42 波と風と 【42-3】

【42-3】
違いますよと言わなければならないのに、言葉が出ない。


「あはは……正直なんだな、長峰さんは。いいんですよ、私が一番わかります。
お手軽に時間をかけず作れる方法、それがこれですから」


私たちの前にオーダーしたものが運ばれてきたため、

話はそこで一度止まった。ナイフとフォークを動かしながら、食事を進めていく。


「デザインという仕事には、底がありませんからね。こだわろうと思えば、
貫こうと思えば、どこまでもいける。でも、相手は何もデザインを知らないのですから、
イニシアチブを取らないと、商売になりません」


予算と要求と、それをどう互いに納得できるか。

レストランのように、値段が全て決まっているわけではないから、

確かに押しも必要だろう。


「限られた予算の中で、いかに利益まで上げていくか……私たちなりに自信を持ち、
完成させたものです。ぜひ、お店が出来上がったら、見に行ってあげてください」

「……はい」


人の作ったものを見に行くのも、勉強になるはず。


「という話は、ここらあたりにさせていただいて……」


高梨さんは、そういうと、持っていたナイフとフォークを元の位置に戻した。

その動きに、これから何か起こるのだろうかと、私も動きが止まってしまう。


「今日、お話したかったことは、こんな世間話ではないんですよ」


他にも色々と食事をしている人がいるはずなのに、

この空間だけが別の場所にあるような、そんな気持ちがしてしまう。



「率直に言わせてもらいます。長峰さん、うちへ来ませんか」



『うちへ来る』

それは、『コンスタン』に来て欲しいと言うことだろうか。


「突然だと思われるでしょうが、私にしてみると、考え込んでの結論なんですよ。
今、長峰さんにお見せしたように、そう、こういった低価格の素材を使い、
しっかりとした利益を生み出していくことが出来る人は、今もうちにいるんです。
私自身もイタリアで仕事をする中で、『木』ではない部分の勉強を、
それなりにしてきたつもりですから」


こんな話、聞いていていいのだろうか。

私は……


「でも、それだけでは業界で生き残れない。
もちろん、今回のようにメディアに出て行くこともこれからは必要です。
そして、さらに小林蘭子さんが、あなたの作品をしっかり評価したように、
目を持っている人たちにも、通用するようなものを作らないと」


評価……通用……

確かにそうかもしれないけれど。



「これから、色々な意味で、勝負に勝てるものを作りたいのです」



『勝てるもの』



「今、もらっている給料の1,5倍を約束しましょう。
それだけの評価を、私はあなたにさせてもらいました。
デザインに対する設備投資も、しっかりしているつもりです。
長峰さんにとって、悪い条件にはならないはずですが……」


『評価』

この落ちこぼれの私が、知らない人に『評価』をしてもらえるようになるとは、

考えたこともなかった。

引き抜きなんて、仕事の出来る人たちの遠い世界だと思っていたのに。


「ありがとうございます」

「いえ……」

「人から評価をしていただくことなど今までなかったので、正直、
くすぐったいような気がします」

「くすぐったい?」

「はい」


給料も1.5倍とか、心の奥底で、嬉しさがないわけではないけれど、

でも……


「お気持ちだけで、十分です。ありがとうございます」

「長峰さん」

「私、デザインは大好きなんですが、『自信があります』とか、『絶対に』とか、
そういう言葉を使うことが苦手なんです」


そう、今でも人前に出るのも、意見をするのも、苦手なことに変わりない。


「『コンスタン』さんのお店作りの写真を見せていただいて、すみません、
高梨さんが先ほど言われたように、正直……」


そう、正直に思った。


「軽くなってしまったと……すみません、思ってしまいました」


私があの店に持ったイメージ。

あのがたついたテーブルを作ったオーナーの考えからすると、

出来上がったお店は、色合いも形も『軽い』


「すみません、本当に生意気で」

「いえ……」

「でも、あの店は確かに、ハンデを抱えているお店でした。オーナーにも最低限の出費、
それに、『コンスタン』側の利益を思えば、出来上がったものは当然だと思います。
高梨さんが言っていたように、商売ですから、『勝つ』ことは必要ですし……」



『長峰さんは、それが出来る人だってことですよ……』



「それなら……」

「いえ、私は、人を引っ張っていくことは出来ません。
前に出てしまうと、怖くなってきっと動けなくなります」

「動けなくなる?」

「はい。だから本当は、自分のデザインをアピールしていくこの仕事が、
向いていないのかもしれません。いえ、実際にそう思っていた時期がありましたから」


デザインの才能はないから、仕事などやめて家庭に入ろうとしていた日。

才能がないのだから、仕方がないと諦めていたときが、間違いなく私にはあった。




【42-4】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【雪村龍】
政治家、島浦かほるの秘書。
自分の仕事に、周りが気を使うことを知っていて、横柄な態度を取る。
女性へのセクハラは、日常茶飯事。

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