33 倉庫の隅 【33-5】

【33-5】
私はもう一度、一人で古家へ戻る。

上だけだったビニールを全て外し、引き出しを1つずつ開けてみた。

滑らかな動きと、切り株を意識した丸みのあるライン。

閉める瞬間、空気が動く。

『NORITA』との予算を考えたら、こんな贅沢な作りはとても無理だけれど、

自分に一つだけ作っていいと言われたら、

『木』を全体に感じられる、こんな作品にしてみたい。

私はとりあえず記録に残そうと、色々な角度から作品を携帯のカメラに収めた。





「悪かったな、知花」

「ううん、いいの」


祖父から事情を聞いた伯父も、

事務所に行き記録を調べればわかるだろうけれどと、申し訳なさそうに謝ってくれた。

私は、こっちが勝手に知りたいと思っただけだからと、頭を下げ返す。


「全くねぇ、この年になっても知花が夢中になるのは『木』なんだから」


母は、迷惑をかけたと笑い話にし、父は、もしわかるようなことがあれば、

連絡してやってくださいと、言葉を足してくれる。

『結婚式』から始まった、和歌山への旅行は、その日の食事で幕を閉じた。





「それじゃね」

「気をつけなさいよ」

「うん」


地元の駅で家族と別れ、私は市内を目指すことにした。

三村さんが到着する時刻は、もう少し先だけれど、大阪へ行くことになっているのだから、

そのような行動を取らないと。

和歌山駅まで到着し、時間を潰せそうな喫茶店を見つける。

この機会に読もうと思っていた『アトリエール』を広げ、しばらく読んでいたら、

携帯が鳴り出した。

壁の時計を見ると、店に入ってから1時間くらいになろうとしている。



三村さん、予定通りに乗れなかったのだろうか。



「はい」

『おぉ、知花か』

「おじいちゃん?」


電話は三村さんではなく、祖父だった。

私は忘れ物でもしたのかと、すぐに尋ねてみる。


『いや、いや違う。今、少し前にな、幸三から電話が入ってな』

「幸三? あぁ、高田さん?」

『そうだ。で、昨日言っていた人の名前、思い出したと』

「……うん」



『あのな、『三村栄吾』って人だそうだ』



『三村栄吾』

信じられないが、あの作品が、三村栄吾さんのものだった。


「う……うん」

『どうだ、知花の知りたかった人の名前か』

「……うん」


あの作品を見てから、とてつもなく低い確率だとわかりながらも、

思いを捨て切れなかった。


「あのね、おじいちゃん」

『でな……富雄が組合にさっき行って、その当時の写真も、数枚見つけたらしいぞ』

「写真? 『三村栄吾』さんの?」

『あぁ……林業体験の写真だ』


家族には大阪に行くと言ったし、三村さんにも何も相談はしていない。

でも、私自身がこのまま、素通りできなくなる。


「おじいちゃん、あのね……」


私は、もう一度迫田家へ戻ってもいいかと、祖父にそう尋ねた。





三村さんがお店に来てくれたのは、それから30分後のことだった。

私は、あらためて『カフェオレ』を注文し、これまでのいきさつを丁寧に語る。

三村さんは、アメリカンコーヒーを飲みながら、真剣に聞いてくれた。

すべてを話し終えて、私は深く息を吐く。


「そうなんだ、長峰さんのお爺さんの家に」

「うん……」


偶然、でも、それだけだとは思えない。

高田さんのところから、去年の冬、迫田の家に届けられたのだから。


「ねぇ…一つだけ聞いてもいい?」

「何?」

「初めて見たときから、どうして三村先生の作品ではないかと思ったの?」

「それは……」


一瞬で、心を奪われた。

素敵な作品だと思ったし、それに、自分自身に溶け込むような、そんな気がした。


「あの……」


でも、私がそう感じたのは、それだけではない。


「いいよ、思っている通りに、遠慮なく話してみて」


思っている通り……


「笑わないでね」

「うん」

「私が、初めて採用してもらったあのチェストのデザインに、似ている気がしたの」


三村さんが偶然『COLOR』で見かけた、あのチェスト。

あのデザインを認めて、『DOデザイン』を選んでくれた。

何も実績のない私の、たった一つのもの。



それを……思い出した。




【33-6】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【迫田富雄・満江】
和歌山に住む、知花の伯父と叔母。富雄は知花の母、真子の兄になる。
満江は嫁に入ったが、非常に明るい性格で、知花のことも娘のように思っている。
梅酒、漬け物を作るのが上手。

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