44 駆け引き 【44-2】

【44-2】
エレベーター前で追いつき、下がってくるのを待つが、

気持ちは、小さくなってしまった小菅さんに向かってしまい……

このままいなくなっていいのだろうかと、心が迷いだす。


「長峰さん」

「はい」

「小菅さんの顔を見ただけでわかるでしょう。
誰がどこの邪魔をしようが、実際には、うちはどうにもなっていないんですよ」


そう、『林田家具』と『ガーディル』がケンカしようが、

『コンスタン』が脇から急に飛び出してこようが、『DOデザイン』が抱えた在庫は、

全く変わらない。


「わかります、でも、だから……それなら……」

「でも、それなら、みんなで色々と考えれば、
何かいい案が出るかもしれない……ですか?」

「はい」


私にも、少しだけなら聞いてみる企業やお店がある。

それぞれがそこに電話をして……


「ほら、乗りますよ」

「あ、はい……でも……」


心はまだ事務所に向かっているのに、声をかけられ、折原さんと一緒に、

エレベーターに乗ってしまった。音を立てながら、下へ降りていく。


「今、慌てている頭で出てくる作戦なんて、たいしたものではないです。
逆に足元を見られて、あたふたするだけだ。ここは社長の言うとおり、
一度みんなで頭を冷やして、それから考えないと」

「でも……」

「幸い、抱える在庫は腐るようなものではなく、
うちの中でも品質はいいものだと、誇れる家具ですから」

「それはわかっています。小菅さんのアイデアがたくさん詰まった……でも……」


でも……

あの小さくなっていた小菅さんが……


「長峰さん」

「はい」

「こういうときは、自分に置き換えて考えてみましょう。
あなたが今の小菅さんの立場だったら、ここでみんなが整列している中に、
じっと耐えていられますか?」

「エ……」

「仕事が終わったのに、全員が顔を揃えて待っているということが
すでにプレッシャーでしょう」



『ほっといてください』



そういえば、幹人とのことがあったとき、どうしようもないくらい落ち込んで、

誰にも会いたくないと、仕事から逃げ出そうとしたことを思い出した。


「それとも、元気を出してって、女子高生のように肩を叩き合いますか?」

「女子高生って……」

「経営を考えるのは社長のすることです。俺たちはそれに従うべき立場でしょう。
まずは全員が落ち着かないと」

「もちろん、わかっています」


わかっているけれど、何か一言……


「小菅さんに、大丈夫だとでも声をかけるつもりですか」


『大丈夫』

そう、私はきっと、そんなふうに言うかもしれない。


「大丈夫、なんとかなるって簡単にいう方が、俺はよっぽど無責任だと思いますよ。
今の段階では、大丈夫な要素も、どうにかなる要素も何もないです」


抱える20在庫。

確かに、大丈夫な要素も、なんとかなる要素も、見渡す限りどこにもない。


「一番辛いのは、小菅さんです。
今は、社長と二人でゆっくり話をする時間を、持たせてあげた方がいい。
社長が伊吹さんを必要とすれば、個別に呼ぶでしょう。
俺たちがいても、かき回すだけです」


社長と伊吹さんと小菅さん。

『DOデザイン』の基礎は、この3人で作り上げたもの。


「……と俺は思いますけれど」

「……はい」


気持ちは小菅さんに寄り添いたいけれど、

状況的に折原さんの言うことの方が正しい気がする。

私は頷きながらビルの外へ出て、まだ灯りのついている事務所を見上げた。





それにしても、『コンスタン』という会社は、何を考えているのだろう。

商売なのだから、自由に競争するのは当たり前なのかもしれないが、

契約書にサインがなかったとはいえ、電話での打ち合わせも済ませていたし、

『森のくまさん』の本郷オーナーと『ガーディル』の社長との縁もある。

それを無理やり壊してまで、入り込み奪っていく意味。


「イタッ……」


ボーッとしていて、左手の人差し指に、包丁が当たってしまった。

にじむ血を押さえ、水道の蛇口をひねる。

流して指を引っ込めてみるが、すぐにまた血が滲み出す。

とりあえず水を止めて、ティッシュを1枚取り、指を押さえた。

確か、引き出しの中に絆創膏があったはず。


「どうしたんですか」

「大丈夫です、ちょっと指を……」

「指を切った?」


私は、たいしたことはないですと言いながら、絆創膏を探す。


「救急箱、出しますか?」

「いえ、この棚の引き出しに絆創膏が……」


思っていたよりも深く触れてしまったのか、なかなか止まらない。

開けた引き出しの中に、3年前の忘年会で撮ったスナップ写真があり、

そこには当たり前のように、小菅さんや優葉ちゃんの笑顔があった。



『知花ちゃん……』



小菅さん……



『知花ちゃん……もう立派なデザイナーよ』



大好きな先輩。

結婚しても仕事を辞めず、ご主人に理解をしてもらいながら、

妥協しないデザインを作る小菅さんは、私の理想とも言える人だった。

いつも明るく、姉のように接してくれたし、悩みにもすぐに気付き、

アドバイスをくれたこともある。



『知花ちゃんが後輩で、本当によかった……』



そう言ってくれて、腕を組んで歩いた日。



こんなところで、指を切っている場合ではない。

何か……

私にも出来ないだろうか。




【44-3】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

【小林蘭子】
実力派の舞台女優。
知花が作った『ジュエリーボックス』がお気に入りとなり、
雑誌の取材なども、積極的に受けてくれた。

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