34 故郷の風 【34-5】

【34-5】

『古川紗枝』





以前、私の携帯に連絡があったとき、番号を登録しておいた。

本来なら、三村さんが連絡をして、ご両親に会うことがいいのはわかっている。

でも、このままではそれがいつになるかもわからない。


「それでは行ってきます」

「おぉ、頼むぞ」


今日は、朝一番に三村さんと道場さんが『エバハウス』に出かけることになっている。

話し合いを積み重ねたデザインは、また新しいアイデアを生み、

向こうも相当乗り気だというから、これから加速して進むだろう。

私は、郵便局へ行くと小菅さんに告げ、事務所を出た。

廊下の窓から下を見ると、三村さんと道場さんが何やら話しながら駅に向かっていく。


何もかも投げ捨ててまで、選んだ仕事なのだから、

どうしても……



大切な人たちに理解してもらいたい。



目の前に到着したエレベーターに乗り、私は下へ降りた。



1回、2回、呼び出し音が鳴る。

仕事中だろうが、三村さんに気付かれない時間にしないとならないので、仕方がない。


『はい……』

「もしもし……あの、長峰知花です」


1、2秒のためらいの後、紗枝さんから『はい』という返事が入った。


「お忙しいところすみません。少し、お話があるのですが」


紗枝さんにも、なんとなく言いたいことが伝わっているのだろう。

今日なら一日『MARBLE』の本社にいるので、来て欲しいと言われた。


「今日ですか」

『えぇ……どうせ紘生のことなのでしょ』

「はい」


こんなことをしたとわかったら、三村さんに怒られるかもしれない。

でも、これ以上、ただ気付かないフリをしているわけにはいかない。



あの人がとても強くて優しい人であることを知ったのと同時に、

本当はとても寂しくて、突っ張っていることも知ってしまったのだから。



私は、昼前には伺いますと紗枝さんに告げ、電話を切った。





『株式会社 MARBLE』


前回は、何も知らないまま、千葉さんに急に連れてこられたけれど、今日は違う。

慌てたりしないで、きちんと話をしないと。

正面の入り口で名前を言うと、すぐに内線で連絡を取ってくれた。


「3階の応接室へお入りください」

「はい、ありがとうございます」


エレベーターに乗り、言われた通り3階で降りると、応接室はすぐそばにあった。

軽くノックをすると、中からどうぞと声がかかる。


「失礼します」


紗枝さんは、すでに中で待っていてくれた。


「すみません、お忙しいのに」

「いいえ。長峰さんの方からコンタクトを取ってくれるなんて、嬉しいことだから」


紗枝さんはソファーへ座るようにと、手を差し出してくれた。

私は軽く礼をした後、ソファーの真ん中へ座る。


「紘生に『レモネード』のことでも、文句を言って来いって言われたの?」

「いえ……違います。正直、あの記事が出て、うちの会社は動揺しましたけれど、
その分、またチームワークが強くなっていると思います」

「……あら」


三村さんが、みんなを騙すつもりで名前を隠しているわけではないこと、

事務所のメンバーは、全員納得してくれた。


「それなら、何かしら」


そう、今日ここへ来たのは、記事の文句ではない。

私は小さく頷き、自分に勢いをつける。


「お願いがあります」

「お願い?」

「はい……三村さんのお母さんと、会わせてください」


私の提案が予想外だったのだろう、紗枝さんは少し驚いたような顔をした。




【34-6】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【迫田賢哉・亜紀】
和歌山に住む、富雄と満江の子供、知花にとっては従兄弟になる。
賢哉は29歳。父の跡を継ぎ、林業を仕事としていて、
亜紀は25歳。歯科助手の仕事をしている。

コメント、拍手、ランクポチなど、お待ちしています。(@゚ー゚@)ノヨロシクネ♪


コメント

非公開コメント

それは、それは

拍手コメントさん、こんばんは
いつも、コメントありがとうございます。

お気に入りの場所が消えてしまう
(PCって時々、不具合を起こしますしね)と、驚きますよね。

いつまで書くのか、私にもわからないところはありますが、
楽しめる間は、続くと思いますので、
どうか、お気楽に遊びに来てください。