35 冷たい壁 【35-1】

35 冷たい壁

【35-1】

『あなたが思っているほど、甘くないわよ』



25歳の時に、『折原製薬』から飛び出した三村さんは、すでに31歳になっている。

この6年の壁が、とてつもなく大きく高く、険しいことは私にもわかる。

でも……



黙っているだけでは、目をそらしているだけでは、絶対に越えられないし、壊せない。

それは、私自身が、今まで色々感じてきたこと。



『MARBLE』を出る頃には、ランチの時間をすでに越していた。





私がやろうとしていることは、出すぎたことなのだろうか。

親子のことは、親子にしかわからないのだから、黙っていればよかったのだろうか。

優葉ちゃんと小菅さんは、すでにランチに出かけていて、三村さんと道場さんは、

まだ事務所に戻っていない。


「ふぅ……」


コンビニで買ったサンドイッチをほおばりながら、誰とも話をしないでいると、

しっかり考えて行動したはずなのに、こうしてまた弱気の虫が顔を出してくる。


「大丈夫、これでいい」


私は、電源を入れていないPC画面に映る、自分に向かって言ってみる。

そう、これでいい。

三村さんには、余計なことをしたと怒られるかもしれない。

でも、その余計なことが、後からいいきっかけになることもあるはず。

だって、三村さんだって、最初は私の邪魔ばかりしている……



ようにしか、取れなかったのだから。



「あら、知花ちゃん『花嶋建設』からFAXよ」

「『花嶋建設』ですか?」

「うん……」


塩野さんから1枚の紙を受け取り、書いてある内容を読んでみた。



『社内表彰会』



「表彰会?」


そのFAXについて、細かい説明を聞いたのは、社長が戻ってからだった。





「表彰ですか」

「あぁ……『花嶋建設』の上半期に手がけた仕事の中で、『ナビナス女子大』の仕事が、
社長賞に決まったということだ」


『インテリアラウンド』の賞があるように、建築業界にも、業界紙などが投票で決める、

業界の賞レースが存在する。『花嶋建設』は昔から力もあるため、

数多くの賞を獲っていたが、今回の『ナビナス女子大』が、また大きな話題を呼び、

結果的に仕事を増やしているということらしい。


「部屋全体の木目を生かした作りに、票が集中したらしいんだ」

「そうですか」


全体のバランスを組み立てたのは伊吹さん。

どれだけ実績を積んでも、仕事を評価してもらえるのは嬉しいことだろう。


「9月の頭に、社長の表彰式があるらしい。向こうはお前と長峰、三村の3人で、
参加してくれと言ってきているけれど、どうだろう」


私も? いや、それは……


「社長、私はただ、見届けただけで、デザインは何もしていません」


そう、私はただ、三村さんの思いを代弁できるよう、それだけだった。


「長峰はともかく、三村は嫌がるでしょうね」


伊吹さんは、三村さんが以前、

『エアリアルリゾート』での仕事で取材をされたときも、

逃げ回っていたことを話し出す。


「そうだなぁ……」

「しかも今回は、『折原製薬』とのことを知られて、結局担当から外れていますし。
デザイン自体は三村のものとはいえ」

「うん……」


社長の視線が、私のところで止まった。


「長峰」

「はい」

「お前から説得してくれ、表彰だから出て欲しいと」

「私ですか」

「あぁ、お前の言うこと聞かないか? あいつ」


そう簡単に言われても。


それでも結局は、頑張ってみますと返事をすることしか出来ず、

私は自分の手帳に、『花嶋建設』の文字を書き込んだ。




【35-2】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【折原ひろ子】
紘生の母。一族で経営する『折原製薬』に嫁ぎ、
紘生の成長だけを楽しみに生きてきた女性。親族の輪に入るのが嫌で、
友人の娘、紗枝をかわいがり、嫁にしたいと願っている。

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