42 波と風と 【42-5】

【42-5】

そういえば、以前、私が熱を出したときも、

何やらデザインしていた紙を、忘れていったことがある。

あれはまだ、本当に下書きと言えるものだったけれど、

確か、研究者が使うような、しっかりとしたデザインだった。

そのデザインをさらに詰めていってるのだろうか。


「どんな感じだったのかな……」


折原さんが好むデザインだと、動きをつけるデザインだろう。

たとえば、波が打ち寄せる時のうねりのような形とか、握ったときの心地よさとか……

四角だけれど、角度を変えると、別のものに見えるような。

そんな自由な発想を、どこまでもどこまでも広げていって、

どこからか折り返してきて……



『折原さん、そこまで動かしたら、形になりませんよ』

『なりますよ、ならないと決め付けるからならないんです』



そう、何か意見をすると、こんなふうに言い返されて。

私はない頭を必死に動かして、その思いを形にしてあげたいと考えて……



「あ……」


そう、出来ないと思い込んでいたけれど、少し考え方を変えたら出来るかも。

そう思ったら、ここで『カフェオレ』をゆっくり飲んでいられない気がする。


「聖子さん、美味しかった、ありがとう」

「あら、知花ちゃん、急に飲み干したの?」

「ごめんなさい、また来ます」


そう、考えがまた……

私の心の中で広がりだす。



エレベーターに飛び乗って、ドアが開くのと同時に飛び出して、

事務所に戻ると、すぐに用紙を広げる。

今までこだわっていた箇所は、一気に削ってしまおう。

そこからまた、新しい気持ちで書き進めて……



「出来た……」



ふと前を見ると、折原さんの姿はなく、

私はデザイン用紙を手に持ったまま、また事務所を出る。

エレベーターの表示は、『R』、そう、屋上。



「折原さん!」


いつものベンチに座り、タバコをふかしている折原さんを見つけ、

デザイン用紙を振りながら近付いていく。



『こんなものですか』



そう言われるかもしれないけれど、それでもいい。

そうすればまた、それを越える気持ちになれる。


「これ、見てください」


私は、そう思いながら、紙を広げた。





「『コンスタン』に?」

「はい」


思いついて描いたデザインを見てもらった後、

私は、高梨さんに『コンスタン』へ来ないかと言われたことを、

折原さんに隠すことなく話した。

もちろん、出来ないと断ったこともしっかり付け加える。


「へぇ……給料1,5なのに、辞めたんですか」

「辞めましたよ。もちろん、給料1.5って、魅力的ではありますけれど……」


そう、単純に魅力的であることはあるけれど。

仕事はそれだけではないから。


「その中で、『宝橋三丁目』の紅茶の店の様子、見せてもらいました」

「あぁ……」


折原さんには、苦々しい思いしかないかもしれないけれど。

久我さんのことだから、きちんと教えてあげたい。


「もちろん、写真でですが……」


折原さん、新しいタバコを指に挟んだけれど、それは吸うことなく元に戻す。

やはり、聞きたくなかったのだろうか。


「どうでしたか」

「条件も時間も、限られていたからかもしれないですし、
相手の意向もあったのかもしれませんが、正直、第一印象より、
軽くなってしまったような気がしました」

「軽い……」


私は、木材の質が、最初に用意されていたものよりも、

相当下がっているように見えたこと、デザインも、よくありそうなものだったと、

写真の様子を思い出しながら、折原さんに語った。


「よくありそうなデザインですか。いつも控えめな長峰さんにしては、
ずいぶん厳しいですね」

「そうですか?」

「そうですよ。悪徳業者に騙されたのは、久我たちなわけで、
『コンスタン』がその泥を被る必要などないのだから、
利益をしっかり取る作りにしても、それを責められないでしょう」

「もちろん、責めているわけではないです。でも……」


でも……

あの写真を見て、私は何も心が動かなかった。


「私が、作りたいものではなかったです」


そう、『コンスタン』の本社に出かけた日。

家の造りも、確かに凝ったデザインだとは思った。

でも、あの中で仕事をしたいとは思わなかった。


「『DOデザイン』に入社しようって、心に決めていたわけではなかったのに、
今思うと、本当にここでよかったなって……」


思っていたよりも小さな会社で、つまらないと思った時期もあったけれど、

本当によかったって、心から思える日がやっと来てくれたから……




【42-6】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【雪村龍】
政治家、島浦かほるの秘書。
自分の仕事に、周りが気を使うことを知っていて、横柄な態度を取る。
女性へのセクハラは、日常茶飯事。

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