39 無完璧な人 【39-5】

【39-5】

「もしもし、長峰です」

『おぉ、こんにちは』

「もしかしたら、そちらに三村さん」

『あぁ、そうそう。確かこいつはそんな名前だったね』


三村さん、戸波さんのところに行っていた。

どこにいるのかわからなかったので、

三村さんの居場所がとりあえずわかり、ほっとする。


「何していますか、三村さん」

『ここへ来てから、しばらく木の磨きを手伝っていたけれど、
今は事務所の奥で天井見上げているよ』

「……そうですか」


戸波さんは、三村さんからおおよその状況を聞いたらしくて、

私が、頼もうとしていたことがなくなったことも知っていた。

あらためて巻き込んでしまって申し訳ないと、謝罪する。


『いえいえ、大丈夫ですよ』

「あの、戸波さん。三村さん、車でそちらに向かったのですか」

『それがね、珍しいことに電車で来たんだよ。
忙しいのに、わざわざ駅まで迎えに来いって……全く、身勝手でわがままな男だろ』


明け方、私の部屋から出て、着替えをするために戻った後、

事務所へ来るつもりになっていたのに、

足が戸波さんのところへ向いてしまったのだろう。

『身勝手』と言いながらも、戸波さんは笑っている。



『心が辛くて、整理がつかなくて』



三村さんも、以前、私が和歌山へ逃げてしまった日のように、

現実に距離を置きたくなったのかもしれない。


「わかりました。ご迷惑をかけますが、もうしばらく保管をお願いします」

『了解』


会社の軽自動車なら、私にも運転できる。

戸波さんの住所をナビに入れたら、なんとか着くだろう。

私は携帯を閉じ、時計を確認すると、社長に事情を話し、

車を貸して欲しいとお願いした。





『コンスタン』


人気が出てきたメーカーなので、仕事をしてほしいと頼む人も多いだろう。

それを簡単に引き受けさせたのだから、やはり大手の力は半端ではない。

トラブルが逆に、大きな宣伝効果を生み出すかもしれなくて……



たった一人の、小さな心の傷など、

世の中の人には、どうでもいいことだろうから。


「ふぅ……結構混むなぁ道」


山道に入ろうかという場所で、手作りソーセージのお店を見つけた。

そういえば、急いで出てきてしまったので、何もお土産を持っていない。

戸波さんの家から近いのだし、食べたことがあるかもしれないけれど、

それもいいだろうと思い、私は車を止める。


「いらっしゃいませ」


扉を開けるだけで、いい匂いが漂った。

色も長さも太さも、迷ってしまうほど色々な種類が置いてある。

ソーセージって、これだけ種類があるものなのかと、目ばかりがあちこちに動いてしまい、

何がおすすめで、何が美味しいのか、考えられなくなった。


「あの……」

「はい」

「初めてなので、何かおすすめとかありますか」


私が店員さんにそう尋ねると、わかりましたと笑顔で応待してくれた。





「こんにちは、長峰です」


以前、桐箪笥を見せてもらった日、ここへ連れて来てもらった。

東京からそれほど離れていない場所で、

これだけ本物の『木』の香りがあるところは、本当に貴重。


「いらっしゃい」

「すみません、色々と」

「いえいえ、どうぞ」


戸波さんは、事務所の方に手で合図する。

私は戸波さんに、買ってきたお土産を渡した。


「あ……何、『リトルメイ』に寄ったの?」

「ご存知でしたか、このお店」

「うん、この辺では結構有名だからね。お店の修理とか、今でも俺、頼まれるし」

「そうなんですか、じゃぁ、珍しくも何でもないですね」

「いやいや、珍しくはないけれど、美味しいから嬉しいよ。
悪かったね、こんなことしてもらって逆に」

「いいえ」


そうだった。戸波さんは大工の仕事もある程度出来る人だった。

地元のお店との縁は、色々とあるだろう。


「おい、紘生。お迎えが来たぞ」


三村さんは、電話で戸波さんが話していた通り、畳の上で横になっていた。

私は靴を脱ぎ、中に入る。


「三村さん、仕事を休むこと、きちんと事務所に電話しましたか」

「……さっき」

「お休みの電話は、普通、仕事が始まる前にするものです」

「申し訳ございません」


三村さんは、人の話がうるさいとでも言うのだろうか、

座布団をまくらにして、反対側を向いてしまう。


「環奈さんが、謝りに来てくれました」


三村さんからの返事はない。

でもこの人はきちんと聞いている。

私は気にせずに、環奈さんが話していたことを語り続けた。




【39-6】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【久我秀臣】
『久我不動産』の跡取り息子。
実は、紘生と大学が同じで、唯一デザイナーになりたい夢を知っていたが、
それを紘生の父に話してしまい、紘生が会社を飛び出すきっかけを作った。

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