36 思い出話 【36-2】

【36-2】

それなりに気持ちを決めて出かけたのに、今の自分の状況が、

悔しくて、情けなくて仕方がない。


「三村さん、和歌山で言いましたよね。
私には受け入れてくれる人と場所があって、それがうらやましいって。
そう、こんなこと、余計なことだとわかってました。
でも、何かきっかけになればって、私、ただ、そう思って」


私が行ったことで、何もかも丸く収まると思うほど、ずうずうしくはないけれど、

それでも、何か動き出せばと思っていたのは事実。


「話もうまくないし、押しも弱いけれど、でも……あなたの頑張りを伝えられるのは、
私しかいないと……いないと思ったから……」


そばにいるだけではなくて、何か助けになりたい。

ただ、それだけだった。


「こじらせてしまって、ごめんなさい」


私さえ、こんなことをしなければ、今まで何も言ってこなかったのだから、

経費のことなど、問題にされることはなかったかもしれない。



どうしたら……

私は、この人のためになっていると、自分で思えるようになるだろう。



「長峰さん」

「はい」

「これは俺の問題だから、余計なことはしなくていいと言ったのは本音です。
解決するもしないも、他の人には無理だと思っていたし、
入られてややこしくなるのも嫌でしたから」

「はい……」

「たとえあなたでも、こんなことをされたら、ものすごく腹が立つのだろうなと、
そう、想像していました。今も、本当に何をしているのだと、
言いたいことを言いましたし」



『いくらあなたでも……許しませんから』



そう、三村さんはそう言っていた。

入って欲しくない場所に、勝手に入る人は嫌いだと、前にも聞いたことがある。


「そうだ、そうだと気持ちを盛り上げて、二度とこんなことはしないほうがいいと、
あなたにわかってもらうつもりでした」

「はい……」

「でも……」



でも……



続きの言葉が、聞こえてこない。

ただ、視線を合わせているのが、辛くなる。


「ダメですね、俺は……あなたには勝てない」



私……



「そう、今話を聞いていても、腹を立てられないんですよ、あなたに対して」



『いくらあなたでも……許しませんから』



「何をしているのかという思いはあるけれど、でも、怒っているわけではなくて。
なんだかこう、自分の方が辛くなるというか……」


怒っているわけではない……。

その言葉を聞いて、少しだけほっとする。


「結局、あなたの行動を受け入れてしまう」


私の行動……自分がなんとかきっかけになればと、お母さんに会ったこと。


「三村さん……」

「俺はきっと、あなたを憎むことなど、出来ないのでしょうね。
これから先も……何をされても……」


これから先……


「何をされてもって、それは……」

「だってそうですよ、あれだけ言ったけれど、どうしようも出来ないのですから、
俺の負けです」

「負け?」

「そうです。余計なことをしたら、あなたでも許しませんと言いましたが、
ここで書類を叩き付けて、怒りのまま声を荒げたり、別れを切り出すことなんて、
出来ないんです」


『許さない』と言われたこと。


「ごめんなさい、本当に」

「もういいですよ。こんなもの渡されて、少しは『どうしよう』くらい思ったでしょう」


確かにそう思った。

自分で起こした行動なのに、もしここで三村さんに別れようと言われたら、

一歩も歩けないくらい落ち込んだはず。

その通りですという意味を込めて、しっかりと頷く私。


「さぁ、チュースケのところに行きましょう。
向こうは、久しぶりに会えるって、ウキウキ待っているそうですから」

「あの……」

「あとは向こうで話を聞きます。チュースケも話があるようですし」

「あの……三村さん、これ」


そう、これはどうしたらいいだろう。


「あぁ、それか」

「はい。あの……」

「弁護士の出してくる書類に、何もかも驚かされていたら、ダメですよ」

「は?」

「どうせ、逃げたときの金の話とか、そういうことでしょ」



どうしてわかるのだろう……



「わかっていたんですか? これ」

「チュースケから電話があって、あなたが母に会いにいったとなると、
出してきそうなものくらい、想像つきますからね」

「これ、あの……」

「そんなものに効力なんてないですよ。
いや、あったとしても、いくらだって俺、逃げますから」

「逃げるって」


三村さんが立ち上がり、コーヒーショップを出て行こうとしたので、

私も出した書類をバッグに押し込み、遅れないようについていった。




【36-3】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

≪Dressing 豆知識≫
日本で一番多いのは『スギ』の木。
『花粉症』の時期になると、お騒がせするスギだが、
やわらかい樹種なので、家具よりも小物向き(樽や桶)の材料になることが多い。

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