42 波と風と 【42-4】

【42-4】

『俺、料理がうまい人って、寄り添うことがうまい人だと思うんです』



「でも、こんな私でも、デザインが出来ると、それを仕事に出来ると、
教えてくれた人がいて」



自信なんてなくても、私に出来ることが、それが武器になるって……



「前に出ることは無理ですけれど、大好きな料理と一緒で、食べる人に……
だから、注文してくれる人に、寄り添うことは出来るなって……」



どんな形で、どんな色で、どんな家具を作りたいのか、

とことん話を聞いて、その人の代わりに、その思いを作り出す。

人より前に出て行くのではなくて、しっかりと希望に寄り添えること。


「寄り添う……ですか」

「はい。強く勧めて、認めさせることは難しいですけれど、
とことん話を聞いて、その人の思いに近付くものを作れたら、それで……」


一生、『木』のぬくもりと、寄り添えたら……


「お給料が増えることも、最先端の機材で仕事をすることも、とても魅力的なのですが、
私は……お話を受けることは出来ません」


高梨さんは、何も返事をしてくれない。

相変わらずの話ベタ。言いたいこと、伝わっただろうか。

今思い返しても、自分自身がよくわかっていないかもしれない。

とにかく……



「そういう長峰さんだからこそ、私はお願いしているのですが」



そういう……私。



「あなたのデザインに対する考え方は、作品を見ればわかります。
私は長峰さんに前へ前へとは望んでいません。それは私がする仕事ですから」


高梨さんは、私がこう言い返すことを予測していたのだろうか、

ナイフとフォークを動かし、お肉を一口大に揃えていく。


「人に勝つと宣言する人間は、たくさんいます。
あなたがそういう人ではないということは、私自身わかっているつもりです。
ですから……と、さらにお願いしているのですが」


さらに……って。


「いえ……あの」

「今日すぐにとは言いません。いえ、正直、半年後でも結構です。
この仕事を一生していこうと思っているのなら、考えるというのも、
悪くないはずですよ」


目の前で思い切りバツを出したつもりだったのに、

そうなるのはわかっていたと言われてしまうと、次はどう返したらいいのかわからない。

ただひたすら『すみません』を繰り返したまま、私は『オレンジスタジオ』を出た。





『メディアに出て行くこともこれからは必要です』



確かに、高梨さんの話が、身勝手なものだとは言い切れない。

『軽い』と評価した紅茶のお店だけれど、出費を押さえ、形を仕上げたという評価は、

最大限にされるべきだろう。

ドラマのロケが加わったことで、トラブルを回避できた。

同じ事を『DOデザイン』がしようとしても、おそらく出来ない。


スタジオ見学で見せてもらった『コンスタン』の家具。

モノは折原さんや伊吹さんが作っている家具の方が、いいはずだけれど……

売り上げがなければ、経営にはならなくて。



『林田家具』という大手にいた人だから、高梨さんは現実は現実と、

そろばんを弾くことが出来るのだろう。



「ふぅ……」


予想外の話が入ったおかげで、事務所に戻る頃には、

疲れが倍に増えていた。





煮詰まっていた仕事に戻り、またアイデアを絞る。

それでも、どうしても納得した形にならない。

折原さんは、目の前で仕事をしているけれど、何やら難しそうな顔をしている。

『エバハウス』から広がった仕事、スタートでつまずいていただけに、

きっと、失敗出来ないと思っているのだろう。



『どう思います? これ……』



なんて、軽く聞く雰囲気ではないから。

私は、アトリエールを持ち、事務所を出ると『COLOR』へ向かった。





「はい、カフェオレ」

「ありがとうございます」

「どうしたのよ、今日は知花ちゃんがお悩み中?」

「ん? 今日はって……」

「昨日は、ここに三村君が座っていたから」


聖子さんは、折原さんの本名が明らかになっても、いまだに『三村君』と呼んでいる。


「本当ですか、ここに?」

「そう。ずっと何やら描いていたわよ。なんだろう、こう……重厚な机と椅子。
裁判官くらいの人が使うのかしらってもの?」


重厚な机と椅子……なんだろう。新しい仕事だろうか。


「色合いもシックだし、素敵なデザインだった。
こんな椅子に土居社長を座らせたら、少しは風格が出るかしらって言ったら、
そうかもしれませんねって笑っていた」


『風格』


「へぇ……」


折原さんが何のためにそのデザインを描いていたのか、

『重厚な机と椅子』と聞き、急に気になりだした。




【42-5】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【雪村龍】
政治家、島浦かほるの秘書。
自分の仕事に、周りが気を使うことを知っていて、横柄な態度を取る。
女性へのセクハラは、日常茶飯事。

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