43 近づく日 【43-2】

【43-2】

「思いますよ、本当に……。営業でも、お世辞でもなんでもありません」



初めて見た日から、この人の実力への評価は、何一つ変わらない。

絶対に譲れないものを持ち、それを形に出来る器用さと、頑固さ。

折原さん以上のデザイナーを、私はまだ、見たことがない。



いや、きっと……

これからもないだろう。



「うん……」


ぬくもりを感じる距離で、折原さんが小さく頷いた。


「私の言葉、信じてくれました?」


おつきあいでもなんでもない、心からの素直なセリフ。


「はい」

「本当に本当ですよ。私が住みたいくらいですから」



テーブルも椅子も、ベッドも、本棚も、本当にアイデアがたくさん入っているから。

見ているだけで、楽しくなってしまう。



「あなたが住むのなら……こんなものじゃ済まないですよ」

「エ……」

「だって、俺が住むって事でしょう」



私と折原さんの未来。

どこまでも続く未来は、そばに来ているだろうか。



「800倍くらい、いいものに出来るはずです」

「800倍?」

「そうですよ、もう一人優秀なデザイナーがいますから」


折原さんが、少しずつ顔を近付けながらそう言ってくれて、

私が『そのデザイナーは』と聞くつもりだったのに、

唇は……



そこから、いつまでも自由にならなくて。



『私とあなたの家』



いつかそんな日が来るだろうかと、幸せな時間の中で、ずっと考え続けた。





『俺が住むってことでしょう』



『プロポーズ』とも取れる台詞は、次の日も私の頭の中をクルクルと回る。

朝のラッシュに、体を強く押されても、不快感よりも嬉しさが勝っていたからか、

気分よく階段も上っていけた。

『なんて言ったの? もう一度』と言えばきっと、

折原さんは別の言葉でごまかしてしまうから、いつか本当の日が来るまで、

この言葉が期待させてくれる時間を、失いたくなくて……



ただ、黙って受け入れた。



「おはよう、知花ちゃん」

「おはよう」

「なんだか楽しそうですよ、いいことありました?」

「いいこと? 特にないです」


今日も仕事が始まる。浮かれて失敗しないようにしないと。

そう思いながら優葉ちゃんと一緒に、エレベーターを待った。





『宝橋三丁目の駅ビル』に出来た紅茶専門店、『ティアーズ』。

そのお披露目会を開く日がやってきた。

そして……


「すみません、今日は『森のくまさん』に行く予定だったのに」

「いいわよ。そんなこと気にしないで。こっちは私が行くから」


先日、『森のくまさん』で決めた『ガーディル』の正式契約が今日組まれていたが、

お披露目会出席のため、小菅さんに同席できなくなった。


「本当に、すみません」

「大丈夫、大丈夫」


決まっていた仕事に参加できなくなるのは申し訳ないことだったが、

久我さんのことが気になりながらも、全然素直になれない折原さんのことを思うと、

お披露目会を見ないわけにもいかなくて。


「では、行ってきます」

「お土産、頼みます」

「はいはい」


優葉ちゃんのちゃっかりした言葉に送り出され、

私はお披露目会の様子を知るため、宝橋三丁目に向かって、歩き出した。




【43-3】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【島浦かほる】
東京都選出の女性議員。秘書の一人は雪村龍。
以前は紘生の通った『青峰大学』の教授で、『男女平等』や、
『女性の社会進出』について、講義をしていた。

コメント、拍手、ランクポチなど、お待ちしています。(@゚ー゚@)ノヨロシクネ♪


コメント

非公開コメント