45 二人の戦い 【45-3】

【45-3】

私は、何か公に出来ないことがあるのだろうかと、

自然と体を前のめりにして、聞く体勢になる。



『正しいこと』

折原さんが、何をどう考えているのか聞きださないと。



「俺たちはあさって、『鬼が島』へ行きます」



『鬼が島』



『鬼が島』って……


「折原さん、ふざけないでください。真剣に……」

「ふざけてはいません、その日になればわかります」


『鬼が島』なんて、この世には存在しない。

どこまでふざけていて、どこまで本気なのか全く見えてこないから困る。


「『鬼が島』へ鬼退治ですか」

「はい、そうです」

「それなら私は行きません。鬼は怖いし、嫌いですから」


きちんと話してくれないのなら、参加しない。


「真面目な話しなら、納得するように話してください。『鬼』って……」



『鬼』



鬼という言葉……

私たちにとっての、『鬼』は、今……


「もしかして……」

「俺は『正しいこと』をします」

「それって」

「『正しいこと』です」


『鬼』がいる場所で、『正しいこと』が出来るのだろうか。


「『コンスタン』に行くということですか」


それ以外に考えられない。

折原さんは、高梨さんに今回の騒動について、言いたいことを言うつもりだろうか。


「高梨さんに、何を言うつもりですか」

「……それはまだわかりません」


絶対に、穏やかな話しにはならないだろう。


「そんなこと、しないほうがいいです」

「どうして」

「どうしてって……」


おかしな契約とはいえ、私たちはそれを受け入れた。

小菅さんのミスを帳消しにし、元からあった契約をすることが出来た。


「長峰さん、今、俺たちが『正しい』とそう言いましたよね」

「言いましたけど」

「言いましたけど、なんですか。ここで肉が切れないのをブツブツ文句言いながら、
腹が立つけれど、仕方がないねって、無理に気持ちを納めますか」


確かに、言えるものなら言ってやりたいけれど、

でも、それは……


「でも、今言っていたじゃないですか。下請けの社長さんの話し。
いくら『コンスタン』に私たちが文句を言っても、状況は変わらないですよ」

「変わらないでしょう。でも、押さえ込んだ気持ちは、解放できます」

「解放?」

「本当に火炎瓶を投げるわけではないですよ。俺は、一人のデザイナーとして、
高梨に言いたいことがあるだけです」


一人のデザイナーとして……


「いいですよ。俺、一人で行きます。長峰さんが参加するかしないかは、
長峰さんの勝手ですから」

「折原さん」

「俺は、それが通用しないと言われても、このまま受け入れたと思われたくありません。
どれくらいの気持ちで、こうして腹を立てているのか、せめてそれだけは伝えます」


『コンスタン』へ行く……


「社長や伊吹さんが知ったら……」


あの二人が知ったら、そんなことは辞めろと止めるはず。


「長峰さんは、長峰さんの気持ちで行動してください」


そういうと、折原さんはあらためて伝票を掴み、レジへと向かってしまった。

私は荷物を持ち、それを追いかける。

『長峰さんの気持ち』って、私がそう思うのなら、二人に話せと言うことだろうか。


支払いを済ませ、二人で店を出ると、冬の風が遠慮なく心にまで入り込む。


「風は完全に、冬ですね」


折原さんはそうつぶやくと、星が出ているから明日も晴れるだろうと、

何気ない会話に戻してしまった。





『鬼退治宣言の次の日』

長峰さんの気持ちで動いていいと言うのだから、社長や伊吹さんに全てを話して、

無駄なことは止めてもらおうかと思ったが、折原さんは、たとえ止められたとしても、

『コンスタン』へ出かける気がしてならなかった。

あの人は、決めたことをそう簡単に、曲げる人ではない。

それこそ、『退職届』でも、突きつけかねない。


でも、どういう言い方をしても、高梨さんに言いたいことを言えば、

反発されるのは当たり前で、二人が言いあいになり、別の問題が起こる可能性が高い。

それなら、ここで社長や伊吹さんに話を振ることよりも……

どこかにある『線』を越えないよう、私が見張っているべきではないか。


見張れるかどうか、あまり自信はないけれど。

でも……


同じデザイナーとしてなら、思いをぶつけることだって、許されていいはず。

ケンカではなくて、意見の交換。



……という枠に収まるだろうか。





「さぁ、行きましょう」


『鬼が島』宣言から2日後、私は結局、誰に話をすることもなく、

折原さんと事務所を出ることになった。




【45-4】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

≪Dressing 豆知識≫
漢字の『十』と『八』で合わせると『木』という字になることから、
10月8日は、『木の日』になっている。(昭和52年から)
ちなみに、108で入れ歯感謝デー・歯科技工の日でもある。

コメント、拍手、ランクポチなど、お待ちしています。(@゚ー゚@)ノヨロシクネ♪


コメント

非公開コメント