41 男女平等 【41-6】

【41-6】

その日の午後。

私は小菅さんと『森のくまさん』に出かけ、仕事を引き継ぐ話をさせてもらった。

小菅さんの言うとおり、本郷オーナーはいかにも職人さんらしく、

余計なことをベラベラしゃべるような人ではない。


「どうだい、体の調子は」

「大丈夫ですよ、ありがとうございます」


それでも、ポツリと語ってくれる言葉の中に、優しい思いがあふれていて、

いい人なのだということは、よくわかった。


「長峰知花です。どうぞ、よろしくお願いします。
小菅さんに比べて、至らないところだらけだと思いますが……」

「オーナー、大丈夫ですよ。長峰は、しっかりと地に足をつけた仕事をします。
課題を与えてもらえたら、きっと応えるものを作りますから、
どうかこれからも『DOデザイン』をよろしくお願いします」

「あぁ、こちらこそ、よろしく」


そこからは、小菅さんの隣に座り、本郷さんとの話を聞き続ける。

小菅さんは、本郷オーナーの声かけで、

20台の注文を入れてくれる取引先の方の名刺を、こちらに寄こしてくれた。



『ガーディル』



ガーデニングを趣味とする方たちの、

くつろぎの場所というテーマで展開する軽食を出すお店は、

ペット同伴という内容の店だった。名刺と一緒にいただいた紙には、

都内4店舗の様子が、写真で載っている。


「来週、ここへ来るから、それで小菅さんが会えばいいよ」

「こちらからお店の方へ伺いますけれど」

「いや、改装中で人の出入りが激しいらしいんだ。
落ち着かないからって、向こうに言われてさ」


しっかりとしたホームページの情報、そしていただいた名刺。

私と小菅さんは、本郷オーナーに紹介のお礼をした後、お店を出た。


「20と4……か」


新しい契約が20、本郷オーナーからオーダーされたものが4つ。

小菅さんのつぶやきは、そういう意味だろう。


「小菅さんに絶対の信頼をおかれているんですね、本郷オーナー」

「エ……そう?」

「そうでしたよ。だって、小菅さんが言うのなら、それでいいよって、
私、何回本郷オーナーの口から、聞いたことか」

「あら、そう?」


そう、隣で聞いているだけの私には、そんな会話のリズムが、本当によくわかった。

長い間、しっかりとした仕事をしてきた小菅さんの、努力のたまもの。


「知花ちゃん……」

「はい」

「ありがとう」

「エ……」


小菅さんの腕が、私の左手を取る。


「知花ちゃんが後輩で、本当によかったわ」

「……何言っているんですか」

「何って、そのものよ」


小菅さんは楽しそうに私の腕を取り、恋人のように並んで歩く。

私も、姉のように慕い続けてきた人の腕をしっかりつかみながら、

転ばないでくださいねと、声をかけた。





次の日、秋の雨が降り続く。

こんな日は、気分まで重くなる。


朝から、小菅さんは社長と話をしていて、伊吹さんを始めとした他のメンバーも、

それぞれ抱えた仕事を進めている。

私も、社長から頼まれた新しい『チェスト』のデザイン、

今週中に出さないとならないのだけれど、どうも……

ふと目を動かした電話が、その瞬間に鳴り出したため、私は素早く受話器を取った。


「はい、『DOデザイン』でございます」

『もしもし、『コンスタン』の高梨と申しますが、長峰さんはいらっしゃいますか』



『コンスタン』

高梨さんが私に、今度はどういう用件だろう。


「はい。長峰は私ですが」

『あぁ……やはりそうですか。声でそうなのかなとは思いましたけれど』


高梨さんは、受話器の向こうで笑っているようだった。

私は受話器のコードを軽く指に回し、次の言葉を待つ。


『実はですね』

「はい」

『先日お話したドラマの撮影が、スタジオの方でも始まりまして。
それで、小林蘭子さんとお会いしたのですが、こういう機会に、
長峰さんに会えないかと、そう言われるものですから』

「私……ですか」

『はい。あのジュエリーボックスを作った人が、どういう人なのかと、
私に聞いてくるんですよ。私も一度しかお会いしたことはないのだと、
そう言いまして』


小林蘭子さんは、高梨さんの会社に私がいるのかと思っていたらしく、

スタジオ見学に連れて来て欲しいと、そう言ってくれた。

スタジオ見学なんて、今までしたことがない。


「何をすればいいのか」

『何もしなくて結構ですよ。今週は毎日撮影がありますので、
お時間のあるときに、私が合わせますけれど』


高梨さんは、私の都合があえば、一緒にスタジオ入りをしてくれると言い、

ぜひお願いできないかと、頼んできた。

気ばかり使いそうで、正直面倒だなという思いもあったが、

小林蘭子さんには、感謝の気持ちもある。

小林さんがあの商品を気に入ってくれたおかげで、売り上げも伸びたし、

雑誌の記事にもなった。


「それなら、明日……」


新しい仕事にどこか煮詰まっているところもあったので、

私は気分転換になればと思い、スタジオ見学を承諾した。


『それならば、午前11時ごろはどうでしょうか』


高梨さんは、小林さんのスタジオ入りが11時半なので、

その前に来て欲しいと、時間を決める。

11時に『オレンジスタジオ』なら、一度事務所に立ちよっても十分間に合う。


「わかりました。『オレンジスタジオ』の正面受け付けで、
高梨さんのお名前を言えばよろしいですか」

『はい、よろしくお願いします』


受話器を持ったまま、私は軽く頭を下げ、その電話を切ることになった。




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《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【高梨俊作】
イタリア人の祖父を持つため、『シルヴァーノ高梨』と名乗っている。
以前、『林田家具』に勤めていたが、より自分らしい生き方がしたいと、
組織を飛び出した。賞を取った『J』こと、紘生にライバル心を燃やしている。

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