39 無完璧な人 【39-3】

【39-3】

その日の昼食は、塩野さんと出かけた優葉ちゃんを抜いた、

私と小菅さん、道場さんの3人で出かけることになった。

道場さんと三村さんと出かけた『エバハウス』の件を、聞いてみるべきかどうか、

歩きながら迷っていたが、その話しは、メニューを選び終えた道場さんから、

飛び出していく。


「もう、午前中に電話があったので、ようやく気持ちが落ち着きましたけれど、
昨日は生きた心地がしなくて」

「昨日?」

「はい。昨日、三村さんと『エバハウス』に出かけて、
注文住宅を購入した方のご両親から、
新しい仕事を請け負うことになっていたものですから、その話を……」


元々、その家は『エバハウス』の株を持つ株主だったため、

話しも本来、スムーズに終わる予定だった。

しかし、三村さんの出したアイデアのミスがあり、相手が怒り出したという。


「本当に初歩的なミスだったんです。
寸法もずれていたし、指定されたものの資料も持っていかなくて」

「エ……本当に?」

「はい」


何と間違えてしまったのか、そこまで細かくわからないが、

とにかく、人に時間を取らせておいて、どういうことだと、

クライアントが怒鳴ったという。


「三村君にしては、あまりにも……のミスだね」

「そうなんですよ。私、一昨日の段階で三村さんからコピーをいただいていたので、
すぐにそれを出して、で、相手もおさめてくれたのですが」


相手方は、OKの言葉を最後まで出してくれなかったこともあり、

道場さんは今日の電話を首を長くして待ったのだと、そういった。


「どうしてまた」

「しっかりデザインも出来ていたのに、三村さん自身も、
自分がどうしてその用紙を持っていたのか、わからなかったみたいです。
『エバハウス』を出てからも、ずっと考え事をしていたように見えましたし」


三村さん、結局、午前中には事務所へ来なかった。

どこか別の場所から、来るつもりだろうか。


「でも、その時までは少し疲れていたのかもしれないなんて言って、
三村さん笑っていたんですよ。で、私に迷惑をかけて申し訳ないから、
食事でもおごりましょうかと言われて……」

「お酒でも飲みに行ったの?」

「いえ……」


道場さんと仕事の失敗を肴にして飲んだのかと思ったが、

あの酔いっぷりは、そういうことではなかった。

とすると……


「『エバハウス』から出て、お店を探していたら、
どこかから三村さんに電話があったんです。それ自体はすごく短い電話でしたけれど。
内容的に複雑だったのか、三村さん急に黙ってしまって。
とにかく今日はすみません……とそれだけで」

「食事には行かなかったの」

「はい」


電話……


「電話、どこからかかってきたのかしらね」

「それはわからないですけれど、ものすごく真剣な顔で話をしていました。
今日来ていたら、聞いてみようと思っていたのに……」


『エバハウス』での仕事で、ミスをしたとはいえ、

それまでは道場さんと食事をする気持ちでいたのだから、

深酔いするほど飲む理由は、おそらくかかってきた電話にあるのだろう。



さらに、環奈さんの謝罪。



たった一日で、何か大きな出来事が……



私は、なんとか二人に合わせながら食事をしたけれど、

あまり喉を通らずに、少し残してしまった。





食事を終えて事務所に戻ると、中で環奈さんが待っていた。

私は待たせたことを謝り、事務所の奥にある小さな部屋へ案内する。


「本当にすみません、長峰さん」

「あのね、環奈さん。私、正直、どうして謝られているのかがわからないの。
どういうことなのか、詳しく教えてくれませんか」

「はい」


環奈さんは、昨日、私があの駅ビルから出た後のことを、細かく話しだした。

あの後、環奈さんの兄、秀臣さんが『久我不動産』へ戻ると、

お父さんが待っていて、仕事の件は全て片付いたと喜んでいたという。


「片付いた?」

「はい。兄や私に内緒で、どうも父は『折原製薬』の社長に事情を話して、
動いてもらっていたらしくて」


そういえば、久我さんが飛び込んできたときにも、

お父さんが三村さんのお父さんを頼ってしまうと、そんな話をしていた。


「実は……兄は、折原さんに会いに行こうと、思ったいたようなんです。
自分が悪いことも、申し訳ないこともわかっているけれど、
ここは折原さんにお願いしてと……」

「そうなんですか」

「はい。私が先にここへ来てしまって、折原さんから断られた話をしたので、
兄も無理かもしれないと思い始めていて。それでも、あの後、
もう一度二人でここへと話しながら戻ったのですが。父が……」

「お父さんが」

「はい。兄が長峰さんの名刺を持ち帰ったことに気付いて、
電話をかけたんです」

「電話? 誰にですか」

「折原さんにです」


三村さんに電話……

そういえば、私が名刺の裏に三村さんの携帯番号を書いた。

あれは、久我さん本人にかけて欲しいという意味で書いたのだけれど、

もしかしたら、その電話が道場さんの言っていた短い電話ということだろうか。


「あなたが動くようなことになったら、
うちは『折原製薬』の社長から見放されてしまうから、だから関わらないでくれって」


『関わるなという拒絶の電話』

三村さんはそれを聞き、ショックを受けたのかもしれない。

私が番号を書いたことは、久我さんのお父さんにはわからない。

こっそり、三村さんが助けようとしているのではないかと、勘違いされてしまった。



また……余計なことをしてしまった。




【39-4】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【久我秀臣】
『久我不動産』の跡取り息子。
実は、紘生と大学が同じで、唯一デザイナーになりたい夢を知っていたが、
それを紘生の父に話してしまい、紘生が会社を飛び出すきっかけを作った。

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