45 二人の戦い 【45-5】

【45-5】
『コンスタン』の最寄り駅では、改札の方向を間違えないように降りる。

あの日は、私の作品を受け入れてもらう、どちらかというといい話だったが、

今回は、小菅さんのことがあり、プレゼン辞退のことがあり、

先日とは正反対の話になるため、近さを感じるたびに、気持ちが重くなる。


「そういえば、折原さん、高梨さんにアポ取ったのですか」

「まぁ、取りましたよ」

「まぁ……って。本当に?」

「取りましたよ。行くのにいないのでは、交通費の無駄でしょう」

「でも、この2日間でよく……」


普通、約束は急に決められないだろう。

『コンスタン』は、『MARBLE』の仕事などもあり、忙しいはず。


「本当に取りましたよ。長峰さんとレストランで話をした日の午前中、
実は高梨から電話があったので」

「電話?」

「はい。『MARBLE』の仕事が動き出して、紗枝にも会うようになって。
紗枝が言ったそうです。会社の枠を乗り越えて、俺にデザイン協力を頼めないかと……」


デザインの協力……紗枝さんの提案。

高梨さんは、折原さんにそんなこと……


「それで……」

「関わるつもりはないと、言いました。当たり前でしょう。
よくこれだけのことが色々とありながら、平気で電話をしてくるなと、
呆れましたけどね」


確かに、小菅さんのことがあったのだから、

うちの事務所がどういう気持ちでいるかくらい、わかっているはず。


「あの夜、今日の午後、会えないかと、そう高梨に改めて連絡を入れました。
気持ちでも変えたと思っているかもしれませんが」


折原さんは、そういうと、

小さな犬が、窓越しに眠っているペットショップで足を止める。


「お前すごいな、この騒がしさの中堂々と寝ているなんて……」

「折原さん……」

「はい」


高梨さんが、折原さんに振った話しのことは何も知らなかった。


「ここまで着いて来ましたから。だからどんな話をするつもりなのか、
私には教えてください」


止めたいという感情を抑え、なんとかここまでついてきた。

せめて、どういう話をするのかだけでも、教えて欲しい。


「今、ここでですか」

「はい。歩きながらでいいですから」


気持ちの準備。そのつもりで話を聞こうとしたが、

折原さんは、私の左手をそっと握ると、力強く手を引き、前へ進んでいく。


「あの……」

「大丈夫ですよ、心配しないで。俺はごく普通の常識人ですから」

「折原さん……」

「長峰さんに、ここでわざわざ話をするのは、二度手間です。
申し訳ないですが、あの男と一緒に聞いてください」

「いや……でも」


和やかな話にはなりそうもないので、余計に心配が積み重なる。

折原さん、高梨さんに何か言い出すに違いないが、どう話をするのか、

それが全く見えてこない。


「最初に言ったとおり、デザイナーとして、話し合うだけですから……」


『語らない』。

そう折原さんが決めている以上、どう聞いてみても、語ってくれることはないだろう。

一緒に行くと決めたのだから、信じてそばにいようと、

そう何度も自分自身に言い聞かせた。





最後の曲がり角のところで、折原さんが急に立ち止まった。

私もその動きにあわせて止まる。

折原さんの視線は、左右に上下、ゆっくりと動いた。


「はぁ……これが先端のデザインなんですかね。目を引けばいいと思っているだけで、
子供のブロックですよ、本当に」


『ブロック』

『コンスタン』の家具は、雑誌などでシャープなものと評されることが多い。

余計なものはとことん排除し、価格も落とす。


「……折原さん。デザイナーとして話をしに来たのですよね」

「そうですよ。デザイナーとして『鬼退治』に来ました」


折原さんはそういうと、また歩き出した。

自転車に乗った女性が、ベルを鳴らして前を通っていく。

折原さんがインターフォンを押すと、以前と同じ女性の声が戻ってきた。

20秒ほどで扉が開き、二人揃って頭を下げる。


「『DOデザイン』の折原と長峰です。高梨社長は……」

「はい。今こちらに戻る途中だそうです。どうぞ」

「失礼します」


今日も高梨さんは留守だった。

社長と来たときと同じように、中に入る。

デザイナーたちと高梨さんを結ぶデザインルームには、

今日は一人だけ仕事をしている人がいた。

出版社名と『FREE』の文字。あの人がこの仕事を担当しているのだろうか。


「こんにちは」


私が挨拶すると、その男性は、目だけをこちらに向けてくれた。


「あ……どうも」


タイミングがずれた、全く気持ちの入っていないような返事をされる。

この人は、あまり愛想のいい人ではないらしい。

折原さんは前を通り、以前待たされた部屋に入ると、窓のそばに立つ。


「中に入っても、熱いのか寒いのかもわからないような、温度がない場所ですね」

「……折原さん、向こうのデザイナーさんに聞こえます」

「いいじゃないですか、聞こえても。違うと思うのなら反論してくるでしょう。
長峰さんも気を抜かない方がいいですよ。ここはすでに『鬼が島』ですから」


『鬼が島』


「わかっています」


さっきの人は、挨拶の仕方を見ても、私たちに興味がないように感じられた。

おそらく、折原さんの言葉が聞こえても、それに反論はしてこないだろう。

とりあえずソファーに座らせてもらうと、窓の外を見る折原さんの方を向いてみた。




【45-6】


《 Dressing人物紹介&豆知識 》

≪Dressing 豆知識≫
漢字の『十』と『八』で合わせると『木』という字になることから、
10月8日は、『木の日』になっている。(昭和52年から)
ちなみに、108で入れ歯感謝デー・歯科技工の日でもある。

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