33 倉庫の隅 【33-6】

【33-6】

「ごめんなさい、ずうずうしいよね」


言ってみたものの、なんだか急に恥ずかしくなってきた。

三村さんが、尊敬している先生の作品と、この私の作品が、似ていただなんて、

そう、ずうずうしいにもほどがある。


「いや……」

「ううん、いくらなんでもそれは……」

「いや、違う。それでいいと思う」

「三村さん……」

「俺自身、あの長峰さんが作った『COLOR』のチェストを見て、
三村先生を思い出したのだから」


どうしてだろう。

私と三村先生と、面識は何もない。

もし、共通点があるというのなら、それは『和歌山』という場所だけ。

綺麗な海と、広がる山々。

少し不便なところだけれど、だからこそ、守られているものもあって……


「ねぇ……」

「何?」

「ベンチャーベンチだけではなくて、三村先生の作品に、会いに行かない?」


迫田の家に……

私はそう、三村さんに提案した。



三村栄吾さんが作った、天然木の小さなチェスト。

それがめぐりめぐって、迫田の家にある。

間違いないとわかった以上、すぐにでも見たくなると思うのだけれど。


「ありがとう……でも」



でも……



「でも、今回は遠慮しておくよ」


三村さんは、私が家族と一緒に結婚式に出席するために来たこと、

こうして二人で待ち合わせていることを、誰にも話していないことなど理由に、

迫田の家へ顔を出すことを断った。


私も、勢いで言ってしまったのかもしれない。

両親ではないけれど、私の親戚が住む家だ。


「そうだよね、わかった。迫田の家に私が連絡して、あのチェスト、
事務所に送ってもらおう」


そう、三村栄吾さんのチェスト、会社に送ってもらえば、

いつでも見ることが出来るし、三村さんが持ち帰ることも可能だ。

まだ、お付き合いを始めて半年程度なのに、親戚が揃っているような場所に、

顔を出したらどうだと提案する私の方がおかしかった。


「ごめん、せっかく教えてくれたのに」

「ううん……いいの。見つけて驚いて、自分が興奮しただけだから。
行こう、ベンチを見に」

「うん」


そう、そもそもの目的は、『ベンチャーベンチ』を見に行くこと。

私たちは喫茶店を出ると、ホームページに名前が載っていた場所へ、足を向けた。



『商工会議所』



『ベンチャーベンチ』のイベントそのものが、数年前のことなので、

ベンチ自体はまだ置いてあるが、特に飾り付けられているわけでも、

詳しい説明が残されているわけでもなかった。


「『三村栄吾』って」

「うん……」


それでも、残されていた製作者の名前は、間違いなく『三村栄吾』さんだった。


「『ベンチャーベンチ』かぁ……」


ヒノキやスギを育てる時、どうしても全ての木を最後まで大きくすることは出来ない。

日差しや栄養分を確保するため、ある程度のところで伐採するものが必ず出る。

それを集め一緒にし、一つのベンチを作った。

丸太の丸い部分では、お尻の収まりも悪いだろうから、くりぬくようにして、

平面を作っている。3人が座れるように、手作りの座布団が置いてあった。


「ねぇ、この座布団は、ご近所の方の寄付だって」

「へぇ……」


小さな子供が本を読みながら座り、年配の男性が、疲れた体を休めるために座る。

私たちが目指してきた三村栄吾さんの作品は、

しっかりと地元の人たちに溶け込んでいた。


「いい高さね」

「うん……これなら足に力が無くなってきたご年配の人でも、
無理をすることなく、楽に立ち上がれる」

「あぁ……そうかも」


私たちの様子を伺っていた事務所の女性には、

実は、このベンチを作った人が知り合いであり、

今日は東京から、このベンチを見に来たのだと事情を説明した。

メジャーなどを取り出し、あれこれ計り出したら、おかしな人たちだと思われかねない。

三村さんは、色々と計り終えた後、カメラにベンチの全体像をおさめ、

感覚を確かめるように自ら腰を下ろした。

私も隣に座ってみる。


「三村先生は、材料に無理をさせない人だった。あっちもこっちも動かしたい、
形を変えたいというのは、人間のエゴだって、よくそう言っていた」

「材料に……」

「うん。木に自然の穴が出来ていたら、それを生かす方法を考えていたし、
曲がりの部分があっでも、無理に削り取ったりはしなくて」

「へぇ……」

「そのものが、一番美しいと思う人だったな」


『木』そのもの。

土から空に向かって伸びていた形のまま、新しいものに生まれ変わる。


「ほら、外国の料理って色々なスパイスを入れたり混ぜたりして、
ソースを生み出すだろ。でも和食はあまりそういうことをしない。
素材の持っている甘みとか、苦味とか、最初から持っているものを大事にする。
だからこそ、繊細なものが生まれるのだと思うけどね」


確かに、フランス料理のように、上からソースがかかるようなこと、

和食にはあまりない。

それでも、だしを取り、中から素材にうまみを加えていく。


「デザインも、その素材によって、使い分けをしなければならないし、
誰がどう使うのかによっても、微妙に……」


そこまで、楽しそうに語ってくれていた三村さんの言葉が、止まってしまった。




【34-1】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【迫田富雄・満江】
和歌山に住む、知花の伯父と叔母。富雄は知花の母、真子の兄になる。
満江は嫁に入ったが、非常に明るい性格で、知花のことも娘のように思っている。
梅酒、漬け物を作るのが上手。

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