39 無完璧な人 【39-6】

【39-6】
久我さん本人が、実は三村さんの仕事ぶりを喜んでいて、

『エアリアルリゾート』のペンションにも泊まりに行ったこと、

今回も、環奈さんと二人で会いに来るつもりもあったこと、

タイミングが悪かっただけで、これからまだチャンスがあること、

戸波さんが入れてくれたお茶を飲みながら、そう順番に話をした。


「ごめんなさい、久我さんにお会いして、
裏に三村さんの携帯番号を書いた名刺を渡したのは私です。
おそらく、お父さんはその番号を見て、かけてきたのだと思います」


久我さんが三村さんを拒絶しているわけではない。

それは私が聞いて見た、事実だから。


「……また、余計なことをしてしまいました」


何かを変えたくて、どうにかしたくて動くのに、

私がやることはいつも、空回りだけしてしまう。

考えが浅はかなのか、それとも動くだけの力がないのか、

やればやるほど、三村さんを追い込んでしまって……



もう……語ることがない。

どんなことがあっても、『あなたを怒れない』と言っていたけれど、

いささか呆れているだろうか。


「みっともないですよね、これ」


背を向けたまま、三村さんはポツリとそう言った。


「ごめんなさい、私のせいです」


そう、みっともない。

出来ないのだから、黙っていようと、今までの私ならしていたはずなのに。

前に出るなんていう、柄にもないことをしようとするからダメばかりで。

やはり、後ろに下がっていた方が、うまく回るのかもしれない。


「長峰さんのことではないです。俺のことです」

「エ……」

「失敗して、泥酔して、あなたに八つ当たりして、仕事をさぼって、
ここで寝転んで……」


三村さんのこと……


「久我のことは、気にすることではないのだと、そう思っていたはずなのに、
『エバハウス』で、本当にあまりにも簡単なミスをしてしまって。
長峰さんにも動くなと言ったのに、本当はあなたが何を見て、どう感じてくるのか、
それが気になって……」


冷静に見えた三村さんだけれど、本当はそうではなかった。

いや、でも、不安定な気持ちになって当然だと思う。

友達のピンチを聞き、全く知らないふりが出来る人の方が、私には理解できないから。


「久我の親父に、『動くな』と言われて。
なんだかこっちの思いを、見透かされているような気になりました」


『折原製薬』という大きな壁の力を、見せ付けられたような思い。


「何かしてやれることがないかと、そわそわしているのを、見抜かれたような……」


『何かをしてやりたい』

三村さん、そう思ってくれていた。


「みっともないです、本当に」

「そんなことないですよ」

「いや、いいですよ。本音で言ってください」

「本音ですよ、人ですから、色々とあります」


そう、みっともないだなんて思わない。

むしろ、気持ちが揺れていて、迷っていてくれたことが、なんだか嬉しい。


「人?」

「はい。強くなれるときも、弱くて泣きたくなるときも、いろいろあって当たり前です」


人は完璧ではないのだから。

時には泣いたり、怒ったり、いつも笑ってばかりはいられない。

三村さんが失敗している姿、『心』がそこにある気がして……

私の感覚がおかしいのだろうか、『愛しく』思えて仕方がない。


「私、今日ここまで会社の車を運転してきました。実は初めてなんです。
長い距離、一人で車に乗るのは」


そう、それは本当に初めてのことだった。

いつも助手席に座らせてもらうことが多かったので、免許は持っているものの、

実家の近くを買い物する程度しか、活用していない。


「見せかけのゴールド免許なのです。でも、頑張ったんですよ、
薄暗くなる道にもめげずに、三村さんのために」


三村さんを、迎えにいかなければという気持ちが、私を奮い立たせた。


「斜線変更もドキドキでしたし、ナビがあるとはいえ、山道で間違えたらどうしようとか、
あれこれ考えながら、なんとか……」


そう、ここにたどり着きたくて、あなたに会いたくて、

本当に……


「やれば出来るってことですね、私にも」


そう、弱音を吐かずに、ここまで来られた。


「褒めてくださいってことですか」

「そうです……」

「ふぅ……」


それまで横になっていた三村さんが起き上がり、初めてこっちを見てくれた。

昨日見せていた哀しい顔ではなく、いつもの……



……引き寄せられて、唇を重ねたこのキスが、頑張った私へのご褒美だろうか。



「ご褒美、これですか」

「不満でも?」


なぜだろう。三村さんが辛いはずなのに、

久我さんとの距離を埋められずに苦しいはずなのに。

私の表情は、全くしまらなくて……


「遠路はるばる、お迎えに来ていただきまして、ありがとうございます」

「いえ、どういたしまして」


笑顔を見せながら、あらためて交わしたキスは、

お互いへの感謝の思いが、しっかりと込められていた。




【40-1】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【久我秀臣】
『久我不動産』の跡取り息子。
実は、紘生と大学が同じで、唯一デザイナーになりたい夢を知っていたが、
それを紘生の父に話してしまい、紘生が会社を飛び出すきっかけを作った。

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