35 冷たい壁 【35-3】

【35-3】
そして、その3日後。

少し早めのランチに、メンバー4人で出かけることになった。

道場さんは、詰まっていた『エバハウス』の仕事が、

順調に流れていることが嬉しいようで、聖子さんにも楽しそうに語っていく。


「へぇ……いいわね、それ」

「はい。小さな家具もいいですけれど、住宅関係の仕事は大きくて喜びも倍増です」


そう、『エアリアルリゾート』の写真を、持って行くつもりだった。

あれは、三村さんにとってもきっと、いい仕事と思えるものだったろう。

会社も大きいし、その後の反響も本当に大きかった。

三村さんのご両親は、私たちの仕事がどういうものなのか、

よくわかっていないのだろうから、そこからきちんと説明しないと……


「知花ちゃん……」


私の感情論になったら、ダメ。


「知花ちゃん、どうしたんですか」

「……ん? あれ?」


同じように食事をしているつもりだったのに、

気付くと、私のお皿だけがまだ半分以上残っている。


「あぁ、ごめん、ちょっと……」

「やだ、また考え事ですか?」

「どうしたの、また『花嶋建設』の嫌みなヤツに何か言われた?」

「いえ……」

「それとも、『NORITA』の部長?」


小菅さん、優葉ちゃん、そして道場さん。

それぞれが心配そうな顔で、私を見ている。


「違いますよ、違います。すみません……新しいアイデア浮かびそうで、で、
ボーッと考えていただけです」

「ボーッとって……」


優葉ちゃんは、知花ちゃんらしいと笑い出し、道場さんも体の具合が悪くないのならと、

笑顔を見せてくれる。


「あ……雨になりそうだよ」

「本当だ」


3人が窓の外に目を向けている間に、私は残りを食べ進め、なんとか追いついた。





『株式会社 MARBLE』


前回同様受付に向かうと、同じ応接室へどうぞとすぐに通された。

エレベーターに乗り、3階で降りる。

応接室の扉を叩くと、中から紗枝さんの声がした。

ドアノブに手をかけ、ゆっくりと下に向け、そして手前に引いていく。


「失礼します」


顔を上げると、一人の女性の姿が見えた。

あの人が、三村さんのお母さん……なのだろうか。


「どうぞ、長峰さん」

「すみません、お忙しいところを」


紗枝さんに指示されたとおり、ソファーに座ると、正面に座っている女性の顔が、

こちらに向けられた。


「あの……」

「はい」

「ものすごく緊張されているけれど、私は紘生君の母親ではないですから」


三村さんのお母さんではない……とは。


「ごめんなさい、おば様はもうすぐ到着されるはず。長峰さん、私の母です」


紗枝さんのお母さん。


「古川利香子です。驚かせてごめんなさい。
あの紘生君と親しい方が、ひろ子に会いに来るって聞いたものだから。
お会いしてみたくて」


三村さんのお母さんと話をするつもりで来たけれど、

紗枝さんのお母さんも、そばにいるつもりだろうか。


「紘生君、元気?」

「はい……」

「そう。『折原製薬』を飛び出してから、顔をあわせたこともないでしょう。
なんだかまだ、学生のイメージが残っているのよ、おかしいことに」

「お母さん、何度も言ったでしょ。紘生ももう30を過ぎているのよ」

「そうだろうけれど、二人をしょっちゅう連れて回った思い出ばかりだから、
ついつい……ね」


以前見せてもらった写真のように、紗枝さんと三村さんは、

一人っ子ということもあるし、母親同士が友人ということもあって、

よく一緒にいたのだろう。


「あ……おば様から連絡。駐車場に着いたそうよ。迎えに行ってきます」

「上がってこられるでしょう、エレベーターがあるのだから」

「何やら持ってきたから、迎えに来てって……」

「あらまぁ……人の娘をこき使うのね、ひろ子は」


三村さんのお母さんが到着し、紗枝さんが迎えに行った。

交わされる会話も、時間を共有してきた長い間の積み重ね、そう思えてしまう。


「それじゃ、私は……」


紗枝さんのお母さんが立ち上がったので、私も腰を上げた。

一緒にこの場所にいるのではないことがわかり、少しほっとする。


「長峰さん……とおっしゃったわね」

「はい」

「ひろ子はとにかく寂しがり屋なの。彼女にとっては、いくら離れてしまっても、
紘生君だけが希望の星なのよ。その思いは、理解してあげて」



希望の星



「……はい」


『折原製薬』の中には入らずに、一生デザインの仕事をしたいという三村さん。

それを応援するつもりの私。


「ごゆっくり」


扉がパタンと閉められた後、部屋の中の空気が、重く湿ったものに感じられた。




【35-4】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【折原ひろ子】
紘生の母。一族で経営する『折原製薬』に嫁ぎ、
紘生の成長だけを楽しみに生きてきた女性。親族の輪に入るのが嫌で、
友人の娘、紗枝をかわいがり、嫁にしたいと願っている。

コメント、拍手、ランクポチなど、お待ちしています。(@゚ー゚@)ノヨロシクネ♪


Pagination

Trackback

Trackback URL

http://momonta1108.blog75.fc2.com/tb.php/2722-c03d9bbf

Comment

Post Your Comment

コメント登録フォーム
公開設定

Utility

プロフィール

momonta

Author:momonta
ただいま、怪獣2匹を飼育中の、お気楽主婦です。
日々のちょっとしたこと、趣味で取り組んでいる『創作』を、このブログに書いていきたいと思っています。
飲み物片手に、立ち寄ってくださいね。

なお、作品の無断転載やお持ち帰りはご遠慮ください。
著作権は放棄していません。お願いします。

ただいま、連載中!

あなたの色と私の色。6人の恋模様が生み出す『COLOR』は……
ただいま発芽室では『Colors』を連載中! こちらからどうぞ

カレンダー

05 | 2017/06 | 07
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 -

お供、提供中!

この人は誰だろう……悩んだ時には、迷わずGO!
発芽培養所では『Colors 50音人物紹介』を掲載中! こちらからどうぞ

FC2ブログランキング

小説・文学部門に参加しています。

FC2Blog Ranking

毎日1回、ポチッとしてもらえたら嬉しいです。見えないライバル達と、格闘中!

いらっしゃいませ!

QRコード

QRコード

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
小説・文学
417位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
ロマンス
5位
アクセスランキングを見る>>