41 男女平等 【41-3】

【41-3】
『三村さんから折原さん』

猪田さんらしいと言えばらしい、わざとらしく名前を呼びなおして。


「どうもお久しぶりです」

「顔合わせの時以来だね」

「はい」


『顔合わせ』

そういえば、一番最初に打ち合わせをしたのは、折原さんと伊吹さんだった。

顔合わせをしたのだから、名前を憶えていてもおかしくない。


「猪田さん、うちの長峰がご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。
元はといえば、私が現場を離れてしまったので」

「いえいえ、『DOデザイン』さんにも色々とご事情がおありでしょうしね。
うちとしては、仕事をしていただけたらそれで」

「ありがとうございます。うちは人数ギリギリですから、
男も女も分け隔てなく仕事をしないとならなくて。なかなか就業の条件が……」


確かに、うちは男女の区別なく仕事をしている。

でもそれは、仕事の内容から言って、当たり前のはず。


「あの……こちらは島浦先生の秘書をされている雪村さんで、よろしいですか」



島浦先生?



「あ、うん……島浦先生の……って」


突然、『先生』の名前を出された猪田さんも、そして雪村さんも、

今までとは少し違う表情で、折原さんを見る。


「雪村さん、ぜひ、女性の仕事の条件を、もっと向上させるという活動、
島浦先生に頑張っていただきたいと、お伝えください」



だから島浦先生って、誰?



「……えっと……島浦を、知っているのですか」

「はい。学生時代に、教授と生徒として、授業を受けましたので」


それまで、人を上から見ていた雪村さんの表情が、『島浦』という名前で一変した。

どうしたのだろう。

目もうつろに見えるし、焦点が合っていないようにも見えてくる。


「あの……」

「島浦先生は、ご専門の知識を生かされて、『女性の社会進出と男女平等』の話を、
よくしてくださいました」

「あ……うん」

「私自身、『青峰大学経済学部』を出たもので、
学生時代、先生の講義は何度も聞かせていただきました。
大手の企業は、男女平等をうたっているけれど、結局は形だけに過ぎず、
さらに中小企業になると、もっと条件が悪いと……」



『青峰大学』……折原さんの出身大学を、初めて知った。

『青峰大学』といえば、私立では結構有名。


「レポートを何度も書き直ししたり、留年して先生にしっかりしろと言われましたが、
今ではいい思い出です」

「あぁ、そうですか、それはぜひ、伝えましょう」

「はい……折原紘生が、頑張っているとそうお伝えください。
あ……そうだ。昔、先生に社会人になって給料をもらうようになったら、
私がおごりますと約束したことがあります。
よろしかったら雪村さんもご一緒にいかがですか」

「ん? うーん……」

「うちの長峰から、雪村さんが、どういった場所で、どういった接待を望まれるのか、
よく、聞いておりますので」

「いや、その……」


接待……


「『男女平等』を政治信念にうたっている島浦先生の秘書さんが……と、
私も長峰から聞いたときには、少し考えましたけれど」

「折原……」


別のところにいた伊吹さんが、それくらいでいいのではないかと、

折原さんを止めようとする。


「それとも、私自身が、先生に直接お会いしたほうがよろしいですか。
うちの長峰が、雪村さんから、どういう経験をさせていただいたのかということを
お土産に……」

「き……君……。そんなことは必要ないだろう」


折原さん、雪村さんが秘書をしている政治家が『島浦さん』であることを、

調べていたのだろう。偶然というよりも、完全に狙っていたように思えてくる。


「君……ではありません。折原紘生です」

「あ……いや……」

「どうされました。現場を離れ、リラックスした場所で仕事の話をするということは、
コミュニケーションという点から考えると、とても有効だと思いますよ」


折原さんは、表情こそ笑って見せているけれど、目が怖い。

その目で、雪村さんをじっと見続ける。

雪村さん、島浦先生の名前を出されてから、目が泳ぎっぱなしな気がするけれど……


「猪田君、僕はこれで失礼するよ」


慌てていなくなる雪村さんを追いかけ、猪田さんも私たちの前を離れていく。

それまで作り笑いを見せていた折原さんの顔が、厳しいものに変化した。


「あの島浦先生の秘書があれじゃ、活動も何もあったものじゃないな」

「折原……お前……何を言っているんだ、ハラハラさせるな」

「すみません、でも、名前を聞いてからずっと、言ってやろうと思っていたので」

「言ってやる? 何をだ」

「自分がいかに『低レベル』かってことをですよ。政治家の秘書だと言えば、
誰もがペコペコ頭を下げるから」


私が意地の悪いことをされて、熱を出して倒れた日。

猪田さんや雪村さんの態度が腹立たしくて、折原さんに全部話をした。



あれからずっと……

折原さんはこの機会を狙っていたのだろうか。


「あ……あれ、上手そうですよ、食べましょう」

「はい」


折原さんは、以前、私に意地の悪いことをした雪村さんが、

島浦さんという女性議員の秘書だったことを、実は知っていた。

自分の秘書が、『セクハラ』をして人のことを笑ったという事実を、

『男女平等』を訴えている先生が知ったら、どうなるだろう。


雪村さんの焦った顔、猪田さんの慌てた顔、

見られただけで、心がスーッとした。


「折原さん」

「はい」

「雪村さんのこと、知っていたのですね」

「いえ、細かくは知りませんよ。ただ、島浦先生が大学を辞めてすぐに立候補した話は、
友達から聞いていたので。先生の考え方が好きだと、
学生の中にも応援するやつがいたんですよ。選挙カーに乗ったり」

「そうだったんですか」

「でも、今言った話は、本当のことです。『折原製薬』でも、
女性が出産で職場を離れると、制度としては復帰できるようになっているのに、
結局戻れない。学生時代、俺が『折原製薬』の息子だということを知った先生から、
お前の家くらいの会社が変わっていかないと、世の中は変わらないと、
散々説教されましたから」


折原さんの学生時代。


「この世界も、まだまだ男女平等とは言えません。男の方が上で、女はどこか下だと、
決め付けるヤツが多い」


会場がざわめき、『花嶋建設』の社長が姿を見せた。

それまでバラバラだった視線が、集中する。

『花嶋建設』の社長は、今回、『ナビナス女子大』の寮建設が、

業界でも非常に話題になり、学生の応募も増えていることを語った。

会場内から拍手が起こり、これからも頑張ろうという決起の声が上がる。


「長峰さん」

「あ……犬井さん」


声をかけてくれたのは、現場責任者の犬井さんだった。




【41-4】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【高梨俊作】
イタリア人の祖父を持つため、『シルヴァーノ高梨』と名乗っている。
以前、『林田家具』に勤めていたが、より自分らしい生き方がしたいと、
組織を飛び出した。賞を取った『J』こと、紘生にライバル心を燃やしている。

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