34 故郷の風 【34-3】

【34-3】
「泊まれって?」

「そう、でも嫌でしょ。それでも、伯母が料理の支度もし始めているし、
伯父はお刺身注文してしまって、おじいちゃんは組合から、
三村先生が映っている写真をもらってくるようなの」

「先生の写真が、あるの」

「うん……体験実習をした人たちのアルバムだから、
個人的なものではないだろうけれど、きっと、映っているだろうって」


私は、食事だけご馳走になった後、駅まで私が送ることにしようと提案した。

いきなりここまで引っ張ってこられて、泊まるのではあまりにも窮屈だろう。


「そういえば、伯母さん、『知花』って言っていたね」

「そうなの。伯母は知己のことも私のことも、昔から呼び捨て」

「へぇ……」


『知花』と呼ばれていることは、何かおかしいだろうか。

私にとっては、ごくごく当たり前のことなのだけれど。


「何かおかしい?」

「いや、違う。素敵だなと思ってさ」

「素敵?」

「うん。だって、距離の近さを感じるよ。あんなふうに駅まで迎えに来てくれて。
君と俺のために、みなさんが本当に親身に動いてくれて」

「……うん」


確かに、三村さんの言うとおりだとそう思えた。

ここへ来れば、いつでも受け入れてもらえるとわかっていたからこそ、

幹人とうまく行かなくなった後、一人で電車に飛び乗れた。


「長峰さんが迷惑でないのなら、俺、泊まらせてもらおうかな」

「……本当?」

「まずい?」

「ううん、まずくはない。私はそれならそれでいいけれど、
三村さんがいづらくないかなと思って」


急にあれこれ決まって、ここまで引っ張ってこられた。

これ以上、知らない人に囲まれているのは、精神的に辛くないだろうか。


「ここまで来たら、食べて帰りますっていうのも逃げるみたいだろ。
みなさんの好意を、受け止めないと」


私はすぐに頷いた。三村さんが嫌でないのなら、

私はむしろ、この人たちを好きになって欲しいから。



その日は、従兄弟の亜美ちゃんも仕事から戻り、また小さな宴会状態になった。





「ほぉ、この人が先生」

「はい。デザインを教えてくれた人です。もう、亡くなってしまって会えませんが」

「あらまぁ……まだまだ若かったでしょうに」


アルバムに映る三村栄吾さんを、私は初めて見た。

背はあまり高くはないけれど、顔は丸く色黒で、楽しそうに笑っている。


「教え子が、大切にしてくれるのなら、あの引き出しも喜ぶだろう」

「はい」

「住所、書いてくれたら配送するよ」

「すみません、何から何まで」

「いえいえ、知花の大切な人だものね……」



『大切な人』



恥ずかしいような、それでいて、嬉しいような複雑な気分だった。

それでも、伯母も伯父も気持ちよく酔っているみたいで、よかったけれど。



……本当に長峰家に内緒にしてくれるだろうか。



「三村君と言ったね」

「はい」

「知花のどこが好きだ?」


一人だけ酔っていないと思っていたおじいちゃんが、急に質問をぶつけてしまった。

そう、酔っていないはずがない。

私のどこか好きかなんて、こんなところで言うことではないのに。


「おじいちゃん、そんな質問したら……」

「いえ、いいです」


三村さんは持っていたグラスをテーブルに戻し、少し考えるような顔をした。

三村さん、どう応えてくれるのだろう。


「長峰さんの作品に憧れて、今の会社に途中入社しました。
素材に寄り添うような、優しいデザインを見ながら、
きっと彼女自身もそういう人だろうと、勝手に想像していました」

「ほぉ……」

「口数は多くないですけどね、でも、優しさと強さをきちんと持っている人です。
まっすぐに伸びて、大地にしっかり根付いている、和歌山の木々のように……」



『木々……』



「ここまで来るのに6年、7年経ちましたけど、しっかりと根付いた分、
出てくるものは、すべて本物ですから。
これからもっと、もっと、いい仕事が出来る人だと思います」

「……うん」

「互いに刺激しあえる関係でいられることが、とても心地よくて。
そんな感情を持たせてくれた人に、自然と惹かれていました」


三村さんの中にある、私のイメージ。

山の中でまっすぐに伸びていく、あの木々たち。


「長峰さんと出会えた事で、僕自身が変われた気がします」


それまで笑っていた伯母も、伯父も、三村さんを見ながら無言になってしまった。

亜美ちゃんは、私の方を見ながら、口元をゆるめている。


「すみません、……少し、酔いました」


三村さんはそういうと、三村先生が映っているアルバムに視線を落とした。

おじいちゃんは黙ったまま、お猪口の酒を飲み干していく。

三村さんのあたたかいセリフが、まだ部屋の中を漂っている気がしてしまう。

私は、こんなふうに思われて、幸せだ……


「三村君」

「はい」

「明日、急いで帰る必要がないのなら、山へ入ってみないか」

「明日……ですか」

「君は、知花を和歌山の木々のようだとそう言ってくれた。
山は、知花が幼い頃から大好きだった場所だ。
あ、そうそう、君の先生が体験した場所にもなる。入ってみるといい」

「……はい」


おじいちゃんの提案に、三村さんは嬉しそうに返事をした。

明日……

久しぶりに、山へ入る。

私は、こうなったら天気が悪くならないようにと思いながら、

残っていたお茶を飲み干した。




【34-4】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【迫田賢哉・亜紀】
和歌山に住む、富雄と満江の子供、知花にとっては従兄弟になる。
賢哉は29歳。父の跡を継ぎ、林業を仕事としていて、
亜紀は25歳。歯科助手の仕事をしている。

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