35 冷たい壁 【35-4】

【35-4】
それから3分後、三村さんのお母さんが到着した。

紗枝さんの手には、紙袋があり、それを奥の机に置く。


「ごめんなさいね、お待たせして」

「いえ……こちらの方こそ、お忙しいのに」

「いえ」


初めて見る、三村さんのお母さん。

私の母とも違うし、遊びに行かせてもらった友達のお母さんとも違う。

そして、以前挨拶をしたことがある、幹人のお母さんとも、違っていて……


どこか、初めて見るような、雰囲気を持つ人。


「まずは、あなたのお話を伺います」

「はい」

「それではおば様、私は……」

「紗枝ちゃん、ここにいてちょうだい。ほら、ここ」


三村さんのお母さんは、自分の横を軽く叩くと、紗枝さんに座るよう指示をした。


「私、いてもいい?」

「はい」


別に、紗枝さんに聞かれては困る話ではない。

むしろ、この二人に理解してもらわない限り、前に進まないのだから。

三村さんのお母さんは、隣に座った紗枝さんの左手を握ると、

自分の両手で包み込むようにした。


「大丈夫です、おば様、私、ここにいますから」

「そう、そうよね」


会いたいと望まれている存在でないことは、承知してきたつもりだった。

それでも、こうして二人の親密さを見せられてしまうと、

気持ちが少しずつ後退してしまう。


「これを……見ていただけますか」


それでも、自分を奮い立たせてここまで来たのだから、

圧倒されているわけにはいかないと、

私は、三村さんと手がけた『エアリアルリゾート』の仕事の写真や、

採用されたパン屋さんのテーブルデザインなどを見せ、

どれほど三村さんが仕事に対して情熱を持ち、毎日過ごしているのかを訴え続けた。


話が自分でうまい方だとは思わない。

それでも、心からの言葉であれば、きっと相手にも届くだろう。

そう思いながら話し続けるが、三村さんのお母さんからも紗枝さんからも

質問が出てくることなく、話は終わってしまう。


諦めではなく、頑張りを認めて欲しい。

最後にこの部分に力を込める。


「どうか、彼の生き方を認めてあげてください。『折原製薬』の中に入っていなくても、
本当にやりたいことを見つけられて……」

「あの……」


三村さんのお母さんが、そこで私の話を止めた。

紗枝さんの手を握っていた姿勢から、まっすぐに向き直す。


「長峰さん……」

「はい」

「あなたが、三村紘生と同じ会社のお仲間で、
仕事を一生懸命にしているというお話は、理解できました」



……理解してくれたということは。



「はい」

「でも……」



でも?



「三村って誰のことなの?」

「あ……」


そうだった。三村さんと呼び慣れていたので、つい、そのまま話してしまった。

『三村さん』は『折原さん』と言わなければならなかったのに。


「おば様、紘生が仕事でそう名乗っているのよ。それは以前……」

「えぇ、紗枝ちゃんが紘生と会ったときに、理由は聞いたと言っていたわよね」

「えぇ。折原の家から出た以上、別の名前を名乗ることを決めたと言ってました。
長峰さんたちは、『三村さん』と呼んで、お仕事をしているから……」

「だから……そういうことでしょ」


そういうこと……


「所詮、今の話は『三村さん』のお話なのよ」


三村さんのお母さんは、携帯電話を取り出すと、発信ボタンを押した。

何回かの呼び出し音が、漏れ聞こえてくる。

その数秒後に、扉をノックする音がした。


「どうぞ、お入りになって」


扉を開けて入ってきたのは、一人の男性。


「失礼いたします」

「えぇ……こちらへ」


三村さんのお母さんは、空いている私の隣に座るよう、指示を出した。

私の横に、知らない男性が立ち、名刺を出してくる。



『番場法律事務所 弁護士 横田学』



「『折原製薬』の顧問弁護士をしております。横田学と申します」

「あ……はい」

「お名刺、お持ちならいただけますか」

「あ……すみません」


私はバッグから名刺入れを取り出し、横田さんに差し出した。

横田さんは名前を確認した後、ケースに閉まっている。



『顧問弁護士』って、どうしてこの場に弁護士さんが出てくるのだろう。



「長峰さん」

「はい」

「あなたのおっしゃっている通りなのよ。『三村紘生』が何をしようが、
どこに生きようが、私にはどうでもいいことです。だってそうでしょ、
『三村紘生』なんて、この世にいないのですから」


名刺を出した後、私の横に座った弁護士の横田さんは、何やら封筒を取り出した。


「偽りの名前を使って、あなたとお付き合いをしているのなら、
それも……偽りの行動ということでしょう」



『偽りの行動』



「私が育ててきたのは『折原紘生』です。
『折原製薬』のグループ企業を支える一人として、
主人のそばで、経営を学んでいくはずだった息子です」


『折原紘生』


「イタリアで賞を獲って、日本へ戻ろうというとき、
私はそれをあらためて紘生に話しました。互いに歩み寄るためにどうしたらいいのか……
紗枝ちゃんとの婚約を納得したのも紘生です。偽りではなく、本物の」



『三村紘生』と『折原紘生』



「幻でも見たと思って、もうこんな出過ぎたマネはやめて頂戴。
あなたのお話で感動し、息子の生き方を見守るような親ではありませんから」


そんなに簡単なことではないと、思っていたけれど、

言葉が、ひとつも出ていかない。


「それでもあなたが、『三村紘生』を本物だとおっしゃるのなら……」


私が『三村紘生』という人物を、庇い続けるのなら……


「横田さん」

「はい、ではこちらを」


横田さんから渡されたのは、何やら数字があれこれ書いてある書類だった。




【35-5】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【折原ひろ子】
紘生の母。一族で経営する『折原製薬』に嫁ぎ、
紘生の成長だけを楽しみに生きてきた女性。親族の輪に入るのが嫌で、
友人の娘、紗枝をかわいがり、嫁にしたいと願っている。

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