とテーブルに並べてくれた。母は、すぐにこんなに食べられないと笑い、

知己はとりあえず横になりたいと、畳の部屋で大の字になる。


「知己、何かかけるものやろうか」

「いいよ、暑いくらいだし」

「そう?」


私たちのお土産を、伯母はとても喜んでくれた。

主役の賢哉君は、二次会の打ち合わせがあり、夜に戻ってくるらしい。


「伯母さん、あの梅酒、とっても美味しかったよ」

「あらまぁ、そう?」


落ち込んだことがあると、なぜかこの迫田の家の人たちに関連した出来事で、

私は励まされてきた。幹人との関係を悩んだときもここへ来たし、

三村さんとすれ違った時には、母と伯母の作ってくれた梅酒を飲んだ。


「まだあるよ。また、送ろうか」

「本当? それ、すごく嬉しい」


伯母は、奥の古い家に保存してあると、私を誘ってくれた。



迫田家には、作業場のような古い建物がある。

私が小さい頃には、祖父とよく遊んでいた場所。

今は、物置として利用されている。


「扉がガタガタだよ」

「それは仕方がないよ、古くなったのだもの」



『じいちゃん』

『ほら、知花。走ると危ないぞ』



大好きな場所、面影だけはまだ、しっかりと残っている。


「えっとねぇ……」


伯母に続いて中に入ると、足元にあった木の切り株のようなものにぶつかった。

よくみると、それは切り株ではなく、3段の引き出しがついているチェスト。


「何このチェスト、買ったの?」

「ん? チェスト? チェストって何」

「あ……ごめん。この引き出し」


私はビニールの被っているチェストを、軽く右手で叩く。


「あぁ、それね、それは違うのよ。前の会長をしていた高田さん……ほら、
知花も覚えているでしょ。カラオケが上手な」

「あぁ、うん。覚えている」


『高田幸三』さん。おじいちゃんにとっては、兄弟弟子のような人になる。

そう、何年か前、喜寿祝いの日、そういえば見事な歌を披露してくれた。


「それがね、去年の春、突然奥さんを無くしてしまって。
とたんにこちらでの一人暮らしがこたえるようになったらしいの。
暮れに、大阪にいる息子さんの家へ行くことになったのよ」

「そうなんだ、息子さんは大阪に……」

「そうそう。跡を継ぐ人もいないしって、思いきってね、家を処分したの」


迫田の家のように、家族で林業を続けている家もあるけれど、後継者の問題で、

土地を去る人も多い。手入れの出来ない山が、問題を起こすこともあると、

以前、ニュースで見たことがあった。


「これさぁ、高田さんが地域の会長をしていた時に、林業経験をしにきた男性が、
ありがとうございましたって、お礼に寄こしたものなんだって。
なんだかその人、家具のデザインをしているらしいのよ」


家具のデザインをする人。


「高田さん、もらったはいいけれど、使わずにしまっていたらしくて。
大阪に持っていくにも、家も狭いしって、で、じいちゃんに」

「へぇ……」


伯母が、私たちのために梅酒を出そうとしてくれていることはわかっている。

本来なら、瓶を一緒に運ばなければならないのだが、

私の目は、このチェストに捉えられてしまった。



素材の使い方、無理のないデザイン、

自然な風合いが、こちらに迫ってくる。



なぜだろう……



私は、『COLOR』にある、自分が初めて手がけたチェストを、勝手に思い出す。



「知花……どうしたの」

「うん……」


確率はとてつもなく低い。

でも、心が騒がしくなってしまって、どうしても確かめたくなった。


「ねぇ、伯母さん」

「何?」

「あのさ、これ、このチェストを高田さんに渡した人の名前ってわかる?」

「名前? うーん……」


刀などなら、名前を彫りこむこともあるだろうが、

家具にあまりそういうことはしない。

しかも、『林業体験』に来た人なら、余計に難しいだろう。


「それなら、高田さんが会長をしていたのって、どれくらい前のこと?」

「そうだねぇ……うちの後だから、3年位前までは会長だったはずだけど」



3年前。



三村さんの先生、『三村栄吾』さんが亡くなったのは、

2年くらい前だったと、たしか聞いた気がする。



「おじいちゃんなら、わかるかな、名前」

「いやぁ……どうかな」


高田さんとおじいちゃんは、プライベートでもよく一緒にいた。

これをもらうときにでも、話をしていないだろうか。


「そんなにこれを作った人の名前、大事なの?」


伯母は、梅酒の瓶の前から、チェストの前に移動し、

かけてあるビニールを軽くめくった。


「素敵なデザインだと思ったの。で……」

「あ、でもね、知花。伯母さん、その人の名前はわからないけれど、
高田さんが確か……これを作った人が、和歌山の人だって……」

「和歌山の……人?」

「うん。それに、とってもいい人だったって、そう聞いたような……」



三村さん……

わかるだろうか。



これを見て、『三村栄吾』さんの作品なのかどうか。



見抜けるだろうか。



賢哉君が戻り、迫田家では明日を前に、楽しい声が響いたが、

私の頭の中には、あの引き出しに対する思いがたくさん広がり、

なかなか眠ることが出来なかった。




【33-4】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【迫田富雄・満江】
和歌山に住む、知花の伯父と叔母。富雄は知花の母、真子の兄になる。
満江は嫁に入ったが、非常に明るい性格で、知花のことも娘のように思っている。
梅酒、漬け物を作るのが上手。

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