34 故郷の風 【34-2】

【34-2】
最寄駅からタクシーに乗るつもりだったが、

駅前には明らかに伯母だとわかる車が止まっていた。

私の姿が見えたのだろう、運転席が開き、車から降りた伯母は、

体全体を使い、目立つように手を振ってくれる。


「知花! 知花! こっちだよ、こっち!」

「伯母さん、わざわざ来てくれたの? タクシー拾うからって言ったのに」

「何がタクシーよ、もったいない。伯母さんがいるのだからさ、
迎えに来なければ……」


伯母はいつもの調子でこちらに向かってきたが、三村さんの姿を捉えると、

慌てて歩みを止めた。


「あ、どうも、始めまして。知花の伯母になります。迫田満江と申します」

「すみません、えっと……」

「こちらは三村紘生さん。『DOデザイン』で、同じ家具デザイナーをしているの」


迫田の家の人たちには、三村さんでいいだろう。

折原の家とのことは、語る段階ではない。


「あぁ……知花がお世話になっております」

「いえ」


簡単な挨拶を終えた私たちは、伯母の車に乗り込み、迫田の家へ向かった。

今朝、さようならと挨拶して出てきたのに、よく考えるとおかしな行動だと思う。


「ねぇ、知花は大阪へ行くって、昨日……」

「そうなの、そうなのだけれど、あのね、だから伯母さん、それはね」


うまく説明など出来るわけがなかった。

こうなったら、正直に。


「あはは……本当はわかってるのよ、伯母さん意地悪く言ってみただけ。
親には内緒、内緒なんだろ」


伯母は、嬉しそうに笑いながら、左の人差し指で、口元を塞ぐようなポーズをする。


「まぁ、そうだけど。ほら、古家にあった引き出し家具のこと。
今朝、おじいちゃんから連絡をもらったの。高田さんが思い出してくれたようで。
その人が、この三村さんのデザインの先生なの」

「ほぉ……あれは先生の作品だったのですか」


伯母は、バックミラーで三村さんの顔を見ながらそう尋ねた。


「はい。先生は、和歌山出身の方で」

「そうらしいですね。それでもご実家は普通のサラリーマンだということで、
林業体験にいらしたらしいですよ」


私が小さい頃から大好きだったあの山に、三村栄吾さんも入ったということだろうか。

風の音や、木々のざわめき、どこまでもまっすぐに伸びていく、自然の力強さを、

体全体で味わっていたのかもしれない。

車はどんどん山の方へ入り、道路の右側には、迫田家が持つ山が見え始める。


「三村さん、この山なの」

「ん?」

「私が、おじいちゃんによく連れられて入っていたのは」

「へぇ……」


三村さんは、後部座席の窓から見える景色を、窓越しに捉えようとしていた。

伯母は、ただ、山の形をしているだけで価値がなく、

マツタケでも出ればよかったのにと、笑ってくれる。


「いえ、素晴らしいですよ」

「そうよ、伯母さん」


マツタケなど出なくても、素晴らしいものはたくさんある。

マイナスイオンだとか言われるけれど、本物の山から得られるものは、

両手を広げても足りないくらいだから。


「あと少しです」

「はい」


私たちが迫田家に到着した頃には、昼の時間をとっくに過ぎ、

太陽が傾き始めた頃だった。

私は、三村さんをすぐに古家へと案内する。

がたつく扉を開けて、目の前にあるビニール袋を取った。


「これなの」


三村さんには、間違いなくわかるだろう。

私のチェストを気に入ってくれたのは、三村先生のイメージが重なったから。

実力は全く違う私と三村栄吾さんなのに、どこかにあった共通点で、

私たちの出会いも、演出してくれた。

三村さんは、表から裏から作品を見た後、引き出しを一つずつ動かしていく。

動きもスムーズで、おかしなところは見られない。


「作りもしっかりしているし、ほら、このつなぎの部分、
昔、先生に教えてもらったやり方だ」


結果として同じ形に見えるものでも、出来上がりや強度が変わるため、

見えない部分にこだわりを持つデザイナーは多い。

外国の有名なデザイナーのものを見分けるときにも、その人の特徴を知っていると、

探しやすかったりするものだ。


「うん……これは間違いない。
こんなところで先生の作品と向かい合えるなんて、不思議な気がするよ」

「うん」


そう、本当に不思議な話しだった。

他人から見たら、偶然と偶然が重なっただけかもしれないが、

それだけではないと思えるくらい、私たちには価値がある。


「先生が亡くなる前に、ある程度、作っていたのは知っていたけれど、
どこでどう調べたらいいのか、それがわからなかった」


三村先生が、あれだけ若い年齢で亡くなるとは思っていなかったのは当然だろう。

42歳なんて、あっという間の時間。


「もう、二度と会えないと思っていたから……」


亡くなった人には、二度と会うことは出来ない。

それでも、残してくれたものに、その人の思いは十分感じることが出来る。


「三村さん。これが、迫田の家に来たのは偶然じゃないと思うの」

「どういうこと?」

「だって……」


高田さんの家にあるままだとしたら、

一生、私たちの目に触れることはなかったかもしれない。


「この道を歩みだしたことを知った三村さんの先生が、
三村さんに残してくれたものなのかなって……」


家族に反対されても、自分を貫き通している教え子へのエール。


「エールね……」

「うん」

「そうだったら、本当に嬉しいけれど」


三村さんは、チェストの上に落ちたほこりを、手で軽く払う。


「少し待っていて。伯母に、配送してもらえる手続き、とってもらう」


持ち帰るには重すぎる。迫田の家から宅配してもらおうと思い、

母屋に向かうと、伯母は何やら料理を始めていた。

絶対に美味しいものだとわかるくらいの、いい匂い。


「伯母さん」

「あぁ、知花。ほら、見学が終わったらこっちへおいで。
今日はさ、いただきもののいいお肉があるのよ……」


そう言われてテーブルを見ると、確かに袋に入った肉が、置いてあった。


「冨雄さんに、戻ってくるとき、お刺身も買ってくるように頼んだからさ」

「やだ、伯母さん。ちょっと待って、いいって。私たち帰るから」


そう、昨日まで長峰家総出で世話になっておいて、

今日、こんな状態で、三村さんと食事をさせてもらうことなど出来ない。


「帰る? 何言ってるのさ、そんなこと言ったら、おじいちゃんが怒るよ。
知花が戻ってきたって連絡をしたら、すぐに帰ってくるって」

「いや、でも……」

「おじいちゃん、その三村さんの写真を持ってくるって言っていたし。
それとも何、知花……彼はおじいちゃんに紹介できないような人なの?」

「ん?」


『紹介できない人』ではないけれど……

三村さん、紹介されたいだろうか。


「長峰家には、内緒にしておくから。二人で今日は泊まっていきなさいな」


もてなしの上手な伯母の一言に、私はとりあえず笑ってごまかした。




【34-3】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【迫田賢哉・亜紀】
和歌山に住む、富雄と満江の子供、知花にとっては従兄弟になる。
賢哉は29歳。父の跡を継ぎ、林業を仕事としていて、
亜紀は25歳。歯科助手の仕事をしている。

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