38 もたつく思い 【38-4】

【38-4】
「あの……確か、『DOデザイン』の方ですよね」


まだ、心の準備が出来ていない状態で、見つかってしまった。

しかも、のぞいているところ。


「すみません、こんなところからのぞいたりして」

「いえ……」


環奈さんは、もしかしたらという希望を持ってしまったのだろうか、

私に、中に入って見てくださいと、そう誘ってくれた。


「いえ、あの、すみません」


予想外だった。時間的に、工事も終わりに近いだろうと思っていたので、

まさかここで会うとは考えていなかった。


「大丈夫です。『DOデザイン』が関わることは出来ないと、
折原さんにハッキリダメ出しされました。だから、見てもらったからといって、
仕事を受けてくれとは言いません。でも、何かアドバイスでもいただけたら、
兄に伝えられますし、ぜひ……」


断る理由がないまま、私はビルの中に入り、問題の店舗の前に立った。


「ここです」

「はい」


長い間守ってきた店を、娘の希望で変える決心をしたのに、

心ない業者のせいで工事は止まり、紹介した久我さん一家まで巻き込まれた。

私は残されているテーブルの板を、右手で拳を作り、叩いてみる。



音は、意外と悪くない。木目を見ても、なかなかな木だと思う。

業者が逃げたと聞いていたので、もっと悲惨な状況かと思っていたけれど、

そうでもないかもしれない。

試しにテーブルを両手で上から押さえてみると、明らかにがたつきがあった。



どうしてこんな雑な扱いをしてしまったのだろう。

これでは、お客様に失礼だ。



「これ、注文で作られたものですか」

「はい。テーブルを一つ、お店の奥に置いて、
紅茶やお菓子を食べるスペースを作りたいというのが希望だったようで」

「そうですか……」


もったいない……

これでは板をつなげている隙間に、汚れが入り込んでしまう。

加工もそれなりにしないと、紅茶をこぼしたり、お菓子のカスが出たりするのだから。

素のままでは、長く持たなくなる。


「こちらの板は、装飾用ですか」

「すみません、よくわからないのです」

「そうですか」


どれくらいの予算をかけて、木材を集めたのだろう。

この木。装飾用にしては重いし、厚みも揃っていない気がする。

設計図があれば、なんのためにあるのか、わかるけれど。


「相当、ダメということですよね」

「エ……あ、いえ」

「表情を見ていたらわかります」


環奈さんは、そこで初めて笑顔を作ってくれた。


「ごめんなさい」


そう、適当な顔が出来なかった。

これでは、根本的に考え直さないと、お店にはならない。


「新しい業者を探さないとならないのですが、どう動いたらいいのか」


一度大変な思いをしてしまうと、信じられるところがどこなのか、

確かにわからなくなるかもしれない。


「このお店は、環奈さんが担当なのですか」


久我さんは、どうしているのだろう。


「いえ、私は去年嫁いだ身なので、普段ここへ来ることはないのです。
兄が折原さんに頼み事など出来る立場ではないことも、わかっていたのですが、
他に、相談する人もいなくて」


大企業を相手にするような不動産業なら、つきあう企業も数があるし、

色々と手は打てるのかもしれない。

しかし、『久我不動産』は、地元の縁て゛この仕事を引き受けている。


「一つ伺ってもいいですか」

「はい」

「あの……どうして『DOデザイン』に三村……いえ、折原さんがいると、
ご存知だったのですか」


そう、それが一つ疑問だった。

『DOデザイン』に入ってからは、三村紘生としてしか活動していない。


「兄が……」

「兄って、秀臣さんのことですか」

「はい。折原さんのお父さんには、うちは長い間助けていただいていて、
折原さんが外国にいることも、そこでデザインの仕事をしていることも、
日本に戻ってきたことも、全て聞いていましたから」

「……折原さんのお父さん」

「はい」


戻ってこいと言い続けているお母さんではなくて、

一度も姿を見せないお父さんが、三村さんの活動を全て知っていた。


「兄も、折原さんの活躍を、とても喜んでいるんです」


環奈さんは、今年の春に、久我さん本人が『エアリアルリゾート』のペンションを予約し、

ご両親を連れて行ったことを話してくれた。


「あのペンションにですか」

「はい。折原さんが関わったと、教えてもらって。それで……」


教えてもらった。


「教えてもらったのも、折原さんのお父さんから……ですか」

「だと思います。私は兄に聞いただけですけれど」


三村さんは、自分の活動が公になることを嫌がっていたが、

お父さんには知られている事実だった。




【38-5】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【松宮環奈】
紘生の大学時代の友人、久我秀臣の妹、すでに嫁いだため名字は松宮。
紘生と秀臣のぎくしゃくした関係を知っていたため、
なんとかしたくて『DOデザイン』にやってくる。

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