38 もたつく思い 【38-5】

【38-5】

「思いきって、会いにいってみたらと話したこともあるのですが。
兄は、自分がしたことを考えたら、折原さんの顔を見ることなど出来ないって、
そればかりで……」


久我さんも、三村さんとの接点をきっと探していた。

申し訳ないと思いながらも、どうにかしたいという思いも、あるはず。


「あの……」

「はい」

「具体的に仕事をしていただくのは無理だとしても、
業者だけでも、ご紹介してもらうことは出来ないでしょうか」


業者の紹介。

材料の仕入れや、内装の職人の手配。

確かに、『DOデザイン』に戻り、社長や伊吹さんに話せば、

信頼できる業者を紹介することは出来るだろう。



しかし、そうなると。



「費用はどうされるおつもりですか。正直、このテーブルもこのままでは使えません。
もし、これが装飾用の板なら、素材と用途があっていないと思います」


何もかもなかったと諦めて、全て最初からという条件でなければ、

業者は仕事をしてくれないだろう。投げ捨てられたものの処理など、大変なだけで、

利益は少ない。しかも、心情的にお金を取ることが難しくなる。


「音信不通になった業者とは、まだ……」

「はい。警察にも届けましたが、お金の回収は難しそうです」


見抜けなかったこちらが悪いと言えば悪いけれど、

付き合いのある人の紹介だと、疑うようなことは出来なかっただろう。


「お客様のご希望は、どんな……」


言葉の途中で気がついた。私は今日、ここに見るだけという条件で来たはず。

環奈さんの話を聞いて、力になってあげたいけれど、私にはその力がない。


「あ、いえ、ごめんなさい、いいです。仕事は出来ないとお断りしておいて、
細かく聞くのは失礼ですね」

「いえ……」


三村さんの言うとおり、中途半端に関わってしまったら、逆にまた迷わせる。

状態はだいたいわかった。これで失礼しますと言おうとしたとき、

外から一人の男性が、走りこんできた。


「お兄ちゃん」

「……環奈、お前」


お兄ちゃん……

となると、この人が『久我秀臣』さんだろうか。


「どうしたの」

「あ……いや……紘生のお父さんに、業者の紹介をしてくれないかと、
親父が電話で話してしまったらしくて」

「お兄ちゃん、『折原製薬』に電話したの?」

「よく聞けって。俺じゃないよ親父だ。親父も心配しているのだろう」



『折原製薬』



「あの……」


久我さんの視線が、私の方へ動いた。

知らない人間が入っていると、驚いているように見える。


「すみません、『DOデザイン』の長峰と申します」


私はバッグから名刺入れを取り出し、名刺を1枚、久我さんに差し出した。

久我さんは、名刺を受け取ろうとはしないままで、会社の名前を聞いた瞬間、

明らかに表情が変わる。


「『DOデザイン』って……」

「折原さんの会社の方。私が折原さんに会いに行ってきたの」

「紘生に?」

「そう。折原さんなら、何か考えてもらえるかもしれないって、そう思って」

「環奈……」

「だって、折原さん、家具のデザイナーなのよ。
お兄ちゃんだって、『エアリアルリゾート』で、感動していたじゃない。
あいつはすごいって。紅茶のお店を作ってもらうには、ふさわしい人でしょ」


ベーカリーショップ、それから喫茶店。

確かに、お店で使う家具などを考えることは、私たちにも出来るだろう。


「ダメだよ……」

「お兄ちゃん」

「紘生が俺のこと、助けようなんて思ってくれるわけがない。
あいつの人生、狂わせてしまったのは、俺なんだぞ」


久我さんはそういうと、首を何度も横に振った。


「あいつを裏切ったのは俺だから。一生、許してもらえるわけがないんだ。
今もまだ、『折原製薬』に世話になっている状態が続いているし……」


親思いの久我さんが、三村さんを裏切ったことは事実だけれど、

それがなければ、三村さんは自分の思いを出すことが出来ないまま、

まだくすぶり続けていたかもしれない。


裏切ったけれど……でも……

解き放ってくれたということも、言えるはず。


高くて大きな壁だけれど、顔をあわせればきっと、わかりあえる。

私は自分の名刺を裏にして、折原さんの携帯番号を書き写した。

それをあらためて久我さんに差し出す。


「久我さん」

「はい」

「名刺の裏に、折原さんの番号を書きました。ぜひ、会いに来てくれませんか」

「……いや、でも」

「お願いします」


私の気合が届いたのだろうか、

久我さんは迷いながらも、名刺に手を伸ばしてくれた。




【38-6】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【松宮環奈】
紘生の大学時代の友人、久我秀臣の妹、すでに嫁いだため名字は松宮。
紘生と秀臣のぎくしゃくした関係を知っていたため、
なんとかしたくて『DOデザイン』にやってくる。

コメント、拍手、ランクポチなど、お待ちしています。(@゚ー゚@)ノヨロシクネ♪


コメント

非公開コメント