38 もたつく思い 【38-6】

【38-6】
会いに来てくれさえすれば、過去のことはあったとしても、

この状況をどうでもいいとは思えなくなるはず。


「折原さんに会いに来てください。あなたに会いたくて、
あなたを許したくて仕方がないのは……折原さん自身だと思います」



本当は、何か力になりたいと思っているはず。

自分のために、辛い思いをしてしまった久我さんに、謝りたいと思っているのは、

三村さんのはず。

重たくなってしまった心を動かすのは、飛び越えてみようと思えるのは、

何か大きなきっかけがないと難しい。


「すみません、私、以前、三村さん……いえ、折原さんです。
お二人の話を聞きました。折原さんがイタリアにいるとき、
ケンカして別れてしまったことも知っています。でも、折原さんこう言いました。
悪いのは話をしてしまった久我さんではなくて、親と向き合おうとしなかった自分だと。
折原さんもわかっているんです。ただ、きっかけがないから……」


どんなことをしても貫いていこうと思うデザインの仕事。

それで久我さんを助けられるのだとしたら、これは絶対にきっかけになる。


「そうよお兄ちゃん。ここはお願いしますと、二人で言いに行こうよ」


久我さんは黙ったまま、下を向いている。

季節が何度も移り変わる間、二人は背を向け続けてきた。


「すぐに返事が出来ないのはわかります。
でも、こうして迷っていても、時間はどんどん過ぎていきます。
あなたが、この仕事を頑張ると決めたのなら、それならぜひ……」


親の跡を継ぎ、地元を愛して行こうと決めた久我さんなら、

全く別の道を歩んでいる彼を、動かすことが出来る。



きっと……



「待っていますから、事務所で」


そう、待っています。


「いえ、でも……」

「越えてください。折原さんのために……」


これ以上、強く押すことは出来なかった。

久我さんからもわかりましたという言葉は、出てこなかった。

環奈さんは、私に頭を下げてくれたけれど……



この小さな場所が、大きく時を動かすことになるのかどうか、

わからないままビルを出た。





『越えてください』とそうお願いした。

地下鉄のホームまで歩く間に、ずいぶん大胆なことをしてしまったと、

急に鼓動が速まってくる。

以前の私なら、こんなこと絶対にしなかっただろう。

余計なことに首を突っ込んで、ごちゃまぜにしてしまったら、

それで出来る微妙な空気を吸いながら、前を見続けることが出来ないと思っていたから。



いや……今でも、前へ出て行くということは、好きではない。



でも、これは違う。

これは三村さんのことだから。



私を目覚めさせ、新しい日々を作り出してくれた人が、

長い間、抱えている荷物だからこそ、どうにかその重さを取り除いてあげたい。

私は電車に乗り込み、携帯に保存してあったある人の番号を呼び出した。





最寄り駅で降りて、近くのスーパーで買い物を済ませる。

今日は、それほど夕食作りに時間をかけていられない。

調べたいこと、聞きたいことがたくさんあるから。

急いでカゴを取り、商品を入れて、レジに並ぶ。



『夜8時過ぎなら、OKだよ』



電車の中でメールを入れた戸波さんから、8時過ぎなら電話に出られると、

返信をもらった。





食事を済ませ、片づけをした後時計を見ると、8時を少し回っていた。

私はあらためて携帯を取り、戸波さんの番号を回す。


『もしもし』

「すみません、長峰です」

『はいはい』


戸波さんの工場に見学させてもらった日、やめてしまったお店の家具を引き取り、

リサイクルして送り出す作業をしている話も、聞いたことを思い出した。

木には詳しい戸波さんのことだ、

唯一残してくれたテーブルをもう一度生まれ変わらせる方法も、

思いついてくれるかもしれない。

私は、『久我不動産』のこと、三村さんと久我さんの関係なども、

戸波さんにわかりやすく話をした。


三村さんがイタリアで人生を変えたことは、戸波さんもおおよそわかっていたので、

話しがそこで止まるようなことはなく、具体的なことに向かっていく。


『そう……脚、がたついている』

「はい。木材そのものはよさそうでした。分解して、
組みなおすデザインを考えた方がいいのか、脚部分の材料を変えて、
そのままにした方がいいのか」

『うーん……ものを見ていないから、どうだと決めることは出来ないな』

「そうですよね」

『俺、一度見に行ってあげようか』

「あ……」


戸波さんに見てもらえたら、どれくらいの金額がかかるのかも、すぐにわかるだろう。

しかし、話しが大きくなってしまうと、三村さんの許可を得ていないだけに、

反動も大きくなる気がしてしまう。


『大丈夫だよ、見に行ったからといって、すぐにお金が動くとか、
責任を背負えとは言わないし』


戸波さんは、少し笑って、そう答えを返してくれた。


『紘生は、この話、反対しているってことなの?』


ウソをつくことは出来ない。

私は、三村さんが相手側が言い出さない段階で動くことはないと、

思っていることを話した。




【39-1】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【松宮環奈】
紘生の大学時代の友人、久我秀臣の妹、すでに嫁いだため名字は松宮。
紘生と秀臣のぎくしゃくした関係を知っていたため、
なんとかしたくて『DOデザイン』にやってくる。

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