43 近づく日 【43-1】

43 近づく日

【43-1】

「どうして俺が顔を出さないとならないのですか……って、おかわり」


私は折原さんからお椀を受け取り、コンロに乗せてある小さなお鍋から、

お味噌汁をよそった。それをまた折原さんに戻す。


「ならないとは言っていません。環奈さんが、どうですかと言っていると、
高梨さんが……」

「あぁ、もう、ややこしい。行きませんよ、俺は。
あんな安上がりの『ブロック』見たって、何も参考になりませんし」



『ブロック』



以前、『インテリアラウンド』の賞を取った道場さんの作品のことは

『塊』と表現した折原さん。そして昨日、『駅ビル』のホームページが更新され、

『ティアーズ』の情報が書き込まれてあり、写真も掲載されていた。

それを見た今度の感想は、『ブロック』となるらしい。

失礼ですよと言わなければならないのに、確かに、そんなイメージだから、

言葉を否定できない。


「長峰さんが行けば十分です。またキラキラした目で、あれこれ見て、
語ってくれればそれで」

「すぐそうやって人に任せようとする。ずるいですよ、いつも」

「ずるい?」

「そうです。見てきて語れってことは、一応知ろうとしているわけでしょ。
だったら、折原さんも現場に行けばいいじゃないですか。
久我さんと仕事を挟まずに、向かい合えばいいんです。
また仕事中にイライラして、失敗するかもしれませんよ」

「ん?」

「道場さんから聞きました。『エバハウス』での件」


デザインのサイズはミスってしまい、最終的に持っていった用紙は、

別の仕事のものだったなんて、初歩的なミス。

普段の折原さんなら、絶対にやらないことだろう。


「……あぁ、まぁ……」


互いに、互いのことを気にしているのだから、こんな機会に乗ってしまうことも、

悪い方法だとは思わない。


「いや、いい、俺は行きません」

「折原さん」

「あいつとは……時期を見て話しますよ」


あいつとは、久我さんのことだろうか。


「時期を見てって、それなら」

「大勢の人間がいるところで、ごちゃごちゃ会いたくないんです」


折原さんはそういうと、エビフライを残さず食べ終える。


「何かのついでではなくて、きちんと向き合える時に、会います」


折原さんは箸を横に置き、ごちそうさまと手を合わせた。

バタバタと会いたくない気持ちは、なんとなくわかるだけに、

それ以上は強く言えなくなる。


「それに俺、その日、その失敗しそうになった『エバハウス』関連の仕事で、
伊豆に行かないとならないから」

「伊豆?」

「そうですよ。別荘は伊豆にあるそうで、現物を見て最終的な打ち合わせです」


最初こそ、久我さんのトラブルを知った折原さんが、

慌ててしまって失敗しそうになった仕事だけれど、やはり、ことが進めば、

どんどん自分のペースに引っ張っていける。


「へぇ……これですか」

「はい」


西伊豆の海が見える場所に、依頼人の別荘があった。

建てられた時に、一緒に作った家具が古くなり、

それを新しいものに入れ替えていくのだが、

今は、年間利用の半分が子供たち夫婦になっているため、

どっしりと重い家具ではなく、出し入れが自由になるようなものを望んでいる。


「食事の板は入れ替えられるようになっていて、反対側は『麻雀用』です」

「『麻雀』ですか」

「そうです。ご家族みなさんでやるそうで、ぜひにと希望されました」

「へぇ……」


自由な発想と、使い方。

人のものだとはわかっているけれど、考えるということには、終わりがない。



いつか……

自分の家を持てるような日が来たら……



そんなことも、ふと考えてしまう。



「素敵……」


寝室に入れるご夫婦の新しいベッドも、大好きな本をたくさんしまう本棚も、

折原さんがひとつずつ丁寧に考えて、組み合わせていったもの。

遊び心もちりばめられているけれど、それでいて、品のあるバランスは崩れていない。


「あぁ……この幅でいけるんですね、上がこうなると」

「そうですね。トータルとしては悪くないと思います」

「すごい……」


隣に座っていたときには、何かと覗いていた折原さんのデザインだけれど、

席が離れてからは、あまり見ることが出来なくなった。

久しぶりに、その実力に見入ってしまう。


「すごい……って、また同じ言葉しか出てこないけれど、でも、本当に。
これなら、子供夫婦が孫を連れてきたときには、ベッドにもなるし、
それに……」


話の途中なのに、私は折原さんに抱きしめられた。

いや、抱きしめられているというより……


「どうしたんですか」

「本当にいいと思います?」


私の顔を見ないまま、そう聞き返す。


「思いますよ。依頼主さんのご希望、きちんと叶っているし、
それプラスで、色々と考えてあって……」

「お付き合いで言うのはやめてくださいね。俺には営業トークいらないですから」

「折原さん……」

「本気で、長峰さんの本気と本音でいいと思います?」


私は、私を抱きしめている折原さんの手の間から自分の手を抜き出し、

逆転させてしっかりと抱きしめた。



そう、私が彼を抱きしめた。




【43-2】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【島浦かほる】
東京都選出の女性議員。秘書の一人は雪村龍。
以前は紘生の通った『青峰大学』の教授で、『男女平等』や、
『女性の社会進出』について、講義をしていた。

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