37 時を超えて 【37-4】

【37-4】

その日の食事では、『エバハウス』の話で盛り上がり、楽しい時間を持つことが出来た。

さらに……


「折原紘生の名前を知っていて、三村紘生と結びつく人かぁ……
ふざけているわけではなくて、本当に浮かばないなぁ」

「そう……」


知らない女性が尋ねて来たときには、

『元彼女』ではないかという線で疑った私だけれど、

こうして三村さんと一緒にいると、また別の想像が一人歩きし始める。


これが何か……

罠になっているようなことは、ないだろうか。


三村さんのお母さんとお会いした後、

もらった書類に効力がないことを番場さんに教えてもらった。

あれからまた、折原家との話し合いは、ストップしたまま。

どこにでも顔を出す千葉さんのこともあるし。

せっかく落ちついている三村さんに、何か起こることがないだろうか。


「ん?」

「ううん……」


抱きしめあうほどそばにいるのに、胸の鼓動を聞けるくらいの距離にいるのに、

どこかから隙間風が吹く気がしてしまう。


「どうしました?」

「ううん……」


これからも一緒に、家具のデザインを仕事にしていけたら、

それだけでいい……



だから……



三村さんの腕が、私の体を包み込んでくれる。


「こうしていれば、その不安は解消されますか?」

「……エ……」

「強く抱きしめても、あなたの不安は、消えないでしょう」


私の不安……


「思うことがあるのなら、話してください。合っているとか間違っているとかではなくて、
口に出すことが大切です」

「はい……」


そう、話だけしておけば……


「あの」

「はい」

「この間の書類のように、何か起こるということはないですか」

「起こる?」

「そう。三村さんにあの書類を渡してくれとお母さんに言われてから、
また、こうして時間が経過しているでしょ。それで……」

「今日事務所に来た女性が、何かってこと?」


私は、彼の腕の中でただ何度も頷いた。

具体的には何もわからない。

ただ、このぬくもりを無くしたくないだけ。


「実家かぁ……」


結局、その日私たちは、朝の日差しに起こされるまで、同じベッドで眠っていた。





「おはようございます」

「おはよう」


三村さんは着替えてから仕事に来るつもりで、一度自分の部屋へ戻った。

朝は、私一人で事務所に到着する。


「知花ちゃん」

「はい」

「ねぇ、『NORITA』から、さらにジュエリーボックスの追加注文が来たわよ。
見て、この数」


塩野さんの嬉しそうな言葉に、渡された紙を見ると、確かに追加の注文が入っていた。

確かに、今までよりも数が多い。


「この間の舞台女優、えっと小林蘭子さんだっけ? が紹介してくれた記事、
あれ、大きいわよきっと。じわじわきていたところに、また一気でしょ」

「……はい」


『アトリエール』の中の、小さな記事。

しかも、紹介してくれた相手は、話題になるような派手な芸能人ではない。

それでも、『本物』を認めてもらえたことは、限界のないくらい嬉しいこと。


「よかったね、知花ちゃん」

「はい」


小菅さんから声がかかり、私はやっと笑顔になれた。





時計は10時になろうとしている。

三村さんもすでに事務所に到着し、『エバハウス』の仕事をしながら、

扉の方を何度も見た。



『午前中』



私は確かにそう話した。

大事な用事があるのなら、来てくれるはずだけれど。


「あ……」


事務所の扉が開き、『彼女』の正体を知りたがっている面々が、

一斉に顔を上げた。


「おはよう……」

「あ……おはようございます」


一番入り口に近いところにいた優葉ちゃんが、テンションの下がった挨拶をする。


「おはようございます」

「おはようございます」


入ってきたのは、打ち合わせから事務所に来た社長だった。

私たちもそれぞれ、挨拶を声にする。


「なんだなんだ、おい。小暮のテンション低かったな」

「いえ、すみません、そうではなくて……」

「朝くらい、元気に迎えてくれよ」

「すみません」


社長は、優葉ちゃんに軽く文句を言いながら、自分のバッグをデスクに置く。


「おぉ、そうだった三村。お前にお客様だ」


三村さんに、お客様……


「俺ですか」

「あぁ、事務所にどうぞと声をかけてあげたけれど、まずは折原さんの顔を見てからだと」



昨日の女性だ。



「あ……はい」


三村さんは立ち上がり、扉の方へ向かった。

優葉ちゃんは、計算機で顔を隠しながら、扉の向こうを見る。


「昨日の人だ、間違いない」


小菅さんは優葉ちゃんに、のぞくようなことをしてはいけないと、忠告する。

優葉ちゃんは舌を軽く出して、仕事に戻った。




【37-5】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【番場忠輔】
『番場法律事務所』の代表。『折原製薬』の顧問弁護士をしていた。
幼い頃から一人だった紘生のおもり役でもあり、寂しさも知っている。
会話がすぐに男女の話しになってしまうところが、マイナス点。

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