45 二人の戦い 【45-1】

45 二人の戦い

【45-1】
ナイフとフォークを動かしてみるけれど、なんだかうまく切れない。

注文した料理の中にある、この肉の質が悪いのだろうか。

それとも、ナイフとフォークそのものが、きちんと磨かれていないのだろうか。

ナイフがお皿にこすれる音が時々耳に届き、不快感だけが増していく。


「急上昇したと思ったら、急降下したような……さすがに、力が抜けましたね。
もちろんそんなことを、事務所では言えませんけれど」


付け合せのブロッコリーが、フォークにつかまるのを嫌い、左側に動く。

私はナイフでそれを押さえ、脱走を阻止した。


「うちの邪魔をして、恩着せがましく取引してくるなんて……。
『商売』なのだから、隙があったうちの方が悪いのかもしれませんけれど、
それでも、デザインのいい、悪いで負けたのならともかく、
見えない手で落とされたのかと思うと……」


ポテト……ちょっと塩がキツイ。


「デザインも一生懸命考えたし、それなりに……」


これならというものが出来上がったのに。


「やっぱり、完全に納得は出来ていないというか……」


ここで言ってもどうにもならないことはわかっているけれど、

でも、ここでしか言えない。

貴重な時間を、一緒に積み重ねた折原さんの前でしか、言えない愚痴。


「腹……立ちますか?」


疑問符をつけられたことが、まず驚きだった。

あまりにも予想外の質問に、私は思わずどういう意味ですかと折原さんに聞き返す。


「いや、汚いやり方だって、腹が立っているのかなと」

「え……だって、それは……折原さんは立ちませんか?」


伊吹さんの説明で、今までのいきさつを全て飲み込んだと、そういうことだろうか。


「もちろん、立つに決まっているでしょう」


折原さんは、最後に残ったパンを口に入れた。


「そうですよね」


そう、腹が立つのは当たり前のこと。

でも、これ以上続けようのない会話だと言うことに気付き、

私は、フォークにポテトを刺し、つい、愚痴ばかりを言ってしまう口の中に放り込んだ。



食後に出されたコーヒー。

ここは、結構苦めだけれど、私は好きな後味。

折原さんは、何やら親指が気になるのか、じっと見ている。



『もちろん立つに決まっているでしょう』



そう……おそらく、私よりもこの勝負に燃えていたのは折原さんだ。

久我さんのこと、そして高梨さんの後ろに見える『折原製薬』や『MARBLE』のこと、

『コンスタン』には、色々と嫌な思いをさせられているのだから。


「親指、怪我でもしたのですか」


私が、何かトゲでもささったのかと聞くと、折原さんは首を振りながら、

指を隠すような仕草をする。


「中小企業っていうのは、毎回こんな思いを積み重ねるんですかね」

「中小企業……」

「はい。昔、『折原製薬』の仕事をしていたとき、ある中小企業の社長が、
本社に走りこんできたことがあるんですよ。
急な契約破棄というのは納得いかないって」


折原さんは、自分の親指の形が、お父さんに似ているのだと、苦笑した。


「お父さんに……」

「はい。書類をめくる指を、何度も見てきたので、覚えているんです。
自分が年齢を重ねてきたら、さらに似てきたような気がして……」


両親から生まれてきているのだから、似ているところがあって当たり前ではないかと、

私は角砂糖をひとつ、コーヒーに入れる。


「あの日も、書類をめくるその指を見ているときでした。
廊下でバタバタ音がして、それはもう必死だったのでしょう。
小さな会社にも従業員がいて、生活があって、当たり前だけれど抱えているものがある。
でも、大きな企業に押さえつけられたら、言いたいことの半分も言えないまま、
悔しさも握りつぶさないとならなくて」


走りこんできた社長は、ノックもせずに社長室へ飛び込んだという。

社長室には折原さんとお父さん、そして秘書2人がいたため、

その男性は秘書の2人にすぐに取り押さえられた。

少し遅れて警備員たちが上に重なり、下請けの社長は声だけで必死に訴えたという。


「声だけで」

「はい。あなたのやり方は間違っているって……そう言ってました。
父は飛び込まれた時に一瞬、驚いたような顔ををしましたが、
あとは押さえつけられている人がいる前でも、冷静に書類をめくっていました。
両腕をガッチリ押さえられて、部屋から追い出されたその社長は、
最後のあがきで、多少動かせた脚で、会社の廊下にあった観葉植物をひっくり返して」


急な契約破棄。

大きな企業からの入金がなくなれば、確かに小さな会社なら、傾くこともあるだろう。


「父が冷静だったのは、こうなることもわかっていたし、
こうなったらどうするのかも考えていたからでしょう。
そう……あの人が慌てている姿など、俺は見たことがないです」


『ティアーズ』のオープン日。確かに見かけた折原さんのお父さんは、

社長としての威厳と風格を、兼ね備えているように見えた。

少しの出来事には動じない強さも、持っているのだろう。


「その時は、こんなことをしても、無駄なのにと、
正直、冷ややかな目で下請けの社長を見ていましたが、
今、あの社長の気持ちがわかります。『コンスタン』の高梨が、
うちの事情をあれこれ考えて、こうして企んで、
またそのとおりにされたのかと思うと、本当に……」


折原さんは、タバコの上に置いたライターを持つと、カチッと動かし、

その場で小さな火をつけた。指を離すと、もちろん火は消えてしまうが、

その仕草を3度繰り返す。


「無駄だとわかっていても、何かを蹴り飛ばさないと、
こっちの気持ちがおさまらない……」

「折原さん……」


何かを蹴り飛ばすって、何をするつもりだろう。

私は、周りの視線を少し気にしながら、折原さんに何をするのかと尋ねた。




【45-2】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

≪Dressing 豆知識≫
漢字の『十』と『八』で合わせると『木』という字になることから、
10月8日は、『木の日』になっている。(昭和52年から)
ちなみに、108で入れ歯感謝デー・歯科技工の日でもある。

コメント、拍手、ランクポチなど、お待ちしています。(@゚ー゚@)ノヨロシクネ♪


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