43 近づく日 【43-3】

【43-3】

お店の規模としては、それほど大きなものではないし、

扱う商品も限られている。それでもこれだけ人が集まっているのは、

裏で支えている人たちの力だろうか。

駅ビルの持ち主は、私鉄大手。当然、ビルの関係者が出席し、

その横にこの店のオーナーとなるご夫婦が立っている。

そして、その横には、トラブルに巻き込まれた人たちを救うことになった

『コンスタン』の高梨さんが並んだ。

ロケをしたドラマの出演者からの花や電報が届き、それが披露される。

小さなお店の規模からすると、派手な演出に、

どこからかうらやましさに似た、声があがった。

立ち並ぶ花の中に『MARBLE』の名前があり、ふと紗枝さんのことを思い出す。

折原さんが、本名を名乗るようになったことも、知っているだろうか。


「長峰さん」

「あ……こんにちは」

「来てくださったんですね」

「はい。すみません、結局、一人ですが」


一番後ろの目立たない場所に立つ私に気づいてくれたのは、環奈さんだった。


「折原さんは、やはり……」

「はい。ここへ来ることにはやはり抵抗があるようです。
でも、久我さんとはきちんと会いたいと」

「本当ですか」

「はい。この場所では、人が多すぎるそうです」


話したいことも、聞きたいこともきっと互いにたくさんあるから。

限られた雰囲気の中で、語ることは嫌なのだろう。


「それにしてもすごいですね。ビルのオープニングかと思えるくらいの人がいて」


お店の前にも人があふれ、さらに取材のマスコミ陣まで周りをうろつくため、

野次馬らしき人まで、立ち止まっている。


「ありがたいと思うべきなのでしょうけど、
正直、主役が交代したようになってしまって、私は複雑なんです」


今日の主役は、本来、地元で昔から店を開いていたご夫婦が、

子供たちに夢を託し再出発するということだったはずなのに、

輪の中心にいるのは、『コンスタン』の高梨さんで、店の設計や飾り付けのことなど、

まるでここが大きなショールームのように振舞っている。


「うちのピンチを救っていただいたのだから、文句など言えないはずなんですけど。
すみません、つい、長峰さんなので」

「いえ……」

「『DOデザイン』の方なら、いえ、折原さんなら、こうしただろうかと、
考えてしまって……」



折原さんなら……



この場所を折原さんが見たわけではないので、絶対にそうだとは言えないが、

でも……



間違いなく、このデザインにはしない。



それだけは自信を持って言える。



「依頼主さんは、どのように言われているのですか」

「依頼主さんは、新しいお店を開くということで、とても張り切っているようです」

「そうですか」


そう、デザインには好みがある。問題は、お金を出す人たちが満足しているのかどうか。

少なくとも、お店の経営を頑張ろうと思わせているのなら、それは成功だと言えるはず。


「環奈さん、そう遠くないうちに、
折原さんと久我さんが一緒に仕事をすることがあるような気がします」

「長峰さん」

「二人とも、本当にお互いのことを気にしていますから」


『自分の責任で相手を傷つけた』と二人とも思っているのだから、

きっと、次のチャンスがあれば……


「あ……」


環奈さんの声に、視線の先を見ると、数名の男性が目に入った。

その中心にいる人に、高梨さんが駆け寄って挨拶をしている。

背が高く、細面の顔。

着慣れたスーツの雰囲気。



「あの人が、折原さんのお父さんです」



もしかしたらそうかもしれないと思って、姿を見続けた。

あの人が、折原さんのお父さん。


「まさか、ここへいらっしゃるとは思いませんでした」


小さなお店のオープンに顔を出すことが目的なのか、

それとも『コンスタン』の高梨さんを、それほど信頼しての行動なのだろうか、

それとも……



もしかしたら、折原さんが顔を出すと思って、ここに……



人の中心にいることが、当たり前に見える存在。

大企業の中で育ち、それを引き継いだ貫禄なのか、

それとも実績を積み上げたという自信なのかわからないけれど……



少し、道をずらせば、折原さんはあの位置に行くのだと思うと、

この距離以上のものを、ふと感じてしまった。





『折原製薬』

当たり前だけれど、誰でも知っている企業。

久我さんのお父さんが、折原さんのお父さんを頼ったことで、

悪徳業者に騙されて、どうしようかさまよっていた人たちを、

あっという間に軌道に乗せてしまった。



『折原紘生』



折原さんは、戦うために名前を名乗ることに決めたと言っていたが、

あれだけの人が本気になったら……



今の生活など、簡単にひっくり返されてしまうのではないだろうか。



怖い……

私にとって、折原さんの存在は、どうしても失えないほど大きなものになっている。



『宝橋三丁目』から事務所に戻るまで、何度別のことを考えても、

頭はまた、あの堂々とした姿ばかりを思い出してしまった。




【43-4】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【島浦かほる】
東京都選出の女性議員。秘書の一人は雪村龍。
以前は紘生の通った『青峰大学』の教授で、『男女平等』や、
『女性の社会進出』について、講義をしていた。

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