41 男女平等 【41-5】

【41-5】
カレンダーが9月の終わりを示す頃、

小菅さんがおめでたで退職をするという情報が、正式に発表された。

社長は、体に無理のないように仕事をしろと言い、

女性人からは、拍手とほんの少しの寂しさがそれぞれ語られる。


「ありがとう、みんな」


小菅さんの輝くような笑顔と、精一杯最後まで仕事をするという誓いが、

その日の朝礼の締め言葉となった。



さらに夏の眩しい太陽から、色づいた木々の葉が、風に舞うようになった10月。

私たちにとって、意味のある建物が2つ、完成した。

一つは、『ナビナス女子大』の新設の寮。

そしてもう一つは……


「すごいですね、宣伝が」

「ドラマの撮影が、結構また話題になったしね」


久我さんが関わっていた『宝橋三丁目の駅ビル』。

トラブルになった『紅茶専門店』は、ドラマ撮影に使われたため、

オープンには間に合わなかったが、その分メディアに取り上げられることは多く、

遅れた影響は、あまりないように思えた。



久我さんと折原さん。

仲直りのきっかけになると思っていたけれど、世の中そう簡単にはうまくいかない。


「仕事をやめたら、ブラブラしようかな」

「あ、いいですね、それ。その時は呼んでください」

「何言っているの。優葉ちゃんは仕事でしょう」

「あ……そうだ」


女性陣で『COLOR』に入り、昼食タイムを迎える。

揃って登場すると、聖子さんにいつもより少し遅いわねと、声をかけられた。


「今日は4人揃ったので、少し時間をずらしました」

「あらあら、それは気を使っていただきまして……」

「いえいえ……」


聖子さんの挨拶に、優葉ちゃんがしっかりと答え、

私たちは4人かけのテーブルにそれぞれが座る。


「あ、そうだ知花ちゃん。午後は頼むわね」

「はい」

「あのお店のオーナー、本郷さん。ちょっと頑固なところがあるけれど、
でも、とってもいい人なのよ」


小菅さんが、長い間、注文家具をオーダーされていた『手作りピザ』のお店は、

この5年の間に、都内に5店舗展開するまでに成長した。



『森のくまさん』



かわいらしい店名と、木の家具をふんだんに使った店構えで、

親子連れにもとても人気があり、昼時に、店内で食べるとなると、

いつも30分程度待たされるのは、当たり前だった。


「『森のくまさん』の『ハニーピザ』美味しいですよね」

「あら、道場さん食べたことあるの」

「ありますよ。『林田家具』の近くに、私が退社する少し前、出来たんですよ。
それで一度だけ食べました」

「そう……」


はちみつを使った『ハニーピザ』。

『森のくまさん』の人気メニュー。


「あの取り外しがきく椅子のシリーズ。本郷オーナーの知り合いが気に入ってくれて、
それが20台オーダー入れてくれるっていうし、その話もしておきたいから」

「はい」


椅子の骨組みだけをしっかり作り、

背もたれや、座る場所のシートの色合いや素材を、組み替えられるというデザイン。

小菅さんが、本郷オーナーのリクエストを聞きながら、考え出した。

ピザには油が入っているため、お客様が落としたりするとシートはすぐに汚れてしまう。

もちろん、表面的に拭くことは可能だが、入れ替えできたら、

破れてもすぐに取り替えられるし、季節ごとに色を変えることも出来る。

それぞれが注文を済ませ、聖子さんはカウンターの向こうに移動する。


「これがきっと、大きいものとしては、私の最後の仕事だろうな」


小菅さんのその一言に、テーブルは静かになった。

12月で退社となると、確かに、長い仕事は難しいだろう。

『最後』という言葉に、胸の奥がチクリと痛む。


「……最後だなんて……」

「ん?」

「小菅さん、寂しいですよぉ」


小菅さんを姉のように慕っていた優葉ちゃんは、寂しそうにつぶやくと、

両手を目の下に置き、泣くような仕草を見せる。


「ほらほら、優葉ちゃん。なにやっているのよ。そんな演技をすると、
小菅さんが困るでしょ。そろそろ小菅さんにも、みんなのお目付け役は卒業してもらって、
人生を楽しませてあげてちょうだいな」


聖子さんが注文した品を運びながら、そう笑ってくれた。

小菅さんも、その通りだと頷いてみせる。


「わかってますけれど、なんだかいなくなるのがどうも信じられなくて」


それは私も同様だった。入社したときから、

伊吹さんと小菅さんがいてくれるのが当たり前で、

いない風景が想像できない。


「大丈夫よ、『DOデザイン』は。本当に大きく、ううん、力強くなったもの。
一人一人がしっかりと仕事をする人たちだし、私は心置きなく、去ることが出来ます」


『去る』……それはわかっているけれど。


「ちょっと、ちょっとみんな。いやだ、何よその反応。私は次なる幸せのために、
自分で選んだんだからね。ほら、みんな、あったかいうちに食べるわよ。
私、赤ちゃんがお腹に入ってきてからというもの、食欲増えてしまって……」

「そうですよね、食べましょう」


小菅さんの明るい言葉に、また、いつもの笑い声が戻り、

昼食はそこから楽しい話題で盛り上がった。




【41-6】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【高梨俊作】
イタリア人の祖父を持つため、『シルヴァーノ高梨』と名乗っている。
以前、『林田家具』に勤めていたが、より自分らしい生き方がしたいと、
組織を飛び出した。賞を取った『J』こと、紘生にライバル心を燃やしている。

コメント、拍手、ランクポチなど、お待ちしています。(@゚ー゚@)ノヨロシクネ♪


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