39 無完璧な人 【39-1】

39 無完璧な人

【39-1】

三村さんが、久我さんを救うことに、まだ納得していない事実。

それは戸波さんに隠しておくことではない。


『だろうね。もし、あいつがわかっていることなら、長峰さんではなくて、
あいつから俺にかかってくるだろうからさ』

「すみません、そうすると動きにくいですよね、戸波さん」

『俺? いや、いいよ。本当に仕事として動くのなら、
あいつを無視するわけにはいかないけれど、まだ、手探りの段階でしょ。
見るくらいならやりますよ』

「すみません、助かります」


それからも、戸波さんと仕事の話しが続き、気づくと、9時をまわっていた。

私は長い電話になってしまったことを謝罪し、明日にでも久我さんと連絡を取り、

もう一度かけ直しますと挨拶し、受話器を閉じた。


「ふぅ……」


環奈さんと話していたときには、目の前に置かれたテーブルと重ねられた板の存在に、

何も細かいことが浮かばなかったけれど、戸波さんと話をしているうちに、

ぼんやりだけれど、どうしたらいいのか見えてきた気がする。


久我さんの窮地を、三村さんが救えるのなら、

それが、あの日から止まった互いの時計を、動かすことになるかもしれない。


今でも『折原製薬』のお父さんと、久我さんの家につきあいがあるのなら、

間接的にでも、三村さんの仕事ぶりを、話してもらえるかもしれない。


そういえば、冷蔵庫の中に、まだ飲んでいないビールがあったはず。

少し話しが動く気配を感じたため、私は『アトリエール』を開き、

冷蔵庫からビールの缶を取る。

プルを開けて小さなグラスに注ぎ、それを半分くらいになるまで飲んでみる。


「はぁ……」


話し続けていたからだろうか、いつもより美味しい気がする。

『コルクボード』や『ボリウレタン塗装』、お酒がいい意味で力をくれたのか、

それなりにアイデアも浮かび始める。

残した漬け物をつまみながら、紙にあれこれ書いていると、時間は11時を越した。

そろそろお風呂にでも入ろうかと思った時、インターフォンが鳴る。


「……はい」

「……俺」


三村さん……

こんな時間に、連絡もなく来るのは珍しいと思っていると、

なにやらガタガタと音がして、何かが扉にぶつかった。


「どうしたんですか」


ドアのチェーンをつけたまま、一度ゆっくり扉を開くと、

三村さんが壁に寄りかかったようになりながら、座り込んでいた。

私は慌ててチェーンを外し、扉を開ける。


「三村さん……」


具合でも悪いのだろうか。

事務所前で別れたときには、特にいつもと変わらない気がしたけれど。


「ん……」


お酒くさい。

『エバハウス』の打ち合わせで、飲み会にでもなったのだろうか。


「三村さん、すごくお酒くさいですけど、飲みすぎたんですか? 
ここで座っていたらダメですよ。とにかく中に入って……」

「やめろって言ったじゃないですか!」

「エ……」

「やめろと言ったのに、どうしてあなたはそうやって関わろうとするかな。
あなたには出来ないんですよ、いや、無理なんです」


酔っているからか、声が大きい。

それに、『あいつ』とは久我さんのことだろうか。

とにかく、三村さんを中に入れないと。

廊下でガタガタしていると、ご近所から文句を言われてしまう。


「ここでは迷惑ですから、入ってください」


私はなんとか三村さんを起こし、玄関の中へ引っ張った。

本人にやる気がない状態だと、動かすのが本当に大変。


「三村さん……」

「秀臣は、『折原製薬』とのつながりの方が重要なんですよ。
もう、いい加減にわかったでしょう」


三村さん、久我さんに会ったのだろうか。


「三村さん、久我さんに会ったのですか」

「俺が? どうしてあいつに会うんですか」


だって……


「長峰さんこそ、『NORITA』を口実にして、『宝橋三丁目』にでも、
フラフラ行ったのでしょう」

「フラフラ? いえ……」

「ったく、俺があなたには勝てないとそう言ったから、また、余計なことを……」


フラフラって、そんな言い方はないと思うけれど。

こうなったら全て話してしまおう。


「行きましたよ。だって、わかっていたでしょう。
『NORITA』が定休日だと、教えてくれた時点で」

「はい、もちろんわかってましたよ。どうしてあなたはわかってくれないのかと、
心の底からイライラしながら……」


三村さんは、倒れ込んだ玄関から起き上がると、

ふらつく足取りでそのまま流しまで向かい、グラスを取る。

蛇口を思い切りひねったので、あちこちに水しぶきが飛んでいく。

あふれるくらいまで水を入れて、それを一気に飲み始めたので、

私は蛇口を元に戻す。


「……はぁ」


そのグラスを手に持ったまま、今度は部屋の中に入り、

テーブルの奥、部屋の隅にしゃがみ込んでしまう。

それでも座っているのが大変なのか、体は自然と横になってしまった。




【39-2】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【久我秀臣】
『久我不動産』の跡取り息子。
実は、紘生と大学が同じで、唯一デザイナーになりたい夢を知っていたが、
それを紘生の父に話してしまい、紘生が会社を飛び出すきっかけを作った。

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