38 もたつく思い 【38-2】

【38-2】

『宝橋三丁目』


現在、午後3時半過ぎ。

私の仕事は、特に問題はなく、スケジュール通りに進んでいる。

このままなら、事務所を出るタイミングを間違えなければ、大丈夫。


伊吹さんは、新しいキャビネットのデザイン作りを始めているし、

小菅さんは、『アトリエール』を広げ、何やら付箋を貼り付けている。


「……ですね」


道場さんと三村さんは、『エバハウス』の仕事のことだろうか、

二人で何やら話しているし。



『長峰さんは、俺に何をしろと言いたいのですか』



久我さんのピンチ。

これが仲直りのきっかけになるかもしれないと思ったけれど、

相手の状況を全く知らない状態で、三村さんに押し付けるのは、

確かに何をしたらいいのか、指示できない。

そう、この間のように、相手のいいようにだけ言われて、

すごすごと帰ってくることになったら、それこそまた言われてしまう。



『まったく……』って。



駅ビルがどういう状態で建っているのかわからないけれど、

『久我不動産』の抱えたお店の状態、外からでも見えないだろうか。

うまく写真でも撮れたら、状況がわかったら、

三村さんの気持ちを、動かすことが出来るかもしれないのに。


そう、『宝橋三丁目』は、いつも行く『NORITA』から路線を乗り換えて、

15分もすれば、つけるはず。


「それでは、行ってきます」


その日の仕事の最後に、私は『NORITA』へ行き、

ジュエリーボックスの状況を聞いてくるという仕事をくっつけた。


「えっと……」


というのはもちろん、急遽貼り付けたウソで、

本当は『宝橋三丁目』に行こうと思っている。とにかく、のぞくだけ。

のぞいてみたら、わかることも……



『久我不動産』



もし、久我さんに会えることがあるのなら、

本当は三村さんも、壁を乗り越えたいと思っているはずだと……



話をして……



私が来たこと、話したことは、内緒にしておいてもらえたら、

それで……


「長峰さん、下に行きますよ、乗らないのですか」

「エ……あ……」


一人で出てきたと思っていたのに、いつの間にか道場さんに追い抜かされていて、

エレベーターの中で、エレベーターガールのようにボタンを押し、待っていてくれた。

ボーッとしていたのだろうか、来ていたことにも気付かないなんて。


「ごめんなさい」

「ボーッとしていると、スリや詐欺の餌食ですよ」

「エ……」


三村さん。

二人が一緒ということは……


「『エバハウス』ですか」

「はい。住宅購入を決めてくれたご家族から、別仕事を依頼されまして。
で、打ち合わせに」

「あぁ……そうですか」


道場さんの話だと、会社を経営しているご夫婦が、

次男夫婦に、今回の『エバハウス』が売り出した家を購入したらしく、

その中で、『DOデザイン』の仕事ぶりを気に入ってくれたのだという。

さらに、自分たちが伊豆に持つ別荘のダイニングセットや、

新しいベッドを作って欲しいという仕事を寄こしてくれたらしい。


一つの仕事が、また別の仕事を生み出している。

それも、二人の実力。


「長峰さんは……」


道場さんの問いかけ。

そう……ここは用意していたセリフを言わないと。


「あぁ、はい。『NORITA』に」

「これからですか」

「はい。ちょっと聞いておきたいことがあって……」


道場さんは、私と三村さんの気まずさも知らないし、

どちらかというと、空気を読んではくれないタイプだから、

新しいことが耳に入ると、あれこれ質問が止まらない。

一応『NORITA』へ行くと、予定通りのセリフを言ったけれど、

あまり立て続けに質問されると、ウソがばれてしまいそうで、こっちがヒヤヒヤする。


「ジュエリーボックス大好評だから、話をしていても楽しいでしょう」

「うん、まぁね。でも、大好評だなんて大げさよ」

「いえいえ、口コミって最強ですよ」


黙っている三村さんがそばにいるのは気になるけれど、

この話はおかしくもなんともないだろう。

『エバハウス』に行くのなら、そもそも地下鉄の駅が通りを挟んだ別の方だし、

交差点前くらいで、挨拶できるはず。

3階で、また別の男性が乗ってきた。急いでいるのか、ドアの前に立つ。

4人を乗せたエレベーターは1階に到着し、

スーツの男性は一番に飛び出し、玄関を出た。

1台のタクシーが道の横に止まっていて、乗り込んでいく。


「それじゃ……」

「あ、お疲れ様です」

「道場さん」

「はい」

「今日は何曜日でしたっけ」

「えっと……『火曜日』です」



『火曜日』



「長峰さん。『NORITA』は、火曜日定休日ですよ。確か俺の記憶だと」



『定休日』



「日付、間違えていないですか? それとも、定休日だけれど、
話を聞いて欲しいから出てきてくれと、そう約束したのですか」

「あ……」


そうだった。今日は『火曜日』。

『NORITA』の定休日だということを、すっかり忘れていた。




【38-3】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【松宮環奈】
紘生の大学時代の友人、久我秀臣の妹、すでに嫁いだため名字は松宮。
紘生と秀臣のぎくしゃくした関係を知っていたため、
なんとかしたくて『DOデザイン』にやってくる。

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