42 波と風と 【42-6】

【42-6】

「私、高梨さんに、折原さんから言われたことを言いました」

「俺に言われたこと?」

「はい。長峰さんは『寄り添うことが出来る人』だって、言ってくれましたよね」


お料理が出来る人は、寄り添うことが出来る人だって……

仕事とプライベートの自分が、ぴったり重なった気がして、嬉しかった一言。


「そんなこと俺、言いました?」

「言いましたよ、覚えていないのですか」

「……あんまり」


折原さんは笑いながら、わざとそう言い返す。

この顔は、絶対に覚えているはず。


「覚えていないのなら、もう、夕食作りませんから」

「……そうきますか」

「当たり前じゃないですか」


私は折原さんに渡したデザイン用紙を取り返し、

ついてもいないタバコの灰をはらってみせる。


「背もたれ部分、太めに設定して3本の方が安定しますよ」


3本……

私は折原さんに背を向けて、用紙を広げてみる。

確かに、つなぎ部分に気をとられていたけれど、

背もたれ部分が細いと、脚とのバランスが取れないかもしれない。


「……考えます」


そう言い返したものの、口元のゆるみを見せたくなくて、

私は背を向けたまま返事をした。





『コンスタン』への引き抜きをお断りすれば、それでさようならだと思っていたのに、

高梨さんという方は神経が太くて鈍い人なのか、

忘れそうになると、電話を鳴らしてきた。

時には、『エアリアルリゾート』に宿泊し、設置された家具がすばらしかったので、

感動したことを伝えようと思ったと言ってみたり、また、ある日には、

『絵画教室』を開いている男性からの依頼で、ある注文家具を作るには、

『DOデザイン』がいくらでやるのかという、商売的な話もあった。



『どうですか、お気持ちの変化は……』



いつも必ず最後に、こんな言葉をつけてくることは同じで、



『変わりませんから』



この言葉をお返しするのも、いつも同じだった。




そして……


「はい、長峰ですね、お待ちください」


自分の名前が出たことで、優葉ちゃんの方を向くと、

名前を出さないままで、目で合図をされる。

私が受話器をあげ、『長峰です』と挨拶すると、目の前に座っている折原さんが、

視線を上に向けた。


『お忙しいところ、すみません。『コンスタン』の高梨です』

「はい」


今回はどういう用件だろう。


『これだけ何回も電話をかけてきて、正直うるさいなと、思っているでしょう』

「いえ……いや……はい」


言ってしまった。

目の前の折原さんの目が、『ハッキリ言え』と訴えかけてきていて、

それにつられてしまった。


『あはは……言いますね、長峰さん。どれだけしつこい男だと、
嫌われるな、これは』


相手には見えないこともわかっているのに、表情がついつい愛想笑いになってしまう。


『でもね、今日は違うんですよ。私はあくまでも伝言です』

「伝言」

『『久我不動産』の娘さん、えっと環奈さんが、
『ティアーズ』のオープンに来て欲しいと、言われたものですから』



『ティアーズ』



おそらく、駅ビルの中に入ったあの店だろう。

ついに完成して、オープンすることになった。


『出来たら、折原さんにも来ていただきたいと、言われてましたよ』


折原さん……


私が前を向くと、折原さんは『何?』という表情をする。

とりあえずまだ最後まで聞かないと説明できないので、首を振った。


『条件が限られていたもので、うちとしても100%だとはとても言えませんが、
その中での全力は尽くしたつもりです。
『DOデザイン』でデザイナーを勤めるお二人のご意見を伺えたら、
次の仕事にもいかせると思いますし……』


次の仕事……


『『MARBLE』が手がけるエステつきのホテルを、次は担当することになりましたので』


そういえば、『コンスタン』は折原さんのご実家とも近い企業だった。

今回のオープンにも、誰か姿を見せるだろうか。


『ぜひ、お待ちしておりますので』


行きませんと言うのも大人気ない気がして、

その場は当たり障りのない返事をしたまま、受話器を置いた。




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《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【雪村龍】
政治家、島浦かほるの秘書。
自分の仕事に、周りが気を使うことを知っていて、横柄な態度を取る。
女性へのセクハラは、日常茶飯事。

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