44 駆け引き 【44-1】

44 駆け引き

【44-1】

道場さんが事務所に飛び込んできたため、視線が全てそちらに向かう。


「わかった? 何がだ」


伊吹さんは、駆け込んできた道場さんに対して、

みんなにわかるように、説明して欲しいと訴えた。

道場さんは、そうですよねと言いながら、何度か軽く頷く。


「わかったというのは、うちの契約を奪ったところがどこかと言うことです」

「契約って、『ガーディル』のことか」

「はい」


小菅さんとの契約にそ知らぬふりをして、別の商品を選んだという『ガーディル』。


「奪い取ったのは、『コンスタン』です」

「『コンスタン』?」

「はい」



『コンスタン』

また、あの高梨さん……


「どうしてわかるんだ」

「『林田家具』の営業部にいる、同期に今、聞きました。
『ガーディル』は、今まで『林田家具』の商品をいくつか使っていたそうです。
でも、担当者が変わって、納入の件で一度揉めてしまったことがあったと」

「揉めた?」

「はい。昔から結構、トラブルを作る会社だそうです。言い値が違うとか、なんだとか。
私も、それ以上細かくは聞き出せませんでしたけれど、
でも、『林田家具』と揉めたことで、他の会社へ目を移していたらしくて」


『ガーディル』の梅村社長。

『林田家具』とも、トラブルがあったなんて。


「『森のくまさん』の本郷社長から、
うちの評判を聞いていたから注文するつもりだったのでしょうが、
魅力的なものが他にもあると、ベテランの従業員から勧められたらしくて。
それで、相手がどこになるのか調べてみたら、うちから『コンスタン』だったと」


道場さんは、そう話しながら自分の席に戻る。


「高梨さんのしそうなことですよ。『林田家具』の待遇に、
誰よりも腹を立てて辞めていった人ですから。『林田家具』が絡んでいるところを、
ひとつでも多く、取りたいのでしょう」


『コンスタン』を勧めたベテラン従業員は、先代の社長の片腕という人物で、

いまだに会社に力を持っているという。


「先代の社長? でも、『ガーディル』って、新しい会社ではなかったですか」


私が小菅さんと『森のくまさん』に出かけたとき、確かそんな話を聞いた。

歴史がある会社というより、一気に上がってきたと思っていたのに。


「先代というのは、今の社長の義理の兄ですよ。2年位前に脱税だかなんだかで、
一応経営から引いた……ということになっているが、まぁ、そうではないのでしょう」


とりあえず、名前だけ義理の弟に社長を任せ、

実際に動いているのは、別の人物ということだろうか。


「……ということは、うちは権力のない男の話しを受け入れて、
いざこざに巻き込まれたということなのか」

「結果的には、そうなってしまいました……」


『林田家具』から、うちに気持ちを動かしていた『ガーディル』なのに、

それをまた強引に奪ったということだろうか。


「どこがどう何を引っ張ろうと、うちが在庫を背負うことに代わりはないですよ」


折原さんがそう言いながら天井を見上げたとき、事務所の扉が開き、

社長と小菅さんが戻ってきた。小菅さんは、辛そうな表情で、下を向いている。


「小菅さん……」


優葉ちゃんの声かけに、小菅さんはなんとか頑張って微笑んでくれるが、

その表情には全く力がない。


「おぉ、みんな悪かったな。とりあえず大丈夫だから、もう今日は解散しよう」

「解散? いや、でも、社長」

「話は明日、きちんとするから。今日はこれから雨が振るらしいし、
それが大雨にでもなって電車が止まったらそれこそ大変だ。よし、今日は終わり」


『終わり』

社長の手打ちに、誰もが納得できているわけではないけれど、

うなだれて疲れきっているような小菅さんに、今何かを聞けば、

これだけの人数が、責めたてることになるかもしれない。

空気を読んだ伊吹さんが立ち上がり、率先して支度をし始めた。

伊吹さんが動き始めたので、

どう動こうか迷っていたメンバー誰からも質問は出なかった。


「そうですね、雲行きが怪しいようですし、話は明日にしましょう」

「あ……あの……」


優葉ちゃんも、ポーチの中から鏡を取り出し、

化粧崩れがないどうか、チェックし始める。

塩野さんはマイペースに片づけをし始め、道場さんも左右を確認し、

バッグをデスクに置く。


「ごめんね……みんな、迷惑かけて」


小菅さん……消えてしまいそうなくらい、小さな声。


「長峰さん、行きますよ、打ち合わせ」

「打ち合わせ?」

「ほら、すぐに支度してください。遅いですよ、動きが」


折原さんはそう言って、タバコをポケットに入れると、

メンバーに『お疲れ様』と挨拶をして、事務所を出て行ってしまう。

私も慌ててバッグを握り、その後を追いかけた。




【44-2】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【小林蘭子】
実力派の舞台女優。
知花が作った『ジュエリーボックス』がお気に入りとなり、
雑誌の取材なども、積極的に受けてくれた。

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